単独行について考える

 また前編の続編。今度は単独行について考える。
 私はほとんど単独行で山に滑りに行く。まず第一の理由として、身近に山岳会や足並みの合ったパートナーがいない事がある。ただ、わいわいと大人数で行くのも悪くはないのだが、単独だと思い立った時に好きな山へ行け、マイペースで登ったり滑ったり出来て、天気やその他の状況で気軽に予定変更出来るこの小回りさと、山行中の適度な緊張感と下山後のそれなりの達成感もあったりして、実は単独行の方が私の性分にあっていたりもする。

 もっとも、もう一般的なノーマルルートじゃとっくに飽きちゃって、今は超マイナールートやら新規ルート開拓ばかりしている私なんかには、わざわざ付き合ってくれる物好きな人なんかいないという、ジコチューな理由もあったりするけどネ。

 しかしここで言うまでもなく単独行では、ちょっとしたトラブルで深刻な事態に陥りやすい。骨折・捻挫等で行動停止になろうものなら、”即遭難”の事態となるなど、集団登山より遙かにハイリスクなのは、否定のしようもない。まして普段から人気(ひとけ)のないルートばっかり行っている私にとってはなおさらである。

 このようにリスクの高い単独行は、間違っても他人にはお勧め出来ない。しかしリスクが高いからと言ってもし、”リスクの高い単独行は差し控えるべき”と他人から忠告されても、”はい、そうですか”と引き下がる私でもない。リスクだけを考えれば、幾ら集団登山だって、夏・冬のクライミングの方が単独山スキーより遙かにハイリスクだし、間違ったって海外未踏峰遠征なんてとても行けたもんじゃない。

 リスク管理を行う上で、まず真っ先に必要な事として、”リスクの正確な認識・把握”が挙げられる。”どの程度までのリスクなら許容し、どの程度以上なら回避・あるいは対策を講じる”リスク管理ではまず、”リスクの正確な分析・把握”が大前提となる。それを踏まえた上で当人がそれを望むのであれば、あとは”自己責任”である。当人にはあえて不幸になる権利だってあるのだからね。これについては過去にこのコラムで書いたとおり。

     えっ?、”私は読図も雪崩判断もビバークも出来ない単独行者だけど、いつもトレースのある一般ルートしか行かないから大丈夫!”だって?。あんたねえ、どこの馬の骨が付けたか分からないトレース辿るって事は、その人に命預けると同じだよ!。おまけに”動けなくなったって、きっと誰かが見つけてくれる!”なんてのは、単なる”運まかせ”でしかないし。そんなのは決して”その行為に伴うリスクを十分認知・納得している”なんて呼べないから、一緒にして欲しくないなあ。

     今は安全をお金で買える時代なんだから、山岳ガイドのツアーに参加する事を強くお勧めする。


 ただ私の場合は、その高いリスクに対し、ただ手をこまねいていたり運を天に任せていたりと言う訳でもない。具体的には昔から常に下記を心がけていたりする。

  • 日帰りでも計3食分の食料、及びツエルト&雪洞掘用スコップ&防寒着&固形燃料&e.t.c.
      〜最低でも一泊のビバークが可能な装備の携行
  • 事前にルート・装備等の詳細な登山計画書を家人に提出し、また日帰り山行しかしない。
      〜仮に山中で行動不能に陥っても、当日中に詳細な遭難届けが出るスキーム。
  • 極力、ビバーク困難な森林限界上の山へは行かない。
      〜はっきり言って、クラスト&シュカブラの斜面滑ったって面白くないし....。
  • たとえ少数派となっても、やはり安定・成熟の山スキービンディング。
      〜今主流のプラ靴テレマークは、安全性・信頼性がちょっと....
  • 取り付けシール・一本モノの金属ストックなど、昔から使っている装備へのこだわり。
      〜新しい・流行っているからって、それが良いとは限らない。要は自分の物差しが大事。
  • 今は、スキーアイゼンでも登れないようなルートには行かない。
      〜最近、”天狗の下駄”のアイゼンは封印した。

     自分で納得行くまでやってないのに失敗しれば、そりゃー悔いが残るだろうけどまあ、これだけやってそれでも助からなかったら、”これも天命”とあきらめもつくってもの。お陰さんで、組織登山から離れて十数年、山スキーでは無事故・怪我なし。

       ただ正直言うと、私の論法ではひとつだけ甘えがあるのも事実。未組織登山者のくせに、最後の最後になったら遭難対策協議会という、組織登山者のスキームに依存している点。言うなれば”防衛ただ乗り論”とアメリカから非難されている今の日本と実態は同じ(^^ゞ。まあ、昔は何度も手弁当で出動させられたんだし、また一生お世話にならないよう心がけてますからお目こぼしをm(_._)m。

     その他、例えば雪崩とかミスコースとかのリスクについては、単独行だからといって集団登山よりハイリスクとは思わない。むしろ命に関わる判断を人任せにしないで常に緊張感を持って行動し、不安を感じたら自己の判断で即退却出来る小回りが利く分、下手なリーダーの集団登山より安全だと思う。ちょっと脱線するが、”赤信号 みんなで渡れば怖くない”とは良く言ったもので、集団心理は実に怖い。

     最近あちこちの雪山に行って目にするのが、なんか皆”誰かに連れていって貰っている”って感じのちょっと初老の集団。どこの山岳会に所属している訳でもなく、誰がリーダーなんだかも良く分からず、おまけに私がラッセルするのを待って、後ろからゾロゾロついてくるので、実に不気味!。途中意地悪く私が休憩すると、後ろで皆おもむろにザックを降ろすし、ちょっとカマ掛けて、山頂とはちょっと外れた方向にわざとラッセル切っても、疑う事なく素直にちゃんと皆ついてくる。”俺はあんたらのガイドじゃねーよ!おーい!、勘弁してくれー!”。


     まあ人の事は置いといて、単独行にも集団登山にも、長所・短所があるのは確か。あえて自分のスタイルを正当化しようとは思わないが、ちょっと自分なりの意見を述べさせて頂きました。さて今度こそこのHP、当面お休みを頂きます。でもこれだけ出しゃばりの性格だから、いつまで休みが続くことやら?。
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