ミュージアム 小説

鎖−本当の心−
ミュージアムへ戻る

気づくと、僕は何もない空間に一人でたたずんでいた。
そして、声が聞こえた。僕を呼ぶ、聞き覚えのある声が…。
「………リオ…。エミリオ…。」
――誰だ……?
「僕だよ。エミリオ…。」
――その声は…シャル?
なんだかその声が懐かしく聞こえた。
僕が声に向かって聞き返すと、銀の髪を持った男が現われた。
見たことのない…男が。
「誰……?」
「ふふ。さっき君が当てたじゃないか。」
男はにっこりと笑う。その声はまるで相棒だったソーディアンと全く同じだった。
「まさか…シャル?お前がシャルティエなのか?」
そうだよ、というように彼は首を縦に振る。
「よく思い出して。辛い事ばかりじゃ…なかったよね。エミリオ。」
僕の脳裏にやつらとの旅の思い出や、マリアンとの思い出が走馬灯の様によぎった。
ルーティと毎日の様に喧嘩をしたこと。
マリアンと一緒に過ごしたこと…。
シャルティエとの出会い…。
それと……
数え切れないほどの…たくさんの思い出だった。
――辛い事ばかりじゃ…なかった……?
「確かに…そうかもしれない。」
シャルティエは僕の眼を見て優しく笑った。
「僕は、このまま消えてしまうんだな。シャル」
たくさんの思い出をかかえた僕は消えなければならない…。
そう、冥府という名のもとへ行かなければならない。
「大丈夫だよ。エミリオは消えたりしない。いつまでも彼らの心の中で生き続けているから…。」

シャルティエの背にも僕と同じ、白くて大きな翼があった。
「シャル…。」
それからシャルティエは何も言わず遠くのほうを指差した。
そこには飛行竜から無事に降りてくるスタン達や、それを見ているマリアンの姿が映った。
いや、映ったのではなく、僕達はその場所にいた。
「やつらは無事に帰ったのか…。まったくいつまでも心配をかけさせるやつらだ。」
「ふふ。本当だね。」
ルーティは泣きながらマリアンに抱きついた。
「マリアンも無事だったんだな。」
「ルーティ泣いてるよ。きっとエミリオのことで…。」
シャルティエは僕の手を取る。
「エミリオ…。エミリオはいつまでも彼らの心の中に居るってコトを忘れないで!」
「忘れるものか…。生き続けてやるよ…。心の中で。」
――これで終わりなんかじゃない。

そう、これで終わりなんかじゃない。
終わらせない……。
彼らが、僕が生き続けることを望むなら、心の中で永遠に生き続けよう。
それが僕にとっての始まりとなるのだから。
まぶしい太陽の光を握り、僕は大きな翼をはばたかせた。
その日、ダリルシェイドに白い翼が降った事を…誰も知らない。


前へ戻る