エンターテインメント・レビュー

第三十六弾

中国映画

HERO

チャン・イーモウ監督作品

とにかく、「美しい」のひとことだ。

敦煌の黄砂に抜けるような青空、そして白衣のHERO達。
時には赤い衣装で身を包み、緑の垂れ幕ひらめく城内で青い衣装で闘う残剣=トニー・レオンと秦王=チャン・ダオミン。
黒衣をまとい、終始無表情の無名=ジェット・リー。
わずかな出演でしかないが、見事な武芸を披露する長空=ドニー・イェン。
紅葉舞う大地での女の意地をかけた闘いを演じる飛雪=マギー・チャンと如月=チャン・ツィイー。

役者陣の演技と、ワダ・エミデザインの衣装の色が台詞以上にストーリーを、世界を物語っている。

「つまらなかった」
そういう論評も聞く。
だが、「HERO」はアクション映画ではない。アクションを取り入れた、人間の内面をえぐるサスペンスドラマなのだ。
この映画を通じて、「ヒーローとはなにか?」に思いをはせなければ嘘なのだ。
前出の論評をした観客は、まずチャン・イーモウの映画を見る資格はない。

とはいえ、アクションはやはりこの映画の見所のひとつだ。

一番初めにやってくる闘いは無名と長空の闘い。
さすが北京武術隊出身のジェット・リーとドニー・イェン。息の合ったすさまじい闘いを見せてくれた。この二人の闘いに関してはあまりワイヤーが使われていない。真の武術に見えるシーンにするためなのだろう。

長空のシーンと対照的なのが、無名と残剣の湖上での剣闘シーンだ。ワイヤーを使いまくり、ジェットとトニーの二人はグーンと飛んだかと思うと水面を走り(このシーンは映画史に残してもいいくらいきれいだ)くるくると回転しながら闘いまくる。

マギーとチャン・ツィイーの闘いも負けてはいない。
紅葉舞う大地でのワイヤーを全面に駆使したアクションは、かっこいいというよりも、ただただ「美しい」。

ストーリー上、この「HERO」は三本の語り話を軸にしている。
ひとつは無名が他の4人の刺客を討った、と主張する真っ赤な(衣装も映像も真っ赤)嘘の話。
もうひとつは、無名の話を嘘と見破った秦王の創造の物語。衣装はブルー。世界は緑に満ちている。
そして最後のエピソードは真実の話。刺客たちの衣装は白で統一され、画面の色は自然色だ。

この、色とストーリーをたくみにあやつり、物語っていく演出は、さすがチャン・イーモウだ。
特に色彩のセンスに関しては、デビュー作の「紅いコーリャン」での緑と赤の設定からも見とれるように、彼は黒澤の影響を受けている。

アクションでもない、ただのドラマでもない、美しい映画が見たい人には超オススメの1作である。