竜創騎兵ドラグーンBLADE
第06回 共通リプレイ:
兄貴の世界 兄貴の時代(笑)
R4 担当マスター:テイク鬨道


 懐かしい、いや、久しぶり、と言うべきか?
「そそそそそれは当然かもしれない‥‥」
「そそそそそれは当然かもしれない‥‥」
 あれから12年もの、月日が流れた。
 思い返せば、いろいろな出来事があった。
 ぽっちゃりのお見合いを、ぽっちゃりに片想いしているがぶのみといっしょに皆でぶっつぶそうとしたり、ムッツリのお母さんがやってきて、見栄を張ってたムッツリの嘘がバレないようにがムッツリが皆の兄貴なんだと言うお芝居をしたり、忘れえぬ『皆』との思い出、『お約束』の日々。
 当時と比べて、今も裏通りに残る者は僅かにして、たった20人ばかり。あまりにも少ない。
 だけど、12年間、終わらずに繰り返してきた。
 いつものように砂混じりの風が、髪をなびかせる。
 少年とすれ違い、誰かの悲鳴が聞こえて、走り出す。一本道を奥に向かって進んでいく。

「そそそそそそそそそそこで何をしてるっ!?」
「そそそそそそそそそそこで何をしてるっ!?」
 何故か、2人の荒くれ者にいぢめられている眼帯娘ニーザ・ニールセン。すぐに助けに入る。
「ももももももう大丈夫です。‥‥大丈夫!?」
「ももももももう大丈夫です。‥‥大丈夫!?」
 問いかけると、ニーザは小さな声で答えた。
「拙者は大丈夫でござるよ、スっちゃん‥‥」
 ニーザは遠い目をしている。左眼をまぶしそうに目を細めている。怪我はしていないようだ。
「この路地の向こうには行かせないから!」
「通してほしければ、カネを出しなさい!」
 凸凹コンビ、ピペ・ペピタとジャム・リブル。
ケケケ、ヒヒヒ、頭悪そうな笑いを浮かべる。
「そのカネ、拙者がいただくでこざるよ!」
 ピペとジャムから、金銭の類を恐喝しようと目論むニーザ。Wカツアゲだ。相互カツアゲだ。
「スっちゃんは最期、拙者にこう言ったのでござる。『ニーザ、貴方は私がいなくても大丈夫。頑張れるよ』と。拙者は、道半ばにして倒れたスっちゃんの志を継いで、スラムの恵まれない人々を助けるための『ステラ基金』への積極的な募金を皆さんに呼びかけているだけでござる。カツアゲとか思われるのは心外でござるよ」
 身体がだるい、疲れが取れない、眠れない、食欲がない、運がない、異性にモテない、出番が少ない、活躍できない、おいしいとこは他人に取られる、セリフが自分らしくない、誰にもわかってもらえない、そんな気がする、そんなスラムの恵まれない人々のために、ステラと同じような義侠心でニーザは行動しているのだ。
「『ステラ基金』に協力お願いするでござる」
 集まったお金は、うっかり遅刻してしまい、そのまま引きこもりになりそうなくらい心に深い傷を刻んだ可哀想な人のケアのために使おう。
 泣いている皆が、いつも笑ってくれるように。
 ニーザは微笑んだ。愛する人を失っても、腕に残る暖かさを忘れずに、冷たくなる躯を抱きしめたままで、まだ笑える。強く、したたかに。
「あたいは認めないよ! あたいたちだって、小さい頃から食うものも食わず、10にもならない年で毎日働いて、苦労してきたんだよ」
「ザマラマ・ルゥ!! ‥‥って唱えるよ!」
 ピペは曲がった人差し指でスリを試す動作をし、ジャムは魔術師の杖を振り上げて脅した。
 この裏通りは凸凹コンビな2人の縄張りなのだ。
 自分達のために通行料名目の上納金を集めて何が悪い!? アゴ兄貴のちびっこハウスのため? ステラのための基金? 死人の亡霊が笑わせる。
 情けは、甘えは、世のため人のためにならない。
 自分で働いた稼ぎで、ご飯を食べて、思いっきり遊ぶから、毎日が楽しいんだ。恵んで貰った小銭じゃ、生きている喜びなんてありゃしない。
 だから、盗賊は盗賊らしく、追い剥ぎ、空き巣、強盗、汗水を流してお仕事を頑張らなくっちゃいけないんだ。
 ピペとジャムは物乞いではないし、おちぶれても物乞いのようにはなれない。
「ピペ殿、ジャム殿は、可哀想な人でござった。カネをむしり取ろうとは拙者の過ちでごさる」
 ニーザは非を認めて謝罪した。ステラ基金の募金箱がお金でいっぱいになったら、生きているだけで不幸、そんな可哀想な彼女達にも幸せを分けてあげようと思う。物質的な金銭じゃなくて、幸福の気持ちを分けてあげたいと思った。
 他人の幸せを、まるで自分の幸せのように喜び、分かち合って、受け取ってくれるだろうか?
