3.
「でさ、シークレットはいいけど、あまりにも練習時間なさすぎじゃないの?」
早速やってきた望が、靴を脱ぐのももどかしそうにそんなことを言った。後ろには雅樹がいるけど、ここの玄関は狭いので、二人同時に入ることはちょっと難しかったりする。
「どの曲やるかも考えなきゃいけないし、さすがにゆっくりはしていられないと思うんだけど」
「あのさ、一応念のために聞くけど、練習はどこでやるの?」
宏伸が、少しも不安なんかない感じで聞く。
「オープン前のハードビートカフェ。話はつけといてあるし、もう和実が向かってる。準備しといてくれるってさ」
「本当に用意周到だよね、のぞみちゃんって……」
やっぱりね、って感じで宏伸が言うから、きっと返事も予測済みだったんだろう。
「じゃあさ、行きながら話そうよ。そっちのが早いよね?」
あたしからの提案。だって、歌いたい曲なら、もう決まってるから。
「ちょっと待って、折角靴を脱いだ俺の立場は?」
「あんましないかも」
情けなさそうに聞いてきた望に、きっぱりはっきり答えると、望が溜息をついて、後ろで雅樹が笑った。
望がもう一度靴を履いている最中に、あたしは出かける準備をささっと済ませてしまう。とはいえ、ただ鞄の中に持つ物を全部つっこんだだけだけど。
「じゃあ、車出しておくから」
望はそういうと雅樹と連れだって先に行く。
「なんでこんな忙しないオフを過ごしているんだか……」
靴を履きながら宏伸が言う。
「でもさ、わくわくするよね?」
あたしが聞くと、宏伸はあたしをチラッと見て、ニヤッと笑った。
そうだよ、わくわくしないヤツなんかいないよ。何年かぶりの、地元でのしかもライブハウスでのライブなんて。
わかってんだよ、そんなこと。
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