エンターテインメント・レビュー

第三十七弾

日本映画

バトル・ロワイヤルU〜鎮魂歌

深作健太監督作品

物語のテーマというものは、ひとつでなければならない。
作家が多数の事柄について語りたくとも、最終的にテーマはひとつに収斂されていかなければならない。
ドラマツルギーとはそういうものだ。

この映画のテーマは実に多彩だ。
青少年犯罪、オトナ対コドモ、日米関係、そしてテロリズム。
どれもが一本の映画になりうるテーマだ。というよりそうでなければならない。
この映画が、そのすべてを含有していながら、ひとつのテーマに収斂されていかない、というのが問題なのである。
テーマが絞られていない映画は、実にメッセージがぼけている。
ドラマ創りの基本がなっていない。

キャラクターにおいてもデベロップが甘い。
四十数名の中学生が次々と死んでいく映画だから、いちいちキャラクターなど描いてられない、という言い訳は通用しない。サブキャラが何人いようが、ドラマにおいては必ず
メインは一握りのキャラたちで、彼らについてはそのバックグラウンドから現在の行動にいたるまで、しっかりと描かれていなければならない。
この映画で一番欠けているのは、この「キャラを描く」という部分である。

前田 愛演じるキタノシオリはなぜバトル・ロワイヤルに参加したのか?なぜ壮絶な戦場において冷静でいられるのか、戦地を多く経験した兵士でさえ、あそこまで冷静ではいられないはずだ。人間を描く以上、ロボットのように描写するのはいただけない。

「親の七光り」は政界では珍しいことではないが、それが映画界でも珍しくなくなってきたようだ。
今村昌平の息子にしても、この監督の深作健太にしても、親が優秀な映画監督なら息子も監督になっていい、という理屈はおかしい。
深作健太には監督としてよりも、もっとシナリオ・ライターとして基礎から勉強しなおしてもらいたいものだ。