「では、そちらの2人、カネを出すでござる」
 ニーザは微笑んで、2人に募金箱を向けた。
「さささささっき助けてあげたじゃない。恩人なんだから、そっちがカネを出しなさいよ!」
 再びWカツアゲだ。相互カツアゲだ。ピペとジャムも狙ってるから、トリプル・カツアゲだ。
「そそそそそれは、ステラらしくないかも?」
「わわわ私がやれば何でもステラらしいの!」
 もうこの世にはいないステラ。ナイフで刺されて殺されたステラ。兄貴が亡くなったとき、第2第3の兄貴が登場したパターンで、第2第3のステラも出てくる。それが『お約束』だ。
「わわわ私がステラ・エステーラなにょー!!」
「‥‥にょ!? ももももしかして、あなた?」
 怪しいが、ステラっぽい2人。裏通りのヒロイン(そうだったのか?)、新しいステラだ。
「ふふん、拙者は騙さないでござる」と、元祖ストーカーでステラマニアのニーザは冷笑した。
「死んじゃった人と同じ名前の人が現れても、同姓同名の別人として扱う! それが、この世界での常識! 『お約束』なのでござる!」
 誰が最初に、この法則を考えたか知らないが以後、当たり前のルールとして踏襲されている。
「ああああたしこそ、本物の『星のようなライオン』ステラ・エステーラことスっちょんだ」
 『お約束』がどうであれ、新しいステラは2人いる。1人は、服装の雰囲気、恰好は似ているが、ステラと比べて、やけに背が低いような。
 そして、全体的に色が黒っぽい。黒ステラ?
 もう1人は、ステラに(色が)似て白っぽい。
「お、お、お、おおおおおむすびが、す、すす好き、なななんだな。‥‥やってみるにょ!?」
 白ステラの方が(リンゴ・タイフゥンっぽい。てゆーか、あの縦巻きロールの髪型でバレる)、黒ステラに(背丈から見て子供か、あるいはパラみたい)、ステラの物真似を試している。真のステラはどっちか? ステラ・コンテストだ。
「あああああたしは、そんなこと言わんわ!!」
 黒ステラの方は、ステラっぽくツッコミ。
「むっ、黒ステラ、なかなかにょ。確かに言われて見れば、一人称は『あたし』だったような気もするにょ。アバウトだから、月によっては統一されていなかった可能性もあるがにょー」
 白ステラの方は、鼻の穴を大きく膨らませているステラの顔ではなく、素で感心していた。
「ははは鼻の穴なんか膨らませておらんぞ!!」
「何、言ってるにょ。ステラと言えば、トレードマークは鼻の穴。ちゃんとチャーミングポイントになってるじゃない、鼻の穴。キーワード『鼻の穴』で検索すれば、ステラの名前が」
「ででで出てこん、絶対に出てこんわーっ!!」
 ツッコミまくる黒ステラの鼻の穴は大きく膨らんでいる。白ステラの採点するステラ審査でステラ指数がポイント高く評価された。鼻毛の2、3本が添えられていれば完璧だ。惜しい。
「とゆーことで、鼻毛を出すにょ。鼻毛を伸ばすのが面倒なら、この付け鼻毛をあげるにょ」
「いいいイヤじゃーっ!! 鼻毛はイヤーッ!!」
「ワガママにょ。そんなことじゃ、一人前のステラにはなれないにょ。さりげなく鼻毛にょ」
 白ステラは、ぴろろ、ぴろろ、と鼻息でなびかせている。ステラみたいだ。鼻の穴の感じが。
「お似合いにょ。これでステラそっくりかも」
「ヤメテーッ!! 助けてーッ!! イヤーン!!」
