|
「言葉」
私は待っていた。
彼からの連絡を待っていた。
メールという文字の手段ではなく、彼の言葉を待っていた。
彼の心から発せられる、言葉が欲しかった。
ほんの些細なことで、人の心はすれ違う。
私たちの場合は、たぶん、言葉だろう。
お互いの仕事が忙しいふたりにとって、メールでのやりとりは、とても便利なものだった。
相手の都合をあまり気にしなくても良かったし、いつでも連絡がとれる安心感もあった。
でも、ふたりは、それに甘えていた。
メールの文字は、所詮、「文字」に過ぎなかった。
相手を想う気持ちや、いらだたしさや、いたわりや、淋しさや、メールにはそうゆう気持ちが抜けていた。
「文字」で「気持ち」も伝わるのだと、伝わっているものだと、錯覚していた。
私たちは、それに気づくのが遅すぎた。
心のすれ違いは、誰にだって、いつだってある。
でも、それをちょっとしたことだと放っておくと、溝は深まるばかりで、お互いの心の距離も広がっていく。
こうゆう時の時間の流れは容赦ない。
彼も私からの連絡を待っている。
私の気持ちを試している。
わかっていながら、私はためらっている。
極力、この問題を考えないように、思い出さないように、一人にならないようにして。
この恋がこれからも続くものなのか、もう終わりなのか、それともすでに終わってしまっているのか。
その鍵は、彼の手の中にあるのか、私の手の中にあるのか。
結論を考えたくないから、思い描きたくないから、また、時だけが私の前を通りすぎていく。
二人の距離が広がって、二人の心が離れていくのを、痛いほど感じながらも、成す術もなく、ただ待っている。
彼からの言葉を待っている。
流 遙夏
2001.2.4
|
 |