さくら荘すとーりー

第2話 歓迎会はやっぱりお風呂

作:サイバスター


「む!お主、何奴!本さくら荘を女子寮と知っての狼藉か!」
手にした木刀を構えて今にも切りかからんとする寮生に和也は冷や汗をかきかき制止する。
 「な!なに!キミは!四谷京香!ちょっと待て!」
寮生は同じ学部に通い、女子にして剣道部主将を務める三沢京香であった。京香は学生の分際で結婚をしていると言う和也を毛嫌いしており、あまっさえ自分より成績も良く、数ヶ月前に果し合いをした際にも、自らが放った得意の太刀筋を見切られて完敗を喫した宿敵として、和也を敵視していたのだ。
 「む?貴様!千歳和也!ここであったが百年目、尋常に勝負せい!」
 「いや、だからその、ここじゃ危ないから、止めよう。って、だめか。」
和也は止めようとしたが、京香は聞く耳を持たない。
 「喰らえ!」
ロビーで京香はいきなり和也に切りかかる。和也はその切っ先を素手ですいっといなし、体を交わした。
 「どうした?騒々しいな。」
管理人室から顔を出したさくらは、二人の様子を見ると、すぐさま飛び出し、制止に入った。
 「さくらさん、こやつ、侵入者です!」
 「京香、あたしの亭主に何をしようってんだい?」
 「は?」
 「だから、あたしの亭主に。」
 「まさか!さくらさんの結婚相手とは・・・我が宿敵、千歳和也なのか!?」
 「今日から新しい管理人が来ると言っただろう。やっと亭主と暮らせるようになった。そういうことだ。」
さくらの言葉に、京香の心の中では足下の地面がガラガラと崩れていく音が響いていた。
 「そ、そんな。我が宿敵、千歳和也が、我が敬愛するさくらさんの・・・」
ガックリと膝を突く京香に和也は声をかける。
 「京香君、俺はおなかが空いたから部屋に戻るよ。じゃ。」
その一言が再び京香の闘志に火を点けたようだ。
 「おのれ!認めないぞ。千歳和也!」
京香はプライドが高い女性だ。おめおめと引き下がるような玉じゃないことはよく知っている。
 「やれやれ。京香君、一つだけ言っておくよ。君の心の中に少しでも“剣を楽しむ心”があるのなら、俺に勝てるかもね。まあ、今の意固地になってる京香君のままなら何時まで経っても結果は同じだよ。」
 「なに?貴様に何がわかる!」
 「確かに俺には京香君の心の中にあるものが何なのかはわからない。しかし、君の表情、視線の強さ、そこから汲み取れるのは俺への敵対心と憎しみ。ぐらいだね。これからさくらや、他の寮生ともここで暮らしていくんだから、俺としては仲良く、楽しく暮らしたい。そうじゃないかな?」
構えた木刀の切っ先と視線をまっすぐに見据えて、和也は語りかける。その真剣な眼差しは京香の心に少しだけ訴えるものを伝えた。<このまっすぐな視線は何だ?もしや、さくらさんはこの男の、真剣なところに心を許されたのか・・・>そう思う京香に、和也はこの機を逃さず、京香の心に畳み掛ける。
 「京香君、君がどんな思いで剣の道を歩んでいるのか、名誉と栄光のためなのか、心を磨くためにやっているのか、それすらもわからない俺だけど、今まで京香君がやってきた中で、今まで出来なかった技が出来たときとか、自分より強そうな相手と対戦した結果、勝利したときなんか、“嬉しい”とか、“楽しい”って思ったんじゃないかな。そのときの事を思い出せば、これからもっと剣道が“楽しく”なると思うけどな。」
 「た、確かに。貴様の言う通りかもしれないな。ふっ・・・貴様から“こころ”を説かれようとは、私もまだまだ未熟だな。今日のところは剣を収めよう。いずれは決着をつけさせてもらうから、その首、しかと洗っておけよ。じゃあな。」
和也の説得は成功したようだ。<考えを切り替えよう、さくらさんの大切な人を傷つけるのも忍びない>と思った京香はそそくさと木刀をしまい、自室へと帰ろうとする。そんな京香に和也は彼女が部屋の鍵を渡してないことに気がつき、さくらに声をかける。
 「さくら、鍵、渡してあげて。」
 「ああ、そうそう、京香、鍵鍵。」
鍵を取り、さっと鍵を渡すさくらに、京香はさくらにそっと耳打ちした。

