序
ちりんちりんちりん……。
鈴が鳴る。風が、吹いているから。
「どこに、行ったの……?」
気がつくと、独りだった。
暗闇の中響く声は、時間の流れすら感じさせない。
ただ、微かに鳴る鈴の音が、空気が流れていることを感じさせる。
時間が流れていることを、感じさせる。
「だれもいないの?」
少しだけ、声をはりあげる。だけど、それに答える声はなくて。
(これって、泣いてもいいのかな……)
漠然と、そんなことを考えて。
「……ちがうもんっ。泣かないもん。こんなことくらい平気なんだから……」
呟くように言った言葉は、虚勢以外の何ものでもなかった。
「こんなことくらい、だいじょうぶなんだから……っ」
涙声でそう呟いたとき、だった。
「誰かいるのか?」
ガラッと音を立てて瓦礫が崩れ、そこから光が射し込む。そしてそこに、一人の影。
「だれ……?」
「おいで。僕も独りなんだ。一緒に行こう」
どこへ、とは聞くまでもなかった。
一緒に行こうと言ってくれる、ただそれだけで。
――見えるのは、さしのばされた腕。
「僕はソル。君は?」
問いに答えたとき、彼は自分の手をさしのばされた手に重ねていた。
「……アレフ」
あるとき、世界を銀の光が包み込んだ。それが魔法の力だと気づいた者も、またそうでない者も、その光の前に為す術もなく消えていった。その中で奇跡的に――幸か不幸かは別として――生きながらえた者は、その原因を永く待つことなく知ることとなった。
ハーフエルフによる魔力の暴走、がそれである。
いつからか、人知れぬ森の中に一つの集落が発生した。その村の構成員に共通する点は、ただ一つ。その村は、ハーフエルフのみによって構成されていたのだ。
そこに住まうハーフエルフの長老たちが人間にもエルフにもない力を求めた結果、暴走し世界を破滅へと導いたのである。
その原因を知った人間の一部は、ハーフエルフを危険因子と見なし、駆除に乗り出した。ハーフエルフ狩りである。
そのため、世界は更なる混乱を招いたのであった。
第1章
「ソルー、ソルソルソル、ソルってばーっ」
ずだだだだーっ、と思わず言ってしまいそうになるほどに勢いをつけて走り込んできたアレフは、ソルの部屋のドアを思い切りよく開けた時点で立ち止まった。
「あのねえ、アレフ。何度も連呼してもらわなくてもちゃんと聞こえるんだけどね、僕は」
ソルは仕方なしに読んでいた本を閉じ、溜息を盛大についてからそう切り出す。
「だって俺、どうしてもソルに……」
「だいたいね、アレフには自分がハーフエルフだって自覚あるの? どこにハンターがいるかわからないんだよ? それなのにそんなに走って、もし被っているフードが飛んだらどうするつもり? 耳が出たら、すぐにばれるだろうに」
「だって……だってえ……」
アレフは何も言えずに、そこで黙り込む。約十秒ほどの沈黙の後に、ソルがまたしても盛大に溜息をついた。
「で? 今度はどんな用事なの?」
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