今は昔、正親司(おおきみのつかさ/皇族の諸用を調える役所)の長官を勤めた大夫(五位の男)がありました。 その人が若かった頃、ある貴族に仕える女房と交際して、時々間を取り持つ女の家でデートしておりました。
しばらく逢わなかったのでその女の家に行き、「今夜逢いたいのだが」というと、 「お呼びするのは簡単ですが、昔からの知り合いが上京して今夜はここに泊るので、お通しする部屋が無くて困りました」とのことです。 断るのに嘘を言っているのでは、と思ってのぞいてみると馬やら下人などで狭い家がごたごたしていて、人目を避けて泊まる部屋もなさそうです。 しばらく考えていた女は、 「いい方法があります。 この西の方に無人のお堂があります。 今夜はそこにお泊まりになっては」 と言って、相手の女房の仕えて いる屋敷はそこから近いので、 急いで呼びに行きました。