
「それから、はがきの 文句ですが、これからは、用事これありに付き、明日(みやうにち)出頭すべしと書いてどうでせう。」
一郎はわらつて言ひました。
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「さあ、なんだか変ですね。そいつだけはやめた方がいゝでせう。」
山猫は、どうも言ひやうがまづかつた、いかにも残念だといふふうに、しばらくひげをひねつたまゝ、下を向いてゐましたが、やつとあきらめて言ひました。
「それでは、文句はいままでのとほりにしませう。そこで今日のお礼ですが、あなたは黄金(きん)のどんぐり一升と、塩鮭(しほざけ)のあたまと、どつちをおすきですか。」
「黄金のどんぐりがすきです。」
山猫は、鮭の頭でなくて、まあよかつたといふやうに、口早に馬車別当に云ひました。
「どんぐりを一升早くもつてこい。一升にたりなかつたら、めつきのどんぐりもまぜてこい。はやく。」
別当は、さつきのどんぐりをますに入れて、はかつて叫びました。
「ちやうど一升あります。」
山ねこの陣羽織が風にばたばた鳴りました。そこで山ねこは、大きく延びあがつて、めをつぶつて、半分あくびをしながら言ひました。
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