
「をかしいな、西ならぼくのうちの方だ。けれども、まあも少し行つてみよう。ふえふき、ありがたう。」
滝はまたもとのやうに笛を吹きつゞけました。
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一郎がまたすこし行きますと、一本のぶなの木のしたに、たくさんの白いきのこが、どつてこどつてこどつてこと、変な楽隊をやつてゐました。
一郎はからだをかがめて、
「おい、きのこ、やまねこが、こゝを通らなかつたかい。」
とききました。するときのこは
「やまねこなら、けさはやく、馬車で南の方へ飛んで行きましたよ。」とこたへました。一郎は首をひねりました。
「みなみならあつちの山の中だ。をかしいな。まあもすこし行つてみよう。きのこ、ありがたう。」
きのこはみんないそがしさうに、どつてこどつてこと、あのへんな楽隊をつづけました。
一郎はまたすこし行きました。すると一本のくるみの木の梢(こずゑ)を、栗鼠(りす)がぴよんととんでゐました。一郎はすぐ手まねぎしてそれをとめて、
「おい、りす、やまねこがここを通らなかつたかい。」とたづねました。するとりすは、木の上から、額に手をかざして、一郎を見ながらこたへました。
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