SKY −手の届く場所−

   12.

 あっという間に、一年がたった。
 みんなの集まる場所が、拓の家からあたしの家に変わって、定期ライブも毎回こなして、拓が作っていた曲にあたしが詞をのせたりあたしの詞に望さんが曲をつけたりして。
 だけど、変わったのは、それだけ――だと思う。


 今日は、一年前に拓と知り合った日。


「っはよーございまっす」
 練習用のスタジオの、ちょっと重いドアを明けると、あたしはいつもあまり遅くないほうなんだけど、すでにみんな揃っていて。
 ……その上、ひとり多い。誰?
「ボーカルの春日美奈さんですね?」
 その人はにこやかに挨拶をしながら、あたしのほうへ来る。そして、小さな紙を渡されて、あたしが条件反射的にそれを受け取って、見てみたらそれは名刺だった。
 レコード会社の。しかも、そこそこに知れた名前の。
「今、皆さんにもお話ししていたんですが、結論はあなたに委ねるということでしたので」
 話がみえない。何を言ってるんだろう、この人は。
「単刀直入に申しましょう。あなた方は、弊社でCDを出す気はありませんか?」
 ……は?
 その人は、他にも何だか言っていたけど。あたしの耳には、あまり入ってこなかった。
(CDを出すって)
 ……メジャーデビューするってこと?
 そんな大事なことを……あたしが決めるの!?
 あたしは助けを求めるかのように望さんを見る。望さんがバンドリーダーなんだけど。
 あああ……駄目だ、本気であたしの答えを待ってる……。
「……いくつか条件をのんでもらえるなら……その話し、ありがたく受けさせていただきます」




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