ここだあ…

ここだっつってんだろうがよっ！

語尾とかイントネーションとかで
判断せんかっ！

うるさいヒゲっ！

ああ打ち切れるもんなら
打ち切ってみやがれってんだ、てやんでえ！

ああ打ち切れっ！
たいがいこういうことになったら
僕がすいませんとあやまったりするのが
パターンなんだろうが、19世紀のイギリス
ではそんなパターンなんか
まだ確立されていない頃なんだから
あやまったりはしないぞっ！

ふっ！そういわれれば
いくらなんでも僕があやまるのが
普通考えられるような状況だが
そうはしないぞっ！

ふっ、本当に行ってしまったな。
まったくヒゲにはユーモアも何も
あったもんじゃないな。

さて、ヒマだからひとつ詠んでみるか。

秋の闇
　　　　虫の音さやと
　　　　　　　　　　バスカヴィル
　　　　　　　　　オックスフォード
　　　　　　　　　ヘイスティングス

まさにこのバスカヴィル家に向かう途中で
森の中で迷ってしまった僕の心細さと
それをいっそう際立たせる森の静寂を
うまく表した名歌だなあ。

名歌であることだなあ。

………。

暗い。

暗い…暗い…暗い…
この闇…暗すぎる…

いいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
やあああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああ!!

うわっ！
モ、モリアーティ教授っ！
その異常に白い肌、ルビーを埋め込んだ
ループタイ、甘樫の杖！
そして邪悪のかたまりのような金色の眼！
お前は、モリアーティ教授だっ!!

やっぱりモリアーティ教授じゃ
ないかなあ…。

ぬ、抜け出したいさ僕だって！
でも…でも…僕は方向音痴なんだ！

わ、わかったよ、
良いモリアーティ教授。
僕、やってみるよ！

でも…こんな真っ暗闇じゃ
昆虫図鑑読めないし…
（ばしっ！）
あうっ！

た、探照眼！

う、うわっ！
い、今のはっ!?

悪いのか。

ああっ、消えた！
ありがとう、良いモリアーティ教授！
ようしっ！
探照眼!!!

ふむふむ。
おお、これだ！

遅いですねえ、ホームズさん。
バスカヴィル家の前で
１時って言ってたのに。

ワトスン先生、
ホームズさんはどうなさったんですか？

ひょっとして
ホームズさんを見捨てて
ここまで来たということは
ないでしょうね 。

まあどっちでもいいんですけど。

うわっはっはっはっはっ！
進め！進め！コオロギどもよ！
わが道を！指し示すがよいっ!!!