回りに人の気配がする。しかも、大勢の。賑やかそうな……。
(お祭り?)
アレフはふとそんなことを考える。
頭がボーッとしている。前後関係がよくつかめない。お祭りなんか、あっただろうか……。
(街を歩いてたときはそんな感じしなかったはずで……)
宿屋に入ってからも、そんな情報は入って来なかった。
(……宿屋!?)
アレフはそれで一気に思い出す。
宿屋で食事に薬を盛られて。それから何人かの足音と。
それから。
(レイネ!)
レイネはどうしただろう。彼女も一緒に連れてこられたのだろうか?
アレフは重い瞼を無理矢理開ける。少しずつ晴れる視界に映るのは、どこかの倉庫のような場所。意識がはっきりしてくるにつれ、遠くから聞こえる声に気づいた。
はっきりとは聞こえない。が、その声が伝える内容は。
(……やばい……)
まさかこんなところに連れ込まれるとは思ってもいなかった。ハンターの根城の方が、まだマシだったかもしれない。
(人身売買だ……)
話には聞いたことがあった。あくまでも『話』の域を出ないはずだったのだが……。
まさか、自分の身に降ってこようとは。
(とりあえずレイネを……)
そう思って、あたりを見回そうとしたそのとき。
「ここか? 例のガキ二名がいるのは」
ドアの向こうから、そんな言葉が聞こえてきた。アレフはとっさに寝ているフリを決め込む。
「ああ、ここだ」
「どれ……はっ、幸せそうな顔して寝てやがるぜ。この分なら大丈夫そうだな。会場の様子を見に行こうぜ」
「そうだな。こいつらを出すのはまだ先だしな」
そして、遠ざかる足音。それが聞こえなくなってから、アレフは体を起こした。レイネは少し離れたところに、簡単に見つける。アレフはその側に近寄った。
「レイネ……起きて、レイネ」
小声で話しかける。レイネは少しうるさげに眉をひそめて、それから目を開けた。
「なあに、アレフ……」
「静かに、声を小さくして」
「どうしたの?」
レイネは怪訝そうに、しかし言われた通り声を小さくして問う。それからやっと気づいたように、あたりを見回した。
「……何処、ここ?」
「わからない。でも、やばいみたいなんだ。どうも、人身売買にかけられるらしいよ、俺ら」
「じっ……!?」
「しーっ!! 静かにってば!」
思わず大声を出しそうになったレイネを、小さな声でアレフが叱りつける。
「なんでそんなに落ち着いてるのよ!?」
レイネが声を小さく戻して問う。
「落ち着いてないよ、びっくりしてるよ、俺だって。でも、そんな場合じゃないだろ」
「どうするの?」
「とにかく、ここから脱出しなきゃ。立てる?」
「うん、大丈夫」
アレフはレイネの返事を聞いてから、あたりをもう一度見回す。
天井が高い。上の方につけられた窓には、手も届きそうにない。台になるようなものもなし。かといって、ドアから出ることは多分無理だろう。
となると、やはり窓から出るしか策はなさそうだ。
「あの窓から出よう、レイネ」
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