2.
『あのね……それって誰が事務所に言うの?』
朝食後、望にライブのお誘いの電話をかけたら、こんな返事が来た。
「勿論、望」
『勿論って、あのねえ……』
溜息ひとつ。
『ハードビートカフェだって、今日いきなりやらせてください、って言われたって困るでしょ?』
「そこんとこは和実さんのコネでなんとか」
『コネって、あのねえ……』
溜息、ふたつめ。
『……ま、いーけどね。やっても』
「は?」
案外簡単に出てきた返事に、思わずあたしが聞き返してしまう。
『だから、いいけどね、って。どーせ事務所には言ってあるし。ハードビートカフェの方にも、実は言ってあったりするし。シークレット、やらせてくれって』
「……は?」
『札幌、土曜日、拓の命日。これだけ条件が揃えば、誰かがそんなこと言ってもおかしくないだろ』
さも当然のように望が言うから。
あたしはもう、泣かないように精一杯我慢しながら言うしかなかった。
「……ありがとう」
『じゃあ、これから雅樹連れてそっち行くから。宏伸にもそこにいろって言っておいて』
「了解です」
通話終了。したとたんに、電話の声が聞こえていたらしく、横で宏伸が溜息をついた。
「のぞみちゃんも用意周到ですこと……」
「だよね、本当に」
「知ってる? のぞみちゃん、俺と雅樹に今日一日空けておくようにって言ってたんだぜ?」
「……は?」
「てっきりみんなで墓参りにでも行くのかと思ってたのに……そーゆーことなのね、みたいな」
「じゃあ、もしかして条件揃ったからライブやりたい、とか言い出すと思われていたのって……」
「そんなん美奈以外に誰が言うの?」
……そーかなあ、他にも言ってもおかしくない人が……いないかな、やっぱり……。
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