エンターテインメント・レビュー

第三十二弾

小説

仄暗い水の底から

鈴木光司作品

映画は結局観なかった。
理由は、時間がなかった(公開週が短かった)からと、この小説のエピソードの中では最も面白くない話を取り上げていたからだった。

本小説「仄暗い水の底から」は、水に関する怪談というか異談話を一冊にまとめた、短編集である。
その一遍一遍が変容していく東京湾と密接に絡み合う水の話だ。
この人の小説の面白いところは、こういった一つのテーマから話を産み出していることだ。「リング」「らせん」「ループ」では奇形の遺伝子の増殖をテーマに扱い、本作では、何を含んでいるかわからない、ひょっとすると人の命に関わる事象を含んでいるかもしれない東京湾の水をテーマにしている。

正直、最初は乗り気でなかったが、読んでいくにつれ、ハマッてしまった。

ただ、各エピソードにストーリー的つながりはなく、ただ最後のエピソードとプロローグ、エピローグがつながっているのに違和感を覚えた。
それなら各エピソード全体がつながって、ひとつの話になっていてもよかった様な気がする。

鈴木光司の世界にどっぷりと浸りたい人向けの小説である。