宮沢賢治幻燈館
「どんぐりと山猫」 1/14

 をかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、一郎のうちにきました。

 かねた一郎さま 九月十九日
 あなたは、ごきげんよろしいほで、けつこです。
 あした、めんどなさいばんしますから、おいで
 んなさい。とびどぐもたないでくなさい。
                 山ねこ 拝
 
 こんなのです。字はまるでへたで、墨もがさがさして指につくくらゐでした。けれども一郎はうれしくてうれしくてたまりませんでした。はがきをそつと学校のかばんにしまつて、うちぢゆうとんだりはねたりしました。
 ね床にもぐつてからも、山猫の にやあ とした顔や、そのめんだうだといふ裁判のけしきなどを考へて、おそくまでねむりませんでした。
 けれども、一郎が眼をさましたときは、もうすつかり明るくなつてゐました。おもてにでてみると、まはりの山は、みんなたつたいまできたばかりのやうにうるうるもりあがつて、まつ青なそらのしたにならんでゐました。一郎はいそいでごはんをたべて、ひとり谷川に沿つたこみちを、かみの方へのぼつて行きました。