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 「ヨーロッパ語について」


 多数の言語を操ることのできるマルチリンガルな人々が会話をすると、会話の途中で話している言語そのものが本人たちにも無意識のうちに、他の言語に切り替わる現象が見受けられることがあります。しかも、この会話で意味を伝達するという機能に支障はないようです。この現象に近いものに「スパングリッシュ」というものがあります。スパングリッシュはアメリカのヒスパニック系の住民が多く暮らす地域で話されている言語で、英語とスペイン語が入り混じった言語です。ただ単に両者の単語を取り替えたという程度のものではなく、単語の語幹は英語だけれど、その活用の体系はスペイン語のそれを用いているなど、二つの言語が高度に融合したものです。この現象をさらに進化させ、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語などの西ヨーロッパの主要言語が混成し、エスペラント語、イド語、インテルリングワなどの人工言語の文法を取り入れたものが「ヨーロッパ語」といえるのかもしれません。

 ヨーロッパ語の発祥は、ヨーロッパを中心に活躍する多数の通訳、翻訳家やマルチリンガルな人々の「ことば遊び」や「隠語」が始まりだったといわれています。初期のヨーロッパ語は難解なスラングや業界語の集積のようなもので、通訳や翻訳家などの一部の業界の人々や言語にたけたマルチリンガルな人々だけが理解でき、かつ、地方差や個人差が極めて大きいものでした。その初期のヨーロッパ語がのちに、エスペラント語などの既存の人工言語の文法を採り入れたことにより、ごく普通の人々でも修得できるほど簡単な構造に変貌しました。例えば、名詞の単語は語尾が「
-o」で、複数形の場合は「-os」で終わる。代名詞の単数形と動詞の不定形は語尾が「-i」で、動詞を活用した場合、現在形は「-ar」、過去形は「-ir」、未来形は「-or」、命令形は「-er」、仮定形は「-ur」でそれぞれ終わり、一切の例外や不規則変化がありません。これらの規則性は、誰が決めたともなく生まれたものですが、多くの話者はこれらの規則を厳守しているようです。

 しかし、地方差と個人差は存在し続け、特に語彙の採用や表記に揺らぎが多く見受けられます。例えば「リンゴ」を表す名詞として「
pomo」、「pomeo」、「aplo」、「apelo」、「apfelo」など、それぞれの地元の自然言語の影響を受けて複数の表記が存在しています。この問題を解決すべく、ゾイトホラント州ライデン大学のウィム・ネッテン教授が発案した「ネッテン式ヨーロッパ語表記法」が広く採用され、その表記法では「pomo」が最も多く使われているために「標準的な表記」とされましたが、ほかの単語を使ったとしてもヨーロッパ語として通用しないということでもないようです。

 この正書法がないヨーロッパ語の評価には「いい加減な言語」、「醜い雑種言語」、一方では「多様な表現法に寛大」、「ヨーロッパ語内に方言差があるに過ぎない」と様々あります。ある調査によれば世界のヨーロッパ語の話者人口はアムステルダムの人口とほぼ同数との集計結果もあります。しかし、この調査には「どの程度でヨーロッパ語を話せるとするのかという基準が曖昧である」、「そもそもヨーロッパ語は言語なのか?」などの異論もあるのも事実ですが、アイセル州ではヨーロッパ語のみで書かれた州政府広報が発行されたり、各州の教育機関や大学でヨーロッパ語を扱う学科が設立されるなど、ヨーロッパ語の話者人口が増加傾向にあることは確かなようです。

 このサイトでご紹介するヨーロッパ語の発音は、アムステルダムとその周辺で話されているヨーロッパ語としてもっとも汎用されている発音を、その表記は「ネッテン式ヨーロッパ語表記法」を標準として、これらにならっています。



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