○原生林
T「数ヶ月後」
自然の中を闊歩する動物達。
髭面に、汚くなった恰好の本田、生き生
きとした表情でそれを追う。
文左右衛門(N=ナレーション)「ネル達と別れ
たジョスターは、本来の目的を思い出したか
のようにここに住む動物達の生態調査に乗
り出した。ネルを忘れる為であることは明か
だった」
四つん這いになりながら、狼達の群に
接近する本田。
狼達、本田の接近に気づくが、不思議
と警戒せず、本田の鼻面を匂う。
文左右衛門(N)「興味深い事に、人間達に警戒
心を抱くはずの動物達が、ジョースターに限
っては全く警戒をしない。これはこのジャン
グルが彼を受け入れたという事なのだろう
か」
分厚い本を開く文左右衛門。
文左右衛門(N)「我々の生活は全てが順調だっ
た。ただ一つ、聖書を忘れてきた事を除け
ば」
文左右衛門が読んでいる本は漢和辞典
である。
文左右衛門(N)「仕方なく、こうして日本語の勉
強をしているのだが、これはこれで結構楽し
い。ただ−」
槍を削る本田。
文左右衛門(N)「最近気になるのは、彼が野生
かし始めた事だ」
本田、奇声を発しながら野を駆けめぐ
る。
夜。豚の丸焼きをほおばる本田。
文左右衛門(N)「すっかり私の話にも耳を貸さ
なくなってしまった」
○湖畔
文左右衛門、ひとり湖畔に佇んでいる。
その後方でガサッと音がする。
振り向く文左右衛門。
ほぼ原住民化した本田が出てくる。
文左右衛門「あ、ああジョースターか」
本田、ニコリと笑い、水に向かって歩い
ていく。
文左右衛門「何をするんですか?」
本田「魚、取る」
言葉がぎこちない本田。
フッと寂しい表情になる文左右衛門。
文左右衛門(N)「我々の旅にも終わりの時が近
づいていた」
○洞窟 (夜)
本田と文左右衛門、焚き火を挟んで座
っている。
ひたすら槍を削っている本田。
文左右衛門「ねえ、ジョースター」
文左右衛門を見る本田。
文左右衛門「そろそろ我々も帰らなければなら
ないよ」
本田「なぜ?」
文左右衛門「私は英国国教会に帰り、ここの民
に布教した事を報告しなければならない。あ
なただって学者としてしなければならない事
があるでしょう?」
本田「学者として...」
考え込む本田。
文左右衛門「ジョースター...」
本田、突然スクッと立ち上がり、表に出
ていってしまう。
呆然とするしかない文左右衛門。
○崖 (夜)
雨の中、以前来た事のある崖の下から
上を見上げる本田。
本田「俺は、何故ここに来たんだ...」
つぶやく本田、ハッとなる。
崖の上に一匹の狼が現れる。
何かに憑かれたようにその狼を見つめ
る本田。
狼もまた、本田をじっと見下ろしている。
雨の音が彼らを包んでいる。
次回へつづく