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「ほんたうに鷺だねえ。」二人は思はず叫びました。まっ白な、あのさっきの北の十字架のやうに光る鷺のからだが、十ばかり、少しひらべったくなって、黒い脚をちぢめて、浮彫のやうにならんでゐたのです。
「眼をつぶってるね。」カムパネルラは、指でそっと、鷺の三日月がたの白い瞑(つぶ)った眼にさはりました。頭の上の槍(やり)のやうな白い毛もちゃんとついてゐました。
「ね、さうでせう。」鳥捕りは風呂敷(ふろしき)を重ねて、またくるくると包んで紐(ひも)でくくりました。誰がいったいここらで鷺(さぎ)なんぞ喰べるだらうとジョバンニは思ひながら訊(き)きました。
「鷺はおいしいんですか。」
「えゝ、毎日注文があります。しかし雁(がん)の方が、もっと売れます。雁の方がずっと柄(がら)がいいし、第一手数がありませんからな。そら。」鳥捕りは、また別の方の包みを解きました。すると黄と青じろとまだらになって、なにかのあかりのやうにひかる雁が、ちゃうどさっきの鷺のやうに、くちばしを揃(そろ)へて、少し扁(ひら)べったくなって、ならんでゐました。
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