それぞれのご主人様

第2話 つばさとご主人様

作:サイバスター


やっほー!ご主人様!今日はボク、つばさの話だよ!

今日は日曜日、ご主人様のアルバイトのお休みの日なんだ。ご主人様はゆっくりお休み中。でも、外はとびっきりのいい天気。こんな日はお出かけしたいな。

「ようし、起こしちゃえ。」

ボクはちょっぴり悪いと思いながら、寝ているご主人様の肩に手を掛けて、揺らしてみた。

「ご主人様、いい天気だよ。」
「もう少し寝かせてくれよ〜ツバサ。」

ご主人様の甘えた声にちょっぴりどきどきしたけれど、今日はだめ、許してあげないんだから。

「せっかくのいい天気なんだから、お出かけしようよ!ご主人様!」

思い切ってボク、布団をはいじゃった。

「仕方ないなあ。起きるよ。いつも元気だな、ツバサは。」
「えへへ・・・」

着替えを終わって、洗顔と歯磨きを終えたご主人様は部屋の窓から外を眺めたの。

「確かにいい天気だな。よし、あそこに行こう。」
「え?どこに行くの?」
「まあ、ついてきなって。僕に任せて。」

そう言うと、ご主人様はニッコリと目を細めてボクに微笑んだの。一体どこに行くんだろう?
ボクは目的地までの電車やバスで何回も聞いたけれど、ご主人様ったら、ただ一言、

「内緒だよ。」

って微笑むだけ・・・だんだん山に近づいている事は分かるんだけど・・・
電車に乗って一時間ぐらい経ったかな、ボク達は高原の麓の駅についたよ。

「ツバサ、来てごらん。」

駅前の観光案内看板の前で手招きするご主人様の指した先は、

「たまには体を動かすのも悪くないよね、これから行く先はここさ。」

山の森アスレチック?そう、そこは木やロープで組み立てられた器具を自然の地形に合わせて配置して、自然に運動を楽しめるフィールドアスレチックだったんだ。

「ツバサはこういうの、好きだろ?さ、行こう。」
「うんっ!」

ご主人様はボクの手を取って走り出したんだ。暖かくて、大きな手。なんだか、ボク、嬉しい。

山の森アスレチック場に着いたボクとご主人様は、いろんなアトラクションに挑戦したよ。
丸太で出来た平均台や、ロープの網で出来た谷渡り、小さな筏での池渡り、ご主人様と一緒だから、どれも皆楽しくって。ちょっぴり高いところにあるアトラクションだってへっちゃらだったよ。跳んだり、駆けたり、すっごく楽しい。

コースの折り返し地点に着いた頃は、ちょうどお昼になっていて、お腹が空いたボク達は、レストランで休憩する事にしたんだ。

「ふう、生き返るなあ。」

配られた冷たい水をぐっと飲み干したご主人様、額に流れる汗が・・・かっこいい・・・

「あ、ご主人様、これ。」

ボクはウエストポーチからタオルを出してご主人様に渡したんだ。

「サンキュ、ツバサ。」

ご主人様はそのタオルで汗を拭ってくれた。こうして二人きりで差し向かいで、ボクの瞳にはご主人様しか映っていない。これって、デート?
そう思っただけでボク、急に胸がドキドキしてきちゃった。すっごい緊張・・・

「どうした?ツバサ。」
「な、なんでもないよ。ただ、・・・あの・・・」
「なにかな?」

ボクはその時に言いたかった事があったんだけど、ウェイトレスのお姉さんが持ってきた料理に邪魔されちゃって、言えなくなっちゃった。
お昼ごはんを食べ終わって、午後のコーススタート。一つ一つ確実にアトラクションをクリアーしていくご主人様とボク。

「よし、もう一息だ。」
「うん!」

最後のアトラクションで、ご主人様に励まされたボクは丸太の飛び石にチャレンジ。ご主人様の待つゴールがもうすぐそこにって言うときに、うっかりして足を滑らせちゃった。

「キャーッ!」
「ツバサ、危ない!」

この落ちていく感覚・・・嫌だ・・・またなんて・・・でも・・・
なんだかあったかい・・・体も、唇も・・・え?唇!?
恐る恐る瞼を開けたら、ご主人様とボク、キスしてた。

「あ、ご主人様、ごめんなさい。ホントはボクがご主人様を守らなきゃいけないのに・・・」
「いいんだよ、大切な人が危ない目にあっているから自然に体が動いたんだ。」
「ご主人様・・・」

ご主人様がボクを”大切な人”だって?キスのドキドキにましてもっとドキドキ・・・ボク、どうしよう・・・

「あとさ、ツバサ、キスはこれで2回目だね。」
「え?」

夕日に染まったご主人様がちょっと照れたように頭をかきながら言った。でも・・・2回目ってどういう事?ボク・・・わからない・・・

「さ、遅くならないうちに帰ろうか。」

帰りはご主人様と腕を組んで帰ったよ。

「楽しかったね、ご主人様。」
「ああ、ツバサが楽しんでくれて、嬉しいよ。」

ご主人様の笑顔を見るだけで、ボク、とっても嬉しい。
バスと電車を乗り継いで、自宅のある駅に着いた。ここから15分歩くともうすぐお家・・・楽しいデートもこれで終わり。
ボクはさっきの事が気になって、ご主人様に聞いてみた。

「ねえ、ご主人様、ちょっと聞いても良いかな?」
「何かな?」
「さっき、2回目って言ってたけど・・・」
「ああ。ほら、あの、覚えてるかな?昔さ、ツバサが怪我してたころ、いくら餌をあげても食べてくれなくってさ、困った挙句に、僕、鳥の餌を口で砕いて、口移しで食べさせた事があったろ?」
「うん。」
「それ、僕のファーストキス・・・だったんだよ。」
「あ・・・。」

ボク、思い出した。あの時の粟粒と稗粒、そして慌てて食べたせいでちょっぴり唇を傷つけて、ちょっぴり滲んだご主人様の血の味・・・。
そうか、ご主人様、覚えていてくれたんだ・・・
ボク、嬉しくって、掴んでいたご主人様の腕、ぎゅっと抱きしめちゃった。

「でも、これからは嘴で痛い思いすることはないみたい。」
「あー、ご主人様ったら、もう!」
「ははは・・・」

デリカシーってものがないのかしら?もうっ!ちょっと怒ったけど・・・
これからは・・・っていうことは・・・
またご主人様とキス出来るチャンスがあるって事よね?
ようし、ボク、もっともっとご主人様のために頑張ろう!


あとがき

ふー、やっと第2話が出来ました。
ツバサを題材にするとき、やっぱり少しアウトドアっぽい雰囲気がいいのかなって思い、こんな感じになりました。それに、ツバサとのファーストキスはこんな偶然からの方がいいのかも知れないって、そういうイメージなんです。

さてさて、次はトリオの最後を飾るハムスターのクルミの登場です。

どんなお話になりますやら・・・


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