 「何だか、さくらさんがあいつと結婚した訳がわかったような気がします。」
と。途端に顔色がさくら色に染まったかと思うと、さくらは照れ隠しのためか、
 「ばーか、生意気言うんじゃないの。」
と、京香の背中をペシッと叩いて送り出す。
 「失礼しました!」
そう言うと、京香はさっきまでの怒りの表情はどこへやら、晴れ晴れした女性らしい表情で自室へと足を向けていった。<もっと早くあいつと、千歳和也と出会っていたら、我が剣の修行も楽しいものになっていたかもしれない。>京香は少し複雑な気分だった。
ひとしきりの嵐が過ぎ去った後、二人きりになったさくらと和也は、少し冷めた食卓に着き、久し振りの二人だけの団欒を楽しんだ。
 「冷めちゃったね、これ、暖め直せばよかったかな?」
 「そんなことないさ。さくらが作ったのは何でも美味いよ。」
少し心配げにするさくらに、和也は突き合わせの蒸しポテトを頬張りながら答える。本当に美味しそうに料理にぱく付く和也の様子を見て、さくらは安心し、それと同時に、幸福感に包まれていた。
 「何とか、寮生とも仲良くやっていけそうね。」
 「うん。反対されたらどうしようかって、冷や冷やしたよ。あ、ゴハンお代わり。」
ほっぺたを膨らませながら茶碗を差し出す和也。よく見ると、口の脇に飯粒がついている。
 「あー、和也ったらもう・・・。」
目ざとく発見したさくらはひょいとそれを摘み取り、自らの口に運ぶ。幸せそうにうっとりと和也を見つめている。
やがて、食事を終えた和也たちは、寮内を見回る。廊下の窓や、食堂の窓やドアの戸締りを確認し、セントラルエアコンの運転状況の確認、風呂に地下源泉を送るポンプの点検を一通り行うと、門限として設定している夜10時になる。時刻を確認して表門に鍵を掛け、玄関の自動ドアをロックする。ここからが本当の二人の時間が始まる。
 「ねえ、和也、お風呂入ろう。」
 「えっ!?ここ女子寮だろ?風呂場一つしかないし。」
 「あたしと一緒じゃ、いや?」
さくらから誘われては断る理由はない。和也は24時間いつでも入る事が出来る風呂、温泉浴場に向かった。さくらと二人きりで入るはずであったが、脱衣所の籠には寮生達の脱いだ服がきちんと入っている。
 「いくらなんでもまずいんじゃないか?これ。」
 「良いの良いの。ほら。入って入って。」
さくらに促され、しぶしぶ浴室に入った和也は驚いた。寮生全員、総勢15名がさくらたちを待ち構えていた。
 「ようこそ!さくら荘へ!キャ〜〜〜!」
バスタオル一枚の寮生たちは、さくらも含めて和也の歓迎会をここ、風呂場で行うよう、準備をしていたのだ。
 「ど、どうしたんだ?君達!」
 「歓迎会よ、歓迎会。それに、管理人さんと言えば、私達の親も同然。親子でお風呂、最高のスキンシップでしょ?」
 「さ、こっちこっち。ここに座って。」
真美と雛子は腰掛を蛇口の前に置き、和也を座らせる。正面の壁全面に取り付けられた大きな鏡がさくらをはじめ、寮生たちの艶めかしい姿を写し出す。
 「みんな準備は良い?せーの!」
真美の掛け声で寮生たちは一斉にバスタオルを取り去る。彼女達はいつそんなものを作ったのか、市販のナイロンタオルを生地にしたチューブトップのビキニと手袋を身に着けている。
 「へへ〜。びっくりした?ここでボディーシャンプーを泡立てて・・・よし。和也さん、行きますよ!」
上下のビキニと、手袋にたっぷりの泡を立てた寮生たちは、瞬く間にさくらと和也に群がり、全身を擦り付けるようにして洗い始める。たちまちの内に腰に巻いていたタオルは剥がれ落ち、全身が泡でぬるぬるになる。やはり19歳の健康な男子の悲しいサガ、やばいと思いつつも時折腿が擦り付けられたりすると、海綿体が程よく充血してしまう。さくらの方はと言うと、日頃からさくらに百合百合な感情を持っていた寮生に取り囲まれ、ここぞとばかり攻め立てられている。何やら怪しい雰囲気だ。 「どうですか?和也さん。」
 「気持ち良いけどさ、ちょっとみんなサービスよすぎ。これじゃ湯船に浸かる前に逆上せちゃうよ。」 「それもそうですね。亜矢ちゃん!ホイッスル!」
 「はーい。」
真美の声に控えていた四谷亜矢(中学2年生、ちょっと大人しめ。)がピピーっと笛を吹く。すると、取り囲んでいた寮生たちがさっと引き、シャワーで温めの湯を二人に浴びせ掛け、自分達も体に付いた泡を流し始める。程よい感じでクールダウンできた和也に、さくらは何だか物足りなそうだ。全身が桜色に上気しているのが見てわかる。
 「奥様はスタンバイオッケーにしてあるから、後は旦那さまにお任せするわ。お休みなさい&ごゆっくり。じゃ。」
真美と雛子は他の寮生を引き連れて三々五々風呂場から自室に引き上げていく。そして二人きりになったさくらと和也。

(作者より)さあ、この後この二人はどうなるのか?WEB表現の限界に挑むのか?それとも邪魔者が入るのか?ワクワクの第3話を待て。

戻る 第1話へ 第3話へ