エンターテインメント・レビュー

第二十五弾

日本映画

AVALON

押井 守 監督作品

「ゲームをプレイしているようだ。」
この映画を見ている間、そのような感覚にとらわれた。

本作の題材自体がネットワークゲームで、主人公がそのプレイヤーなのだから、当然といえば当然の感想だが、この映画は押井監督の周到な計算によってなりたっている。
言い換えるなら、この映画自体がひとつのゲームなのだ。
押井氏の計算しつくされた演出により、観客は映画の主人公であるアッシュを通してこの映画世界を体験するプレイヤーとなる。

主人公のアッシュはバーチャルゲーム「AVALON」のクラスAプレイヤーで、かつてはパーティに属していたが、現在はソロでプレイしている。色々あって彼女はかつての恋人マーフィーが行方不明になったフィールド「クラスSA」を目指し、最終的には隠れキャラを倒してクラスSA=クラスリアルに足を踏み入れるが・・・。というのが主なストーリーである。

種はあかせないが、終盤の舞台である「クラスリアル」は映画の主人公であるアッシュにとってのリアルなゲーム空間なのではなく、見ている我々にとってのリアルな空間なのである。なぜなら、アッシュが暮らす現実はクラスリアルで描かれるカラフルな、我々の住んでいる世界ではないのだ。薄暗い、荒廃した近未来のヨーロッパの街が彼女の現実なのである。だから、クラスリアルは彼女にとってリアルであるはずがない。
一方、映画を見ている我々は、それまでの幻想的とも言える映像空間から、このクラスリアルに来て初めて現実的な映像を見させられる。
まさに我々はバーチャルなゲーム世界を映画を通して体感し、ラストで現実そっくりの空間に放り出される、「AVALON」の一プレイヤーなのだ。

この映画の感想に、同監督の「攻殻機動隊」と実写映画「紅い眼鏡」を足して2で割ったような映画だ、というものがあるが、自分はむしろ押井氏の映画作家として(監督として、ではない)のデビュー作に位置する「うる星やつら2ビューティフルドリーマー」に似ていると思った。ゲーム空間を「夢」に置き換えれば、非常に「ビューティフルドリーマー」とダブる部分がある。

VFXはさすがである。ゲーム空間で撃たれたプレイヤーが二次元ポリゴンになって砕け散る効果や、映像のソフト化や女優のしわ取りなど映画の90%を占めるという画像処理は圧巻ものだ。とても制作費が6億足らずとは信じられないくらいこの映画はSFしている。「攻殻機動隊」に多大なる影響を受けたとされる「MATRIX」を、ストーリーの上でもVFXの上でも、この映画は超えている。

正直、誰にでもお勧めの娯楽映画ではないが、ネットやゲームが好きな人には思わずニヤリとさせられる部分もあり、楽しめると思う。
この映画には小説版もあるが、映画とは設定以外は別の物語なので、両方見ることをお勧めする。そのことにより「AVALON」という世界観がより一層リアルに感じるような仕掛けになっているのだ。

一本の映画として、映像の緻密さといい、ストーリーの意外性(映画=ゲーム)といい、日本映画としては近年稀にみる傑作だった。何よりも舞台も役者もポーランドでまったく日本映画くささがなかったのが好感がもてる。

ゲーマーやヨーロッパ映画が好きな人にはオススメの一本だが、もうすでに上映は終わっているので、ビデオが出たら借りて見てほしい作品である。