エンターテインメント・レビュー

第二十一弾

映画

マーシャル・ロー

デンゼル・ワシントン主演作品

この映画を観て、何かに似ているな、と思った。
見えない集団による武装テロの恐怖に包まれた街−ニューヨーク。警察の無力さ。そして戒厳令の発令と前代未聞の軍による治安出動。軍の出動は事態の収拾どころか悪化を招き、最終的には権威の失墜した警察−FBIの手によって事件は解決される。
ニューヨークを近未来の東京におきかえれば、基本的なストーリーラインは押井 守監督の「機動警察パトレイバー2」によく似ている。恐らくこの映画の制作・監督・脚本のエドワード・ズウィックは「パトレイバー2」を観て感じいったに違いない。そしてアメリカ社会に根ざす人種差別といった要素を盛り込むことでうまく読み替えを行っている。
それにしても押井 守監督は、日本での評価がイマイチなのに比べ、ハリウッドでの評価はすでに第二のクロサワなみだ。「マトリックス」のウォシャウスキー兄弟に多大なる影響を与え、ジェームズ・キャメロンに心酔され、またこういったSFとは一味違うアクション映画にまで影響を与えてしまっている。そういえばデビッド・フィンチャーの「ゲーム」もなんとなくストーリーや雰囲気が「うる星やつら2ビューティフルドリーマー」に似ていた。氏の久しぶりの実写映画「AVALON」の公開が待たれる。

さて、押井監督の話はおいておくとして、本作「マーシャル・ロー」のレビューに入ろう。
中東問題がアメリカに飛び火して、国内で無差別テロが多発するという設定は、残念ながら少し古臭さを感じる。テロに対するアメリカ軍の強行手段もそういった意味であまりリアリティを感じさせない。
だが、設定に少々難があっても、軍によるアラブ過激派指導者の拉致という派手なアクションのあとの、指導者とブルース・ウィリス演じる軍将軍の静的カットという静と動をうまく融合した導入シーンなど妙のある演出で最初からグイっと引っ張ってくれる。ここらへんに押井演出の影響が見られる。

デンゼル・ワシントンはアメリカの俳優の中でもかなり好きな俳優だ。
今回にしても、優秀なFBI捜査官の挫折と苦悩、そして戒厳令下に人種隔離政策を進め事態を悪化させる軍に対する怒りをみごとに演じている。

ブルース・ウィリスも負けてはいない。この人はどちらかというと正義の味方や優しいオッサンの役よりは、こういった態度のでかい憎まれ役がよく似合うし、うまい。特に物分りのいい人間を演じていながら途中で本性をあらわし究極の右翼人と化していくあたりはさすがである。やはり日本ではあまりいい印象がない役者だけに余計にこういう役が似合ってしまうように見えるのだろうか。

ただ、ラストはどうも最近のハリウッド映画にありがちなご都合主義的な終わり方で、あまり好きになれない。
ヒロインのスパイが情を通じていたアラブ人青年が実は最後のテロリストで、ヒロインが撃ち殺され、デンゼル・ワシントンらに犯人が射殺される。この青年が犯人だろうことはかなり早期に予測できた。もっと意外な人物を期待していただけにこれにはがっかりした。銃撃戦でヒロインが死ぬことも、よくあるパターンだ。
そして、デンゼル・ワシントンらFBIは軍本部に殴りこみをかけブルース・ウィリスを逮捕する。容疑は活動中のアラブ人活動家に対する拷問殺人だ。
確かにまっとうな終わり方ではあるが、もう一ひねりほしいところだ。将軍を逮捕するなんて、現実的には難しい話で、ここらへんは多少スッキリしないエンディングになっても将軍は逮捕されず、その行き過ぎた行動をマスコミに暴露されるくらいでとどめておいたほうが現実的だ。

どうも最近のハリウッド映画はラストが弱い傾向があるが、しかし全体としてこの映画は骨太で、楽しめる内容になっていた。
何よりも日本の映画がこういった映画にも影響を与えているとしたら嬉しい限りだ。

少し骨太のサスペンスアクションが好みの人にはオススメの一本である。