エンターテインメント・レビュー

第二十四弾

アニメ映画

人狼

押井 守 原作・脚本作品

この映画は押井 守氏の抜け殻である。

映画を観終わってそう思った。
設定やキャラクター、世界観など、すべて押井氏独自のものである。
問題なのは、それを語っているのが本人ではないことだ。
押井氏の内面を強く反映したこのシリーズ(「紅い眼鏡」「ケルベロス」という二作の実写映画を撮っている)は、押井氏によってしか語ることの出来ない世界だ。
だから、監督が別の人間では、この映画が何を意味するのかさえわからない。

正直、話は暗すぎる。
もうどうしようもなく暗く、しかもキャラクターに花がないため、まったく感情移入できなかった。
思うに、このシリーズは実写向きなのだ。
まったく個性の欠如したキャラクターも、役者が演じればずいぶんと変わってくる。
時を同じくして自分は角川映画の「野性の証明」を観たが、テーマ性が似通っていて重いにもかかわらず楽しめたのは、やはり実写で、役者がキャラクターを演じているからだ。

確かにアニメーションの技術には目を見張るものがあったが、題材的に押井氏の個人的な要素が強く、押井ファンでなければ何の映画なのかさえわからない仕上がりになってしまっているのが残念でならない。
押井氏自らが監督をしていれば映像的に見るべき部分や、物語からの飛躍があってそれなりに楽しめたであろうことは容易に想像できることだ。
ただ、押井氏が他人に渡してしまったということは、もはや自らが監督をやるほどやりたかった題材ではないのだろう。
この映画は10年前に押井氏によって映画化されるべきものだったのかもしれない。
そういう意味で、この映画は押井 守監督の魂のこもった作品ではなく、抜け殻でしかないのだ。

押井氏は実写映画「AVALON」を完成させ、この映画は今月からロードショウされる。
「パトレイバー2」や「人狼」のテーマから脱皮した押井氏がどのような映像を見せてくれるのか楽しみである。