紫苑はゆっくりと目を開ける。あまりにもリアルな夢のせいか、現実と夢の境目がわからなくなる……少しだけ。
大丈夫、あれは夢。だから、あんなことはあり得ない。
紫苑は自分にそう言い聞かす。
それでも、涙だけは止めようがなくて。
「……真砂ぃ、何処ぉ……?」
夢なのに。あれはすべて夢なのに。なのに何故……真砂がいないと思うのだろうか。何故、あの夢を否定しきれないのだろうか。
「逢いたいよお……っ」
紫苑の両目から、さらに涙があふれ出す。涙を止めようとは、もう思わなかった。
不意に、トントン、と部屋のドアがノックされ、紫苑の母が部屋に入って来る。
「紫苑、起きて……どうしたの?」
彼女は、紫苑の涙を見て驚き、そして問うた。
「母さん、真砂、何処? 何処に行ったのぉ……!?」
紫苑は彼女にすがりつきながら言う。
……さっきの夢を、否定して欲しくて。
もう、頼れるものが他にはなくて。
このままじゃもう……きっと立てなくなるから。
「……真砂君、昨日亡くなったじゃないの」
彼女はそんな紫苑の胸中を知らずに、紫苑をなだめるかのように背中をさすりながら言う。紫苑は反射的にその手をはらった。
「嘘だっ! 真砂、なんでいないの? 真砂、何処に行ったの……っ!?」
「紫苑……」
彼女は、ようやく理解する。
紫苑は、真実を曲げたのだ。紫苑にとって、真砂はまだ生きているのだ。
彼女は苦しそうに目を細める。
紫苑が現実を理解するとき、一体どうなるのだろうか。最愛の人の死に、どこまで耐えられるのだろうか……すでに一度、狂っているのに。
彼女はしばし悩んで、そして覚悟を決める。
いくら苦しくても、現実は曲げられないから。
「紫苑、真砂君の家に行こう。真砂君が何処に行ったのか、聞きに行こう」
彼女はおよそ感情のない声で言う。
紫苑は顔をあげ、彼女の顔をじっと見つめた。
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