2.
そもそもからして、あたしがSKYのファンで佐山宏伸くんの大ファンだってことは、うちの家族以外誰も知らないんだよね。
だってあたしはとっても真面目な優等生、だから。学校では。
なのであたしはあくまでもポーカーフェイスのまま、学祭の企画書に目を通した。
……結構とんでもないこの企画、発案したのは他ならぬSKYのメンバーだったらしい。
本気かっ!? どこの世界のメジャーシーンで活躍してるバンドが、たかだか高校の学祭のためにスケジュール丸二日空けて、次の日に札幌でライブなんかしてくのさ!?
(たかが高校)
SKYの宏伸くんと望さんがこの高校の出身である、ということなら当然あたしも知ってはいるけども。
企画書――一日目。
生徒全員参加による「我慢大会」と、「カルトクイズ」。
内容。SKYのメンバーが学内を歩いている間、全校生徒がどれだけそれを無視できるか。つまり、SKYのメンバーがいても、他の生徒たちに対すると同様の態度でいなきゃいけない。(それってつまり、みんなして学祭見てみたいだけなんじゃ……?)
勿論、追っかけなんかは絶対に駄目。違反者は見つけ次第、学年・クラス・出席番号・氏名を係員に聞き出される。そして、最後までクリアした人たちの中から抽選で十名に――札幌でのライブ無料招待券プレゼントぉぉっ!?
そ、それから、一時間に一度出題されるカルトクイズに全問正解した人にも、勿論ライブの招待券。
……ある意味凄すぎます……。
そして、二日目には、午前と午後の、二回のライブ。これは、体育館に全生徒入れると、逆に危ないかも、ということで。
でも、入場者数の制限はしないので、どーしても見たい人は入ってもいいんだけど、自分のクラスの番じゃない時は、後からの入場、ってことになってる。多分、不公平ないようにだろう。そりゃ、ファンなら誰だって前で見たいさ……。
「それじゃあ、当日の係を決めます」
議長が会議を進める。
でも、大変だろーなあ。我慢大会中は、SKYのメンバーに集る人を見張る、という名目で、堂々とSKYについて回れるし、当然ファンはそれをしたいだろーから、なんだか凄い倍率になりそう。それをまとめなきゃいけない議長が、大変。
ま、あたしには関係ない。
本音を言うなら、そりゃもう当然やりたいけども! 立候補するわけにはいかない。ファンなのは、あくまでも隠してんだから。
(でも、さすがに羨ましい……)
そして当然かのように、SKYに関する係は、凄く凄く……もお大変なことになっていた……。
書記が立候補者を全てメモったあとで、議長が確認をとった。
「他の人は、SKYとは全く関係のない仕事をしてもらうということでいいですか?」
興味がないのかなんなのか、部屋に響くのは肯定の意を込めた沈黙のみ。
「わかりました。では、他の係に関しては後日決めるということで。SKY関係の係に関しては、ちょっと残ってもらって今日のうちにクラスでの演目の時間等確認してからスケジュール決めたいと思います」
あたしクラスのほう出なくてもいいー、とか、そんな声が飛ぶ。そーだろーな、本当はあたしもそう思うよ……。
「あ、それから、言ってなかったけど、当日SKYの案内役を一人つけます。その方は申し訳ないですが、丸二日、SKYの方々と行動してもらいます」
なんじゃそら。お世話係か。狡いぞ羨ましーぞあたしにやらせろ。
えー、いやーっ、あたしやりたいそれっ、なんてもう本当に色々な声が飛ぶ。いーのか議長、こんなのにやらせて?
「しーずーかーに。この係は……そうだなあ」
議長はなんか書類を確認してから……え、え、ちょっと待って、なんであたしと目が合うの!?
「二年C組の瀬戸さん。よろしく」
はいいっっ!?
「いや、だからね? ああいう子たちにやらせるわけにはいかない仕事でしょう、これは?」
なんだってそんな仕事があたしに回ってくるんだ、と委員長に直訴しに行ったあたしに、委員長がすんなりと答えてくれる。
「仕事放り出して目茶目茶ファン的行動されても困るし。だからといって仕事投げられんのも困るし。だから、ファンにはさせない、だけど真面目な子にやってもらう。以上の条件を満たした上で決まったことだから」
「でも、困りますよ。あの子らに何かされそうで怖いんですけど、あたし」
「あ、それ大丈夫。職務怠慢及び他の実行委員に対しての職務妨害は、有無を言わせずライブ招待券没収だから」
……手回し良すぎ。
そう、今回特別に……学祭の実行委員にもライブの招待券がなんと全員分まわってきてるのだ。……太っ腹すぎ。
「で、でも……他の生徒から何かされたら……」
「その件については、我慢大会の係の人があなたの分もちゃんと見張ってくれることになってるから。何かあって、それを見逃していた場合は、職務怠慢ってことで」
……本気で手回し良すぎ。
「でも、困りますよー……」
本当に困るんだよ……嬉しくて。
「こんなに頼んでるんだから、引き受けてよー。適任者、瀬戸さんしかいないのよー。それでなくても、SKYってばノーギャラでこれやってくれてんのに、こっちで不手際あったらもうこんなチャンスなくなっちゃうのよう。おーねーがーいーっっ!」
委員長が拝み倒して……って……へ?
「ノーギャラなんですか?」
妙なことを気にしてしまうあたし。
「そりゃそーでしょ。どこの高校に、SKYなんつー、結構大物なバンドを呼べるだけの予算を学祭にまわせちゃうとこがあんのよ? だから『特別』で『スペシャルゲスト』で、かなり気ぃ遣ってんじゃないのようっっ!!」
……そらそーだ。そら確かに気ぃ遣うわ。
ってゆーか、どんな取引があったんだ、SKYとうちの学校で?
「だから、ねっ? 身の安全は絶対に保証するから、お願いっ!!」
「……わかりました」
断りきれないことがわかったので、あたしは仕方なく頷いた。
しかし。
…………身の安全って…………。
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