○裏階段・四ー五階 (夜)
   ガヤガヤと話しながら階段を下りてい
   くパーティー客。
   下から登ってきたタケルとクリスティ
   ン、客らと出くわす。
客#1「ヘイ、クリスティン。何やってんだ
 ?こんな所で」
   クリスティン、答えず、タケルの手を
   引いて四階廊下へと通じるドアを開け、
   中に入る。
客#1「どうしたってんだよ、一体?」
   客の一人、隣の客にフォローを求める。
   そこに下からタケルらを追って四階ま
   できたボビー、サム、ジェイと、客の
   後ろから四ー五階踊り場まで下りてき
   たジェフ、チャン、リー、そしてロブ
   が出くわす。
ボビー「やつだ!」
   一斉に銃を手にするボビーら。
   ジェフら、ボビーらに即対応し銃を取
   り出す。
   ボビーらが先に発砲し、客の何人かが
   悲鳴をあげ伏せる。
   階段の脇に隠れ、ジェフらも発砲する。
   客は伏せたまま、上の方に逃げ始める。
   サム、銃弾を胸に受け、倒れる。
   それを見ていたジェイ、短い悲鳴を上
   げ、下の方に逃げる。
ボビー「くそっ」
   ボビー、悔しそうに呻き、ジェイの後
   を追う。
   ジェフら、銃を撃ちながら上に逃げて
   いく。

○四階・廊下 (夜)
   タケルとクリスティン、裏階段の方か
   ら駆けてくる。
   タケルの部屋の前に座っていたヨーコ、
   二人の方を向き、立ち上がる。
   タケルとクリスティン、ヨーコに驚き、
   立ち止まる。
   呆然とタケルとクリスティンを見るヨ
   ーコ、二人の手に視線を移す。
   硬く握られているタケルとクリスティ
   ンの手。
ヨーコ「(日)あ、あら、あの、ごめんなさー
 い」
   と愛想笑いを浮かべ、エレベーターホ
   ールの方へと急ぎ去っていく。
   その様子をただ呆然と見つめるタケル
   とクリスティン、初めて手をつないで
   いる事に気づく。
タケル「あっ」
   タケル、慌てて手を放す。
   そのまま見つめ合う二人。
   そこにヨーコが戻ってくる。
ヨーコ「(日)あは、エレベーター動いてない
 んだった。たびたびごめんなさいねー」
   ぎこちなく笑い、頭を掻きながらタケ
   ル達の前を通り過ぎ、裏階段の方へと
   歩いていく。
タケル「ヨーコ」
   ヨーコ、歩きながら振り返る。
ヨーコ「See you」
   と手を振り、歩いていってしまう。
   無言でヨーコの後ろ姿を見送るタケル。
クリスティン「じゃ、私帰るわ」
   タケル、クリスティンに向き直る。
タケル「あ、あぁ」
   クリスティン、タケルから離れ、自分
   の部屋の前に立つ。
   タケル、寂しそうに自分の部屋の鍵を
   開けようとする。
クリスティン「ねぇ、部屋に来ない?」
タケル「えっ?」
   再び向き合う二人。
クリスティン「私の部屋に寄ってかない?」
タケル「え、いいの?」
   笑顔で答えるクリスティン、鍵を開け、
   タケルを手招きする。
   嬉しそうに微笑み、クリスティンに誘
   われるまま部屋に入っていくタケル。

