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「最後の岬」
私は車を南に走らせていた。
あの夏と同じ道を、あの時かけた同じ曲をかけ、わざと自分の記憶を思い起こそうとしていた。
「今日で最後。」
そう自分に言い聞かせて、閉じ込めていた、彼との時間を思い出していた。
今まで極力考えないように、思い出さないようにしていた記憶が、あの岬に近づくにつれ、私の心に浮かんできては、涙に変わっていった。
あの岬はふたりにとって特別な場所だった。
まだ出会って間もない頃、初めてふたりで行った場所だった。
夏も冬も、幾度となく訪れた。
私たちはこの岬の朝の顔も夜の表情も、夕方の情景も知っていた。
ここで終わりにしようと思った。それにふさわしい場所だった。
この想いも、涙も、つらさも、今日で、ここで、終わりにしたかった。
岬に着くと、日が沈もうとしていた。
寒空を赤く染めながら、ゆっくりと海のなかへ沈んでいく太陽が、私の記憶を刺激した。
私の記憶に眠る幸せな二人。
あの大きな岩の上に座り、夕焼けに染まる富士山を見、輝く星を指差したりした、ふたり。
澄み切った冬の空の下を、海からの冷たい風を避けるように寄り添って、歩いていた、ふたり。
別れても友達でいようと誓ったふたり。
そして終わりを迎えたふたり。
涙がとまらなかった。
二人の決心は正しかったのだと、ひとり、繰り返しても、あの時確かに存在したふたりの愛に捕らわれて、涙が、止まらなかった。
それでも、ふたりの愛は過去にしか存在しない。
未来にも存在しない。
だから、過去のやさしい想い出にひたるのは、今日で最後。
この岬で、もう、最後。
流 遙夏
2001.2.11
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