菩薩銃・マキシマム フィフスエレメント

 

「うふふ」

 眠れる美女には白馬の王子。けなげな灰かぶりにはガラスの靴。
 世界には「正義」の法則が存在する。
 だがしかし。人は常に迷う。
 「正義」の持つその力の強大さ。「正義」ゆえの残酷さに。
 崇めよ。怖れよ。その名も尊き『菩薩眼』。


 美里葵。世界でも最強の『菩薩眼』。それが彼女である。
 下界の一般ピーポーの人々の考えなど、彼女にはまったく関係ないことである。
 何故なら彼女は『菩薩眼』。
 全てを超越したところに彼女はいるのだから。

 新宿で彼女は困惑した。
「困ったわね…」
 目的地ははっきりしているのだ。
 ――桜ヶ丘中央病院。
 美里にとっては、桃太郎でいう鬼ヶ島に相当する病院である。

 『菩薩眼』の運命の相手『黄龍』である、眞崎皐哉はそこにいるらしい。
 だが、どうもあそこは「気にいらない」のである。


 あそこの院長、いつも皐哉に色目を使うのよね。自分の体重を考えて物を言って
いるのかしら。昔何かあったらしいけれど、まあ、私の知ったことではないし。
 ああ、でもそれ以上にムカツクのは、あそこでたむろしてる女共よ。

 ――自分も女だということは、都合よく無視されている。

 あの女共、どうも皐哉に気があるみたいだし。
 やっぱり、さっさと始末しておくべきだったかしら。

 彼女が本気になれば、《宿星》を持つ者は半減するだろう。
 ――敵味方関係なく。

「とりあえず、なんとかしないと…」
 この場合の『なんとかしないと』は、「如何に敵を滅ぼすか」である。
 彼女の徹底的な思考は、ある意味すさまじいものである。 


「Oh,美里。今日もソー、ベリービューティフォーね」
 これほど妙な言語を使う人類は早々いない。
 下僕こと、アラン=蔵人である。

「久しぶり」
 S0とVERYを一緒につけるなんて、いったいどんな言語感覚をしてるのかしら。
 当然ながら、彼女の本音は語られない。
 乙女心とは、表に現れぬものなのである。

「ドーシタ、美里。何かハプニング?」
「ええ…」
 困惑する表情は憂いの聖母。免疫のない外国人が回避することはほぼ不可能。
 百発百中。それが無敵の『菩薩眼』。

「皐哉と約束していたのだけれど…ちょっと…すれ違ったみたいで」

 ちょっと待て。いつから『約束』になった。

「Oh,アミーゴも罪ツクリ。こんな美女を待たせるなんて」
 アミーゴっていうのも何とかならないかしらね。この能天気ぶりも、いいかげん
腹が立つのだけれど。
「携帯はTELシタ?」

 甘いわね。皐哉は日中はほとんど留守録なのよ。
 それで泣いた女ドモが大勢いたって話。いい気味だわ。
 …もちろん、私はそんな愚かな失敗はしないけど。

 そういえば、この能天気も『四神』の一人だったわね。
 まったく…《宿星》の選考基準を疑うわ。
 しかも皐哉の《黄龍》に近い、《青龍》というのが余計ムカつくのよ。

――消しちゃおうかしら。

 悪魔の、或いは天使の声がささやいた。
 当然ながら、ジンガイのアランがそれに気づいた様子はない。
 

 そして、終末は約束された。


「ドウシタ、美里」
「大丈夫。少し疲れてるかもしれないだけだから」
 ターンは戻った。行動力は回復している。
 もう何も、『菩薩眼』を阻むものはない。


 正義が降臨する。――いや、『光臨』というべきか。

 謎の外人が倒れているのを発見されるのは、それから三十分あとのこと。
 ――当然、犯人とおぼしき人物の影はない。
 ただ、その男は妙に幸せそうな表情を浮かべていた。
 人は証言する。
 「まるで、天使でも見たようだった」と。


 ――見ていなさい。
 彼女は心の中で語る。誰に? この世界のすべてに。

 ――私は『菩薩眼』。この地上でもっとも美しく輝く星。
 あらゆる者も私の前には無力なの。
 私の横に並べるのは、《黄龍》の彼だけなのだから。
 彼をかすめとろうなんて甘い話、臍で茶が沸かせてよ。

 彼女は笑う。気高く、美しく、残酷に。


 彼女の笑顔が輝くとき。それは絶望の瞬間。
 そしてこれからも。彼女の笑顔は、人を恐怖に落とし入れるだろう。
 哀れな子供達の悲劇を知ることもなく、血に汚されることもなく。
 あまりに美しい声をもって、絶望をふりまくのだ。


『うふふ』

 


 

マジで久々の菩薩銃でした。
次誰にするのか、真剣に忘れてました。ダメダメです。
次の犠牲者は、またも『身内本命』。次は忘れんはずだ…。
でも俺のことだから予定は未定ってことで。けけけ。
どうでもいいが、アラン書いたのって初めてなんじゃ…。

 

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