1.
「えー、じゃあ今年の学祭のメインは、SKYのライブ、ということで決まりましたので……」
当日会場がどーのこーの、という言葉は、もはやあたしの耳には聞こえてきてなかった。
(SKY)
来るの? マジで?
信じられなかった。
だって、あんな……別の世界の人に、逢えちゃうんだ、もしかして?
(本当に?)
今すぐ誰かに、嘘だよって言われてもおかしくないと思った。
そんなこと、あって当然だと思った。
あたしの頭の中にだけパニック起こして、だけどこの学校祭実行委員会がまともに過ぎてくのが、なんだかちょっとおかしかった。
※ ※ ※
――じゃあ、「本音でトーク」、次は佐山宏伸くんです。
――どーもー。
――あらあら? なんだかいつもより元気がないみたいだけども?
――いや、滅茶苦茶緊張してんっすよー。ってか、何? この「本音でトーク」って、まんまのコーナー名(笑)?
――わかりやすくていいじゃないですか(笑)。
――わかりやすすぎ(笑)。
――すみませんねえ。私が考えたのよね、これって。
――そうなんですか? ゴメンナサイ。
――いえいえ。えーっと、それじゃあまずはラジオネーム宏伸ラヴさんからの質問です。
「SKYのみなさん、特に宏伸くん、こんばんは」
――こんばんはー。
――「いきなりですが、宏伸くんは好きな人がいますか?」
――うわ、マジいきなりっすね(笑)。
――さて、本音で言ってもらいましょうか。
――うっわ、キツ(笑)。えーっとね、残念ながらいません。
――恋愛なし?
――そう、なし。全然。
――そうなんだ。こんな質問もきてますが。匿名希望さんから、
「宏伸くんと文月拓さんがラーブラブ、との噂があるんですが、真相を教えてください」
――え、何それ? 噂ってどっから流れてんの?
――どっからなんでしょうね?
――怖いなあ。彼女とはいい友達ですよ、本当に。
――「本音でトーク」、ですよ?
――本音ですってば(笑)。ってか、なんでこんな質問ばっかりなの、俺?
――一番気になるからじゃないですか?
――えっ、そうなの? なんで俺ばっかり?
――別にこちらでこういう質問ばかり選んでるわけじゃないんですよ?
――いや、わかってますよ(笑)。
――じゃあ、恋愛話はおいといて。ラジオネーム空さんから。
「今一番楽しみなことは何ですか?」
――あ、それね! いーい質問ね!
――おや、なんか嬉しそうですね? いいことあったのかな?
――そりゃもう。えーっと、今年の夏にですね、俺たちの地元の札幌の、なんと高校で学祭ライブをやるんですね。
――高校で、ですか。珍しいんじゃないですか?
――珍しーと思いますよ。特別に決まったことなんで。普通ないんじゃないのかなあ?
――高校の、ってことは、一般の方はどうなるんでしょうねえ?
――それはもうちょっとしてからのお楽しみ、ってことで。今、まだ企画段階なので。
――そうですか。楽しみですね。
それじゃあ、バンドのメンバーからの、「佐山宏伸くんへの一言メッセージ」を頂戴しております。
まず、リーダーの三塚望さんから。
「のぞみちゃんって呼ぶのはそろそろやめてくれ」
――あはは(笑)。のぞみちゃんはのぞみちゃんですね。
――次に、叶雅樹さんから。
「リハ中にベースにあたらないように」
これはどういうことですか?
――俺ねえ、何かあるとついやっちゃうのよ、リハ中にベースをギャギャギャーンッ、とこうるさく弾くの(笑)。でも、休憩中にしかやってないんで、見逃してください(笑)。
――最後に、文月拓さんから。
「前から言ってるけど、そんなに軽いことばっか言ってると誰からも本気にとってもらえなくなっちゃうよ?」
これは?
――いや、俺の言うことって、そんなに軽いですか? ナンパ野郎かなあ?
――そこがいい、というファンの方も沢山いますが。
――あ、軽いんだ?
――あはは(笑)。
――まあ、俺も前から言ってるけど、これは俺のテレ隠しなんで、勘弁して下サイ。
――「本音でトーク」、照れ屋さんな佐山宏伸さんでした。
――照れ屋さんって(笑)。
――ではここで、リクエストの多かったこの曲をおかけします。SKYで、「MOON」。
全国放送のラジオ。今日のスペシャルゲストがSKYだってのは知ってたけど、こんなに宏伸くんの声が聞けるとは思ってなかった。
(本音でトークったって、マジで言える質問してないじゃん)
数も、三つだけだし。
聞いていい質問と、そうじゃないのがあって。
なんでギターが打ち込みで人いないのか、とか。
なんでボーカルの文月拓だけ本名じゃないのか、とか。
なんでメンバーがボーカルのことを固有名詞で呼ばないのか、とか。
そういうのは、ファンクラブの中でもトップシークレットで。
インディーズの頃からのファンは知ってるらしいけど、きつく口止めされてるらしい。なぜだかは不明。
でもとにかく、あたしたちみたいな一介のファンが知れることではないんだろう、きっと。
「やっぱ遠いじゃん」
こっから先は絶対に入ってきちゃ駄目だよって、線がある。当たり前に。
最初からあの人たちは……あの人は、自分とは別世界の人。
「全然遠いじゃんかよー……」
|