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〇富士美大・広場
   由紀江と苗場、前回と同じ場所に座っ
   て写生している。   
苗場「風景画ってあんま面白くないよねぇ」
由紀江「私は横顔を描くのが好き」
苗場「この前のやつも横顔だったね、そうい
 えば。誰だったの?あれ」
由紀江「ルームメイト。私のお母さんに似て
 るんだ」
苗場「二人暮らしなんだ、フーン」
   二人、写生に没頭する。
   暫しの沈黙。
苗場&由紀江「(同時に)あの...」
   二人、つまる。
由紀江「(微笑み)どうぞ」
苗場「あ、あのさ。休みの日って何やってん
 の?バイト?」
由紀江「別に何も。絵を描いてる」
苗場「本当に絵が好きなんだね」
由紀江「うん。絵を描いてると、何か自分が
 世界から離れたとこにいるみたいで、嫌な
 事全部忘れられるような気になるんだ」
苗場「フーン」
由紀江「苗場君はどうしてデッサンやってる
 の?」
苗場「いや、はずかしい話なんだけど、俺昔
 からアニメとか好きでさ。イラストとかし
 ょっちゅう描いてたんだ。将来もそういっ
 た仕事がしたくってさ」
由紀江「いいな、夢があって」
苗場「夢ねぇ...。ところで由紀江さん、
 さっき何言おうとしたの?」
由紀江「今聞いた事」
苗場「なんだ」
   二人、会話がなくなり暫し絵に没頭す
   る。
苗場「...あのさ、今週末ヒマ?」
由紀江「うん」
苗場「じゃ、日曜日さ。映画行かない?」
由紀江「えっ?」
苗場「映画。いやならいいんだけど」
由紀江「(うつむき)...」
苗場「やっぱダメか...」
由紀江「あの...」
苗場「うん?」
由紀江「(緊張した声で)金曜日の夜、電話
 くれる?今ちょっとわかんないから」
苗場「え、ああ、いいけど」
由紀江「ごめんね」
苗場「いやいや...。んじゃ金曜日電話す
 るよ」
   沈黙し、絵を描く二人。

〇同・美術室
   友子と香、並んで油絵を描いている。
   香は友子の左側に座っている。
香「いよいよもってマザコンて感じじゃん、
 それ」
友子「うん」
香「耐えらんないんだ、もう」
友子「っていうか、正直言って気持ち悪いの。
 慕われるのはいいんだけど、あの子ちょっ
 と露骨だし」
香「フーン。何か聞いてるだけで鳥肌たって
 くるな、あたし」
友子「私ね、今度あの子のおじさんに会って
 こようと思うの。身内だったらいろいろあ
 の子の事わかると思うし、こっちも相談で
 きるんじゃないかなって」
香「住所、知ってんの?」
友子「うん。学生課で教えてもらった」
香「フーン。ま、その方がいいかもね」
   香、足元の絵の具入れから細いヘラを
   取り出す。
   友子、香の絵をのりだして見る。
香「あ、そうそう」
   香、起き上がった拍子に友子の左頬を
   ヘラで刺す。
友子「痛っ!」
香「あ、ごめーん。大丈夫!?」
   友子の左頬から血が流れ出す。その血
   を手に取り見つめる友子。
香「ああ、ヤバイよ。ホントにごめんね」
友子「...(苦笑いを浮かべ)だ、大丈夫」
   放心状態の友子。
香「病院行こ、病院」
友子「う、うん...」
   友子、左頬を手で押さえ、香に付き添
   われて教室を出ていく。他の生徒達、
   その様子をガヤガヤと眺める。

〇アパート・301号室 (夜)
   ドアを開け、左頬に大きなガーゼを貼
   った友子が入ってくる。
   由紀江、自分の部屋から出てくる。
由紀江「友子さん、ちょっと話しが...!」
   と、友子の顔を見て驚く。
友子「(靴を脱ぎながら)...あ、これ? ち
 ょっとケガしちゃって。でもお医者さん
 はすぐ治るって言ってたから大丈夫よ」pfl5.jpg (9992 バイト)
   由紀江、目を見開いたまま後ずさる。
友子「(いぶかしげに)どうしたの?」
由紀江「いやぁ!!」
   と、叫び、自分の部屋に駆け込みドア
   を閉める。
友子「な、何なのよ、いったい」
   電話が鳴りだし、驚く友子。
友子「あ、びっくりした」
   友子、受話器を取る。
友子「もしもし。...あ、お母さん。どう
 したの?...え?(小声になり)あ、う
 ん。ちょっと何か変なのよ。うまく言えな
 いんだけど。...うん。今度の日曜日、
 あの子のおじさん達に会ってくる。...
 うん。...大丈夫だから、お父さんにも
 そう言っといて。...うん、じゃあね」
   電話を切り、ため息をつく友子。

 

次回につづく


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