My Private Sunday

<< AM 8:30 >> 起床。

 体質的にいくらでも眠れるタイプではあるが、長時間を延々と眠れるというのではなくて、
一定時間毎には目が覚めるのでそれから寝直すことが多い。
 目覚めた体勢のままで視線だけ動かしてビデオデッキの時計表示を眺めれば、休日の朝と
しては多少早く感じるような時間だった。トレーニングは毎日欠かさずという勤勉さがない
京にとっては、面倒臭ければ止めるという朝の気分次第だ。その代わりに、気が向きさえす
れば例え雨の中でも身体を動かしているのだが。
 運動する気力は湧かなかったので、眠っている間は気にならなかった剥き出しの肩をもぞ
もぞと暖かい布団に潜らせる。このまま寝直そうかとも思ったが思考が冴えてきているので
起きた方が無難だと判断した。
 寝過ぎると頭痛がするし。
 単にそんな事が直接の理由ではあったけれど。



「朝メシ、どうしようかなぁー」
 冷蔵庫の中を覗いてみても、男の一人暮らし故に飲料系のものしか入っていない。
 シンクの方に視線をやっても台の上にはカップヌードルが2つあるきり。
「絶対に足んねぇ…」
 それを眺めながら溜め息を吐いて諦めて、顔も洗わぬまま近所のコンビニへ出かける為に
ジーンズに足を突っ込む。
「あ、牛乳買ってきてアレやろう」
 買い置きのカップヌードルがシーフードのものである事を確認して、一人で納得しながら
部屋を後にした。





<< AM 11:45 >>

 最後の自機を撃墜されて、暗転した画面には大きく「GAME OVER」の文字が表示されて
いる。
「あぁ〜…」
 がくーっなどと声に出しながら手にしていたコントローラーを投げると、胡座を解いて
畳の上にだらしなく寝転がる。何気なく目に入った時計が昼近いことを教えていて、習慣
的に身についている一日三食の法則に従って何を食べようかと思考を巡らせた。
「…朝、コンビニで一緒に買っときゃ良かった」
 そうは言っても事実上、現在の自分の部屋に食べ物がない以上、食事をするのならば、
部屋で食べるにしても外食してしまうにしても外にでない事には始まらない。
「めんどくせぇ〜」
 そうは言いながらも「食べない」という選択肢は京の中には存在していなかった。
「コンビニ行こっかなー。駅前のモスにしよっかなー」
 決断できないままに部屋を出る。
 最短のコンビニと駅では方向が逆なので、アパートの階段を下りきるまでに決めなけれ
ばならない。

 さて、どっちにしよう?





<< PM 6:53 >>

 結局、駅前のファーストフードで食事をして、それからその後ゲームセンターで遊んで
いたところを矢吹真吾に捕まり、しつこくせがまれるのに辟易して自分の身体を動かすつ
いでに筋トレに付き合ってやった。
 夕方には塾があるとか言って慌てて走り去った真吾に呆気にとられつつも怒る気も起き
ない。ちょっと迷惑な押し掛け弟子の真吾に、自分の「悪癖」まで見習って欲しいなどと
は京も思っていない。けれど、京の留年に関して言えば成績云々ではなくて出席率だけが
毎回問題になっているのだが。
 汗を掻いたついでにそのまま少し運動していたが、春に向かう冬とはいえ日が傾き始め
ると直ぐに暗くなる。
 時計を確認しなくても今が夜なのは判る。
 さて、晩メシ、どうしよう?
 なんか食べる事ばっかだなーと自分に苦笑しながら、今回は身体を動かした所為と昼が
パン食だった所為で本当に空腹感を感じている。
「……………流石に三食ひとりで食うのも味気ないよなぁー」
 そう思うと真っ先に浮かぶ人物の貌がある。
「急に行くと怒るしなー」
 例え連絡を入れて行ったとしても怒るんだろうと思うのだが、たまには事前に連絡して
みようかと放置して置いた上着のポケットから携帯を取り出す。
 アドレス帳を呼び出す指先が一瞬迷った後に、相手の携帯電話の番号を選択した。
 ワンコール、ツーコール…。
 相手が出るのを待ちながら数えた呼び出し音が7つめになった時、規則的に聞こえてい
た呼び出し音が途絶えた。
『…なんだ?』
 相手を確認する作業を省いた会話の開始に、思わず「らしいよ」と苦笑が零れる。
 相手の携帯を勝手に弄って登録した自分の番号から、液晶に自分の名前が表示されたん
だろう事が予想は出来る。
 が、それにしても…。
『京、用がないなら掛けてくるな』
 呆れたようにそう言われて我に返る。
「お前、ドコにいんの?」
『家に居るが?』
 それがどうしたと言いたげな胡乱げな声音に苦笑する。別に警戒しなくてもいいと思う
んだけどというのは仲良くしたいという京の願望からなのか。
「晩メシ、もう食った?」
『こんな時間に食べてるワケなかろう?』
「今、何時?」
 電話を掛ける時にも時刻は確認しなかった為、現在の正確な時間は把握していない京が
尋ねると、時計を確認しているのか僅かな間があった後に『7時を過ぎたばかりだな』と
答えが返った。京にとっては相手がまだ食事が済んでいないという事がポイントであって、
時間は何時だったとしても別に構わなかったのだが何となく訊いてしまった。
「ふ〜ん? じゃ、メシ食いに行こう」
 だから、相手にしては突然だろうが、そう誘いを掛ける。
『………今からか?』
「そう。今から。オレ、迎えに行くし」
『ならば此処で食えば良かろう』
 そういう相手に「それは違うんだなぁ〜」と言っても庵には何の事だか判らないだろう。
単に今の京の気分的な問題なので。今は食事を楽しみたいのであって、その後の後片付け
などをさせたくないし、自分がしたくもない。
「あ!オレ、今、汗まみれだから、そっち着いたらシャワー貸してくれ。その間に仕度が
出来んだろう?」
 勝手に進む段取り決めに諦めがついたのか、態とらしく長い溜め息を吐いた後『判った』
と短い返事があった。
「じゃ、15分くらいでそっち着くから」
 そう言って電話を切る。
 ジョギングがてらに走っていけば、おそらくもっと早めに到着出来るだろう。
 食事は楽しくなければ美味しさも半減だよな。
 庵が聞いたなら「ならば俺を誘うな」と言い出しそうな事を思って、上着は羽織らずに
手に持ったまま走りはじめる。
 規則的に呼気を履きつつ、楽しい夕食を思って京はにっこり微笑んだ。
初出 : 2000.01.22
 何でしょう…。本当は庵本人は出てこないハズだったんだけど。
 ん〜と、日常的にふと「あぁ、あいつと一緒なら良かったのにな…」ってシーンを書こうかな…と思ったんだが…。 なんか失敗? …つーか、今年の正月の自分を思い出すんだけど、コレ。(苦笑)
 相変わらずラブラブ(本当か?/笑)なウチのお二人でございました。お粗末!

| INDEX | BACK |