→Topページ 宮沢賢治幻燈館 目次
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 「銀河鉄道の夜」
 先生はまた云ひました。「…そんなら何がその川
 の水にあたるかと云ひますと、それは真空といふ
 光をある速さで伝へるもので、太陽や地球もやっ
 ぱりそのなかに浮んでゐるのです。つまりは私ど
 もも天の川の水のなかに棲んでゐるわけです…」
 「グスコーブドリの伝記」
 グスコーブドリは、イーハトーブの大きな森のな
 かに生れました。お父さんは、グスコーナドリと
 いふ名高い木樵りで、どんなおおきな木でも、ま
 るで赤ん坊を寝かしつけるやうに訳なく伐つてし
 まふ人でした。ブドリにはネリといふ妹があつて
 「どんぐりと山猫」
 山ねこは、ふところから、巻煙草の箱を出して、
 じぶんが一本くはえ、「いかゞですか。」と一郎
 にだしました。一郎はびつくりして、「いゝえ」
 と言ひましたら、山ねこはおほやうにわらつて、
 「ふゝん、まだお若いから、」と言ひながら……
 「山 男 の 四 月」
 (あのいぼのある赤い脚のまがりぐあひは、ほん
 たうにりつぱだ。郡役所の技手(ぎて)の、乗馬
 ずぼんをはいた足よりまだりつぱだ。かういふも
 のが、海の底の青いくらいところを、大きく眼を
 あいてはつてゐるのはじつさいえらい。)
 「インドラの網」
 天人の衣はけむりのやうにうすくその瓔珞は昧爽
 の天盤からかすかな光を受けました。
 (ははあ、こゝは空気の稀薄が殆んど真空に均し
 いのだ。だからあの繊細な衣のひだをちらっと乱
 す風もない。)私は又思ひました。
 「黄いろのトマト」
 ガラスのお家が月のあかりで大へん なつかしく
 光ってゐた。ペムペルは一寸立ちどまってそれを
 見たけれども、又走って もうまっ黒に見えてゐ
 るトマトの木から、あの黄いろの実のなるトマト
 の木から、黄いろのトマトの実を四つとった。
 「や ま な し」
 その青いもののさきがコンパスのやうに黒く尖つ
 てゐるのも見ました。と思ふうちに、魚の白い腹
 がぎらつと光つて一ぺんひるがへり、上の方への
 ぼつたやうでしたが、それつきり青いものも魚の
 かたちも見えず光の黄金の網はゆらゆらゆれ……
 「水仙月の四日」
 雲もなく研きあげられたやうな群青の空から、ま
 つ白な雪が、さぎの毛のやうに、いちめんに落ち
 てきました。それは下の平原の雪や、ビール色の
 日光、茶いろのひのきでできあがつた、しづかな
 奇麗な日曜日を、一そう美しくしたのです。
 「ガドルフの百合」
 その雲のどこからか、雷の一切れらしいものが、
 がたっと引きちぎったやうな音をたてました。
 (街道のはづれが変に白くなる。あそこを人が
 やって来る。いややって来ない。あすこを犬が
 よこぎった。いやよこぎらない。畜生。)