宮沢賢治幻燈館
「インドラの網」 9/11

「さうですか。もうぢきです。」三人は向ふを向きました。瓔珞(やうらく)は黄や橙(だいだい)や緑の針のやうなみじかい光を射、羅(うすもの)は虹(にじ)のやうにひるがへりました。
 そして早くもその燃え立った白金のそら、湖の向ふの鶯(うぐひす)いろの原のはてから熔(と)けたやうなもの、なまめかしいもの、古びた黄金(きん)、反射炉の中の朱、一きれの光るものが現はれました。
 天の子供らはまっすぐに立ってそっちへ合掌しました。
 それは太陽でした。厳かにそのあやしい円い熔けたやうなからだをゆすり間もなく正しく空に昇った天の世界の太陽でした。光は針や束になってそゝぎそこらいちめんかちかち鳴りました。
 天の子供らは夢中になってはねあがりまっ青な寂静印(じゃくじゃういん)の湖の岸、硅砂(けいしゃ)の上をかけまはりました。そしていきなり私にぶっつかりびっくりして飛びのきながら一人が空を指して叫びました。