エンターテインメント・レビュー

第二十弾

映画

ロミオ・マスト・ダイ

ジェット・リー主演作品

ジェット・リーといえば、まだ日本では知名度が低いが、リー・リンチェイと言えば知っている人も多いだろう。あの「少林寺」でデビューした、北京武術隊出身の武術大会総合チャンピオンに四回も輝いた、中国武術会の至宝とも言われた元武術家の役者だ。
香港に渡った彼は25本もの映画に主演し(助演はない)、とうとう「リーサルウェポン4」でハリウッドデビューを果たし、今回はメジャーハリウッド映画としては初のアジア人主演を務めている。しかもプロデューサーは「マトリックス」や「ダイ・ハード」のジョエル・シルバーだ。アジア人としてここまでハリウッド映画で成功した役者はいない。ジャッキー・チェンだってクリス・タッカーの共演どまりだ。ジョエルや他のスタッフキャストが語るように、ジェット・リーが本物の武術家として迫力あるカンフーアクションをこなせるからこそ、ハリウッドもこの小さなアジア人にその狭き門を開いたのだろう。

さて、ではその「マトリックス」を超えたとされる映画の中身についてだが、確かにストーリーの判り易さとキャッチ−さでは「マトリックス」を凌いでいた。ジェット・リーのアクションも、所詮付け焼刃にすぎなかったキアヌーとは比べ物にならない、キレのあるアクションを見せてくれた。

しかし、自分が期待していたほどの出来では、正直なかった。
これは良くも悪くもアクションに特撮を用いたことが原因だった。
正直言って、ジェット・リーのアクションに特撮はいらない。
彼はワイヤー・アクションだけでは補えない動きを特撮が可能にしたことに満足だったそうだが、見る側にしてみれば、あまりにも不自然なアクションに映ってしまった。ま、ワイヤー自体不自然なのだが、あれはギリギリ人間技だし、「ワンチャイ」などはワイヤーアクションが、ジェット・リー個人では不可能な動きを自然に補っていて、見ていて爽快だったが、今回はワイヤー自体が不自然に見えた。ジェット・リーが一方の敵に飛び蹴りをかまし、さらにもう一方の敵にそのまま回転して蹴るシーンでは、一瞬リーが空中で止まってしまったように見えた。これは恐らくリーの動きを滑らかに見せるためにデジタルエフェクトをかけたせいだろう。
そしてラストでのカンフーバトルではリーと、悪役のラッセル・ウォンが空中を舞い、リーの旋風脚的な蹴りがウォンの頭にヒットするという大技を見せてくれるが、これも何だかリーの動きがマウスでドラッグされてウォンに蹴りを入れているように見えた。確かに二つともワイヤーアクションだけでは見せられないシーンだろうが、それならワイヤーだけで見せられる、別のもっとダイナミックなアクションを見せてほしかった。
リーは武術の達人なのだから、その動きは自然でなければならない。ワイヤー・アクションという技術はケレンの限界だとも言える。VFXと呼ばれる特撮は、これを台無しにしてしまった。

カンフーアクションも、「ワンチャイ」などの香港時代劇アクションに比べてかなり地味に見えた。これは武術指導の違いなのだろう。今回武術指導に参加したコーリー・ユアンは「ハイ・リスク」などでリーのアクションをつけているが、彼のアクション演出はどれもイマイチだった。「マトリックス」のユアン・ウーピンが参加していないことが悔やまれる。

黒人マフィアと中国系マフィアの対立や、各ボスの家族の葛藤、仲間の陰謀などストーリー的には様々なドラマティックな要素がうまく整理されていて、見ごたえのあるアクション映画なだけに、アクションの不自然さが残念でならない。

リーはすでにハリウッドでの次回作にとりかかるという。彼には「ワンチャイ」というアジアの最高アクション傑作を生身で演じた役者であり武術家であることを忘れず、それらのノウハウの蓄積をハリウッドで活かしてほしい。カンフーという人間くさいアクションは、決して特撮では表現できないのだから。