- 人 物
- ジョスター・本田(28)日系英国人動物学者
- ヨハネ・文左右衛門(27)英国の日本人牧師
- 原住民の少年
他
- ○南アフリカ某国・ジャングル入口
- T「十八世紀・アフリカ」
- 日射しの強い熱帯雨林のジャングル。
- どこまでも緑が続いている。
- いかにも冒険者といういでたちの日系
- の男、ジョスター・本田(28)とミサ用
- の黒衣をまとった日本人、ヨハネ・文
- 左右衛門(27)が辺りを見回しながら道
- ならぬ道を歩いている。
- 本田「予想はしてたけど、暑いな」
- 文左右衛門「アフリカですからね。英国とは
- 違いますよ」
- と言い、汗を拭う。
- ため息をつく本田。
- 本田と文左右衛門、奥地へと向かっ
- て歩いていく。
- 澄み渡った青空に太陽が照り輝いて
- いる。
- ○タイトル
- 「ファイナル・ジャーニー 〜神々
- の軌跡」
- クレジット・スタート。
- ○奥地へと続く道
- 本田が蛮刀で草木をなぎ払って進み、
- その後を文左右衛門が続く。
- ○川辺
- 本田と文左右衛門、ジャングルの切れ
- 間のひらけた川辺で腰を下ろす。
- 川の水をすくい、顔を洗う本田。気
- 持ちよさそうである。
- ○ひらけた林道 (夕)
- 本田と文左右衛門、何やら談笑しなが
- ら歩いている。
- その二人を、原住民の少年が木に隠れ
- ながら追う。
- ○崖前・林道(夕)
- クレジット終了。
- 夕日が辺りを赤く染めている。
- 本田、前方の崖に気づき立ち止まる。
- 本田「おい」
- 文左右衛門「どうしました」
- 文左右衛門、本田の肩越しに前方を見
- る。
- さほど高くはない崖が見える。
- 文左右衛門「どうします?引き返しますか」
- 本田「いや、たいして高くないし。登れんじ
- ゃない?」
- 文左右衛門「(嫌そうに)登るんですか」
- 本田「仕方ないじゃん。行こうよ」
- と言って歩き出す。
- 肩をすくめ、本田の後に続く文左右衛
- 門。
- ○崖(夕)
- ゴツゴツとした岩肌を、本田と文左右
- 衛門が助け合いながら登っていく。
- ○崖上(夕)
手が崖下から出、続いて本田が登って
- くる。
- 本田、振り向いて下の文左右衛門に手
- を貸し、引っ張り上げる。
- 本田に比べて、ゆっくりと辛そうに登
- ってきた文左右衛門はその場にへたり
- 込む。
- 二人ともその場に座り、肩で息をして
- いる。
- 本田「うー、きつかったぁ」
- 文左右衛門「すいません。私、慣れてないも
- のですから」
- 辺りはすっかり暗くなっている。
- 本田、ポケットからライターを取り出
- し、火をつけ、まわりの様子を伺う。
- 鬱蒼と茂る木々や熱帯植物の黒い影が
- 辺りを埋め尽くしている。
- 本田「今日はここで野宿した方がいいな。何
- が出るかわかんないし」
- 文左右衛門「そうですね。火を起こしましょ
- う」
- 本田「オッケー」
- 本田、ライターをつけたまま、木片を
- 探し始める。
- 空を見上げ、ため息をつく文左右衛門。
- **************
- 夜。
- 完全な暗黒の中、崖上の一部のみに火
- が淡く灯っている。
- 本田と文左右衛門、たき火を挟んで寝
- そべっている。
- 文左右衛門「ジョスター」
- 本田「ん?」
- 文左右衛門「感じませんか?」
- 本田「何を?」
- 文左右衛門「一言で言うのは難しいですね。
- 何というか、自然に抱かれているような、
- 安らぎとでも言うんですかねぇ。そんな感