○クリスティンの部屋・居間 (夜)
   タケル、クリスティンに促され部屋に
   入ってくる。
   クリスティン、タケルに続いて入り、
   入口の壁の照明スイッチを入れる。
   明かりがつき、女らしい小綺麗な、セ
   ンスのいいリビングが照らし出される。
   窓際に机、リビングの中央にはソファ
   とガラステーブルがしつらえてある。
タケル「きれいな部屋だなぁ。俺のとは大違
 いだ」
クリスティン「何か飲む?」
タケル「ああ」
   タケル、クリスティンの机に近づく。
   机の上にはクリスティンのレポートと、
   数々の日本についての資料が置いてあ
   る。
   タケル、資料のいくつかを一覧し、レ
   ポートを手に取る。
   表紙には英語で「文化的侵略と日本」
   と書いてある。
   タケル、パラパラとページをめくる。
タケル「出来たんだ、レポート」
クリスティン「まぁね」
   クリスティン、両手にフルーツパンチ
   が入ったコップを持ってタケルの側に
   来る。
タケル「ありがとう」
クリスティン「座って」
   タケルとクリスティン、並んでソファ
   に座る。
タケル「結構調べたみたいだね」
クリスティン「資料を探すのが一番大変だっ
 たのよ。正確なのってなかなかなくって」
タケル「だろうね。偏見に満ちたのが多いか
 らね」
クリスティン「で、どう思う?」
   と言いつつタケルの方へ身を乗り出す。
タケル「うん。ザッとしか読んでないからあ
 まり細かい事は言えないけど。大体あって
 ると思うんだけど、日本人がアメリカ文化
 を受け入れたのってアメリカによる押しつ
 けじゃないと思うんだ」
クリスティン「どうして?」
タケル「うーん。確かに戦後はある部分アメ
 リカ政府の押しつけ的な事もあったろうけ
 ど、今、例えばラップが流行ったりするの
 はそれとはあまり関係ないんじゃないかな
 って思うんだ」
クリスティン「わからない。どういう事?」
タケル「うーん」
   言葉につまるタケル。
クリスティン「ごめん。難しい事よね、それ
 って。何か音楽でもかけようか?」
タケル「そうだね」
   クリスティン、立ち上がり、コンポに
   CDをセットする。
クリスティン「ボーイズ・トゥ・メンよ。知
 ってる?」
タケル「ああ。いいね」
   クリスティン、タケルの横に戻る。
クリスティン「日本でも有名なの?彼らって
 」
タケル「結構ね」
クリスティン「不思議ね。あなた達は彼らを
 知ってるのに、私は日本の有名人なんてひ
 とりも知らない」
タケル「そうか。そうだよな」
クリスティン「有名人だけじゃないわ。私、
 日本の事って何も知らない。今まで知ろう
 ともしなかったわ」
タケル「でも、興味を持ちすぎるのもどうか
 な。逆に自分達の文化に興味がなくなっち
 ゃうのも情けないような気がする」
クリスティン「なんで?」
タケル「日本人て自分の国にあまり興味がな
 いんだ。別の言い方をすれば誇りを持てな
 いって事。何故だかはわからないけど、日
 本人的とか、愛国心とかっていうのは俺達
 にとってすごくみっともないっていうか、
 恥ずかしい事なんだ」
クリスティン「ふ〜ん」
タケル「アメリカの影響もあるかも知れない
 けど、でも俺達は自発的に日本人である事
 を嫌ってる。俺達は何でもアメリカの方が
 いいと思いがちだし、だからみんなアメリ
 カ人みたいになりたいって思ってるし」
クリスティン「タケルはどうなの?」
タケル「俺もアメリカ人になりたかったから
 ここに来たんだと思う。だから英語が出来
 なかったりして、劣等感を感じてた。英語
 が出来なきゃアメリカ人じゃないからね。
 でも違った。なれないんだよ他の国の人間
 になんか」
クリスティン「そうね。なる必要なんかない
 わ」
タケル「でも自分が日本人である事に誇りが
 持てないんだ」
クリスティン「それってアメリカのせい?」
タケル「どうだろう。自分で勝手に日本を嫌
 ってるだけなんだと思うけど」
クリスティン「なんだかよくわからないわ」
   疲れたよな顔をするクリスティン。
   それに気づくタケル。
タケル「ごめん。ちょっと話が難しくなっち
 ゃったね。でも、全体的には申し分ないと
 思うよ、このレポート」
クリスティン「ありがとう」
   二人とも会話がなくなり、無言でフル
   ーツパンチを飲む。
   ため息をつくクリスティン。
   座がいくぶんシラケている。
クリスティン「でも、アメリカってそんなに
 良くないわ。麻薬がはびこってるし、銃も
、 それを使った犯罪も後を絶たない」
   かなりシリアスなムードのクリスティ
   ン。
タケル「確かに」
クリスティン「みんな麻薬にすがって生きて
 る。ロブだってそうよ。私はやめてもらい
 たいのに」
タケル「ロブは君の言うこと聞かないの?」
クリスティン「馬の耳に念仏って感じ」
タケル「なんてヤツだ。俺なら絶対やめるけ
 どね。だって好きな人を困らせたくないじ
 ゃないか」
クリスティン「タケルは真面目なのよ。でも
 それが一番大切な事」
タケル「そう?」
クリスティン「そうよ。私はタケルみたいな
 人っていいと思う」
タケル「えっ...」
   驚き、クリスティンを見るタケル。
   クリスティンも魅惑的な瞳でタケルを
   見る。
タケル「クリスティン...」
   タケル、クリスティンの頬に手を当て
   る。
   クリスティン、緊張した面もちでタケ
   ルの手を見、そしてタケルを見つめる。
   タケルの顔が次第にクリスティンの顔
   に近づいていき、そしてタケルの唇と
   クリスティンの唇が重なり合う。
   一度離れ、再び唇を合わせ、今度は抱
   き合う二人。


次回につづく


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