11.
短い練習期間のあと、定期ライブをしていた土曜に追悼ライブをすることになった。
曲数は三曲。とても少ない、と思うけど、それが全てだった。
拓が、あたしの詞に曲をつけたものと、あたしが望さんに頼んだ曲と。
それしか、なかったんだ。
不思議と、緊張はしなかった。
拓が、どこかで見ていてくれているような気がした。
スタートは、レクイエムから。
望さんと宏伸くんと雅樹さんが、すでにステージに立っていた。
(あいつは何も言わなかったけど)
楽屋で聞いた、望さんの言葉が、頭の中で反芻してる。
(あいつはそれでも美奈ちゃんのこと)
『知ってる人もいるかもしれないけど……五月三十一日水曜日、夜中に拓が……亡くなりました』
望さんのMC。嘘、と呟くような声が、客席から聞こえてきた。
嘘。どうして。
『今日は、拓のための追悼ライブをしようと、決めました。練習期間が短くて……付け焼き刃みたいになってしまうかもしれないけど。これからは、このメンバーでやっていこうと思います。
新・SKYボーカル、春日美奈』
え、誰? という声の中で、あたしはステージに出た。
「なんで……!?」
「望か誰かが歌うんじゃないの!?」
客席の、ざわめき。
それもそうだろう。あたしもその場にいたら、そう言っていたかもしれない。
「ちょっと……っ、やだよっ! 誰なのよあの女! なんで……なんで拓の代わりなの!?」
ライブ見に来た女の子たちの声。
哀しみが伝わって……痛い。
『聞いて欲しいんだけど……』
望さんが、マイクを通して言う。客席のざわめきが静まった。
『拓が望んだことなんだ、これは。それに、彼女は部外者じゃないから……拓が何度か言ってたけど、新しい仲間だから。……文句は、言わせないよ』
望さんの言い方は、冷たいかもしれない。
「だけど拓の代わりなんて……女なんて……!」
涙声が聞こえる。
……あたしが男なら良かったのかな。
『それでも……』
あたしは、気づいたら目の前のマイクに向かって喋っていた。
(それでもあいつは、美奈ちゃんのことが)
『あたしは、あたしがやるしかないって、思ってるから。望さんも言っていたけど、これは拓が望んだことだから……あたしは、それを叶えたい。
だから、歌わせてください』
(美奈ちゃんのことが、好きだったよ)
頭の中に響いている望さんの声に重なるように、雅樹さんがドラムを打った。
どんなに嘆き哀しんだって
容赦なく 朝はやってくる
全ての人の上に 僕の上にも
とても長い夜が来ても 必ず 明ける
忘れはしないさ
君がいたこと その証も
どこまでも飛んで行け
君の目指す夢も追い越して
君のことばは 僕が継いで行こう
いつか君の大事な人が
君に愛していると 伝えられる日まで
どんなに泣いて過ごしたって
間違いなく 朝はやってくる
全ての人の上に 僕の上にも
とても辛い夜が来ても 必ず 明ける
忘れはしないよ
君がいたこと その証も
どこまでも飛んで行け
君の目指す夢も追い越して
君のことばは 誰も忘れないさ
いつか君の大事な人が
君に愛してると 伝えられる日まで
忘れはしないさ
君に逢えたこと その喜びを
どこまでも飛んで行け
君の目指す夢も追い越して
君のことばは 僕が継いで行こう
いつか君の大事な人が
君に愛していると 伝えられる日まで
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