- 覚ですよ」
- 本田「...自然の安らぎか。うん。何か落
- ち着くよね」
- 文左右衛門「あなたは動物学者でしたね」
- 本田「うん。僕はね、ヨハネ。ただ単に動物
- の生態を調べる為だけにここに来た訳じゃ
- ないんだ」
- 文左右衛門「どういう事です?」
- 本田「何故動物は自然の中で暮らすのか。何
- 故文明を持とうとしないのか。僕は決して
- それは動物が知性がないからではないと思
- うんだ」
- 文左右衛門「...」
- 本田「その理由を僕は知りたいんだよ。そし
- て人間は学ぶべきなんだ。自然とは一体な
- んなのか、をね」
- 文左右衛門「人間が忘れてしまった何か。私
- も牧師になって七年になりますが、宗教の
- 原点もそこにあるのかも知れませんね」
- 本田「ヨハネ、君はどうしてここに来る気に
- なったの?」
- 文左右衛門「私は隠れキリシタンとして国を
- 追われました。それ以来英国で布教活動に
- 専念してきましたがやはり布教だけでは人
- を救えないんです。まぁ、私の力不足だと
- 言われればそれまでなんですがね」
- ジョスター「人類を救う術を探してここに来
- たってわけだ」
- 苦笑する文左右衛門。
- 文左右衛門「離れたかったんです。救いを求
- めてくる人々からね」
- 本田「牧師さんもスランプになるんだ」
- 笑う本田と文左右衛門。
- ガサッという音がし、二人とも飛び起
- きる。
- 本田「な、何?」
- 文左右衛門「獣ですか!?」
- 目を凝らし、辺りの様子を伺う本田。
- 近くの草むらで再びガサッと音がす
- る。
- 文左右衛門「何かいる!」
- 本田「シッ」
- 本田は口元に指をあて、立ち上がる。
- 姿勢を低く保ち、草むらへと近づいて
- いく。
- 唾を飲み込む文左右衛門。
- 再度ガサッという音とともに蛇が飛
- び出てくる。
- 本田「ひゃぁ!!」
- 後ろに飛び退き、尻餅をつきながら後
- 退する本田。
- 文左右衛門「どうしたんです!何なんです
- か!」
- 本田「へ、蛇だよヘビ!僕ぁ蛇だめなんだぁ」
- ズルズルと本田に忍び寄る蛇。
- 文左右衛門、素早くリュックに手をや
- り、中からリボルバーを取り出し、本
- 田の前に飛び出す。
- 文左右衛門「私に任せて!」
- 本田、泣きそうになりながら文左右衛
- 門の後ろに隠れる。
- 蛇に銃口をポイントする文左右衛門。
- 鎌首をもたげる蛇。
- 銃口が一瞬光り、蛇が消し飛ぶ。
- 文左右衛門「神よ、無益な殺生を許したまえ」
- 銃を地面に置き、空に向かって手を合
- わせる文左右衛門。
- 本田「やった?やった!?」
- 文左右衛門「終わりました」
- 本田「ふぅ、よかったぁ。苦手なんだよね、
- 蛇って」
- 文左右衛門「動物学者じゃないんですか?」
- 本田「苦手なもんくらいあるよぉ。そんな事
- 言うんなら自分だって牧師なのに殺しちゃ
- ったじゃない」
- 文左右衛門「うっ、ま、まぁ人間っていうの
- はそういう物ですからね」
- と、苦笑いを浮かべ、ごまかす。
- 本田「まぁ、とにかく二時間交代で仮眠をと
- ろう。二人とも寝ちゃうと物騒だし、明日
- は明日でハードだしね」
- 文左右衛門「そうですね。あなたが先に寝て
- ください」
- 本田「うん。悪いね。じゃ、お先に」
- 本田、バタンと寝転がり、帽子を顔に
- かぶせる。
- 文左右衛門、ため息をつき、空を見上
- げる。
- 漆黒の夜空に無数の星が瞬いている。
第二回につづく