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海外のフェリー事情を見てみよう (I)

石山 剛

極東アジア: 「2004年にフェリーで70,000人が旅行」(ロシア)

 地球の裏側の事情については異常なまでに詳しいのに、近隣諸国については呆れる程無知なのが平均的日本人だったりする(図星?笑)。 このロシアのフェリー事情も、意外な程に知られていないんじゃないかな。

 現在、サハリンのサハリン船舶会社(SASCO)は、大陸のワニノとホルムスク間で砕氷船を使った鉄道連絡船を通年運航していて、そ の航路は何と小樽にまで伸びている。2004年6月からは、コルサコフ/小樽間で定期貨物フェリーの試験運航も始まった。この会社は極東 ロシアでは極東船舶会社(FESCO)に次ぐ大手で、サハリンと大陸、クリル諸島の他、韓国の釜山(プサン)との間にも定期フェリー航路 を開設している。更に2004年6月1日からは、ホルムスクに本拠を置く別の会社サハリン・クリリが、ロシア人観光客の需要増を見越し て、マリーナ・ツベタエワとイーゴリ・ファルフトジノフの2隻体制で旅客のみを扱う運航を開始した。

 ロシア航路にはこの他、東日本海フェリーの稚内/コルサコフ航路、FESCOの伏木(高岡)/ウラジオストク航路がある。今年の夏は 涼しいサハリンで気軽にヨーロッパ気分を味わう、なんてのはどうだろうか。

南アジア・中東: 「カラチ―マスカット間のフェリー運航が間もなく始まる」(パキスタン)

 案外無知、という点ではアラビア海、ペルシャ湾のフェリー事情も同じかもしれない。中東の石油に毎日お世話になっているというのに、 何てことだろうねぇ。

 アラビア海では、インドのコーチンと湾岸諸国間でフェリー航路を開設しようとする動きが以前からあった。しかしどこかの国みたいな官 僚主義に阻まれて、ことごとく失敗に終わっていたらしい。ところがインドとパキスタンの間で和平推進が進展するにつれ、フェリーの運航が 計画されるようになってきた。2004年10月には、パキスタン国有海運会社(PSC)が、カラチ/グワダル/ドバイ航路、ムンバイ/カ ラチ/ドバイ航路の開設を発表している。またペルシャ湾でも、サウジアラビアのアッ・ダンマンとドバイを結ぶ定期旅客船の計画が進むな ど、フェリー航路開設の動きが活発になっている。

 こうした航路で使用される船舶は、ヨーロッパや日本の中古フェリーが大半で、ここは地中海、フィリピンに次ぐ、生きた巨大海事博物館 となっている。例えば、ナイフ・マリン・サービシーズのジャバル・アリ2、同3は、2001年にギリシャのアネク・ラインズから購入した カンジア、レシムノンで、実は日本のセントラルフェリーの第二セントラル、第五セントラルなのだ(と言っても、この船を知っている人が果 たして何人いることだろうか)。日本時代は川崎/阪神間を走っていたが、今ではイラクのウム・カスルとドバイ(ポート・ラシド)を結んで いる。

ヨーロッパ: 「フェリー航路に大鉈を振るいP&Oは1,200人削減」(英国)

 英国のP&Oといえば、クルーズ客船会社として理解している人が多いかと思う。しかしここのクルーズ部門は今や米国のカーニ バルの傘下にあり、英国のP&Oグループとは何の関係もない。それどころか、P&Oは米国、ドイツ、スペイン、オースト ラリアに保有していた資産を次々と処分し、コンテナ海運部門のP&Oネドロイドの持分も一部オランダ側に売却している。将来的に はグループの5分の1を占めるフェリー事業も売却して、陸に上がって港湾経営に集中することもあり得るというから、その衰退ぶりにショッ クを受けてしまう。

 トラックのための「海のバイパス」として貨物中心に発展してきた日本の長距離フェリーと異なって、ヨーロッパのフェリーは旅客に重点 を置く海峡渡船として発達してきた。かっては売上の大半を船上での免税販売が占め、安い酒を求めて「ブーズ・クルーズ(=酒盛りクルー ズ)」を楽しむ船客で、フェリー会社は儲かっていた。ところがEUの成立に伴い、1999年に免税販売が終了して経営環境が激変した(氷 河期の到来!)。更に近時、格安航空会社が台頭し、安さを求める旅行者を奪い続けている(雷撃機の襲来!!)。フェリー会社は、肥大化し てしまった収容力を、少ない需要に合わせるべく再編を余儀なくされ、生き残りに懸命になっている。

 こうした中、貨物に重点を置くスウェーデンのステナ・ラインは、ヨーロッパ最大のフェリー船隊を持つ企業にまで成長している。旅客中 心のヨーロッパのフェリー会社の進むべき道は、ひょっとすると貨物に収益の基礎を置く日本の長距離フェリー会社なのかもしれない。いずれ にせよ、これからヨーロッパのフェリー業界で始まるであろう変化の前触れとして、この事件は注目に値するだろう。

アメリカ: 「島はスーパーフェリーを必要としている」(米国)

 最後はハワイの話で、明るくぱあっと盛り上がろう。このスーパーフェリー計画、米国アラバマ州モービルにあるオースタルの造船所で建 造する2隻のカー・フェリーで、ハワイの主要な四つの島を結んでしまおうというもの。「H-4」と呼ばれる計画だ。就航船は、在日米軍の ウェストパック・エクスプレスと同型の高速船になるらしい。

 もっともハワイでは、計画を歓迎する意見の他、自動車の増加を懸念する声や、港湾改修のために4000万ドルも州議会が支出すること に反対する声などが上がっていて、もめにもめている(浮き世とはそんなものよ。笑)。しかし運航が始まれば、ハワイでの旅の仕方は確実に 変わると思う。クルーズ船よりも楽しい船旅になるかもしれないよね。では、今回はこの辺で。

Information

 本稿は、「海外のフェリー事情を見てみよう」、フェリーズvol. 5(海事プレス社、2005年)に加筆・訂正したものです。古くなっている情報もありますが、記録として掲載することにしました。