エンターテインメント・レビュー

第三十九弾

日本映画

イノセンス

押井 守監督作品

押井監督については、論で語ってしまったので、この映画についての率直な感想をここでは述べようと思う。

まず、相変わらす話は難解極まりない。
つくづく「押井 守の映画ではストーリーを追ってはいけないのだ」と痛感させられた。実際押井作品でストーリーが面白かった映画というのは少ない。「パトレイバー」の映画1作目だけではなかろうか。

でもそれはそれでいい。
押井作品には物語などどうでもよくなる要素がたくさん詰まっているはずだからだ。
それは独特なキャラクターや妙に貧乏くさい世界観、デジタルなのにアナログな演出手法など、さまざまだ。

職人的な演出技術=ケレンを楽しむのもまた、押井 守の映画の楽しみ方のひとつ。

要はこう考えればいい。
押井 守の映画は日本映画でもハリウッド映画でもない、「おしいえいが」なのだ。
「おしいえいが」はユーモアが盛りだくさんなだけに、常に嘲笑を浮かべつつ見るものなのだ。

ちょっと能書きが長くなってしまった。
さて、この最新作「イノセンス」だが、その「おしいえいが」にあたるのかどうか、微妙なところだった。

CGとアニメの融合には目をひかれたし、画面レイアウトも美しかった。
でもいつもは健在なケレン味が今回はなかったし、キャラも弱かった。
また味わい深い貧乏ネタも一切なく、ただひとつニヤリとしたのは、キムの部屋でトグサが見せられる無限虚構のシークエンスだけだった(昔自分も自主映画でつかったパターン)。

つまり終始にわたっては嘲笑を浮かべられなかったのだ。
暗い、あまりにも暗い世界観で、息がつまりそうだった。

「おぞましい」と設定されたものを映画でみるのと、実際おぞましいものをみるのとでは全く違う。
この映画は正直「おぞまし」かった。
人形の持つ悪意と絶望に埋め尽くされた世界。
これを観続けるのは、正直つらかった。

どこか救いがほしいね。
いつもなら絶望的な映画でも、キャラや世界観に救われた部分があったのだが、今回はまったく救いがなかった。

この映画は当初、ハリウッドの資本で製作される予定だったという。
だが、あまりにハリウッドのコントロールが強かったため日本資本でつくられることになったのだが、逆に自分はハリウッドにコントロールされた押井作品が観てみたかった。
かつてテレビ局のコントロール下で必死に押井 守していた「うる星」のような作品がみられたかもしれないと思うと、少し残念である。

前作「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」を観て「サイコー」と思った人は楽しめるかもしれない。
逆に前作を観てない人は、おそらくまったく理解できない映画なのでお勧めしない。