 白ステラは黒々とした剛毛の付け鼻毛ひとつまみを、黒ステラの鼻の穴に埋めこもうと迫る。
「‥‥そろそろ、あいつを呼ぶんじゃない?」
 凸凹コンビのジャムは、相方のヒペに訊いた。
「別にどうだっていいけど、これも凸凹コンビに課せられた『お約束』だから仕方ないか?」
 ここにいる皆と、ここにいない『皆』で、声をひとつに、「せぇーのぉーでぇ」と叫んだ。
『‥‥兄貴ィ! アァーニィキィーッ!!』

『なんじゃーい、わぁれー!』
 アゴをシャクレさせた大バカ野郎達の登場だ。
『俺らを呼んだか? ああ、呼んだのか!?』
『呼んだッス! ああ、呼びましたッス!』
 月に1日だけ、アールョンにあると言う、とある細い路地が封鎖される。30日に1日、迷惑のかかりにくい昼間の暑い時間帯だけ、恒例の『兄貴と40人の盗賊』風の小芝居が始まる。
 一風変わった登場人物の濃いストーリーだけに「関わらない方が賢明だね。親切心から言わせてもらうが、あーゆーとこは避けておくべきだ。
 実態を知らないほうが幸せなこともある。最悪、君も、アレの仲間だと思われるよ」と注意されがちだが、余計な忠告には反したくなるのが人情である。そんな日に限って、集まる面々。いつもの日に、いつもの顔ぶれ。始まり始まりー。
「真の『約束』継承者、魔王兄貴である!!」
「前略中略後略、勇者兄貴マグニだぁっ!!」
 そこで、繰り返されている毎度お馴染みのシチュエーション。『皆』が大好きな黄金パターン。行く手を邪魔をするためだけのイベント。
 オリジナリティの無さはパロディよりも劣る。
 困っている人を助けたり、お使いをさせられたり、一人語りを聞かされたり、本当に無意味。
 やりたいことをやらせてくれるわけじゃない。誰もが大きなシナリオの中の手駒でしかない。
 ほんの少し何かを我慢して、自分が自分を殺して、世界の片隅に居場所を見つける。それが日の当たらない裏通りのような場所だとしても。
「ちびっこハウスのちびっこ達と『約束』してしまったんだ。アゴ兄貴が死んで悲しい顔をしているちびっこ達を明るくしてやろうと、俺は言った。俺が皆の新しい兄貴になるってな!」
「俺も! 俺も! 『約束』したちゅーに!!」
「真似すんなよ。俺が考えたネタをパクるな」
「中略しただけで、打ち合わせ通りだって!」
 暗黒兄貴改めアールョンのラスボスである魔王兄貴ことブレイク・ゴルドレオンと、勇者兄貴ことマグニ・ゴルドレオン。仲がいいから、ケンカばっかりしていた。裏通りに兄貴達が現れて、兄貴の取り巻き達の出番が巡ってくる、「いつものシーンをやるにょ。ステラ最大の見せ場として有名なアレにょ。頭に銅貨1枚ほどのハゲがあることを告白するシーンにょ!」
「‥‥そそそそれが、最大の見せ場なのか?」
 はずが、白ステラ&黒ステラの漫才が続いている。ツカミから、ボケにツッコミ、ボケにノリツッコミ、ボケにボケ返し、オチまで、あらゆる高等テクニックが披露された。魔王兄貴&勇者兄貴の本格派漫才に負けていない出来だ。
「みみみみ皆、あたし、ずっと隠していたけど、実は頭に銅貨1枚ほどのハゲがあるんだ‥‥」
 髪の毛をかき分け、ハゲの存在をさらした。
「せせせ世界を救うためだ。恥ずかしいけど仕方ない。このハゲ、皆の好きに使ってくれ!!」
 最終回『奇跡の円形脱毛症』の名ゼリフだ。
 ステラの秘密の10円ハゲで世界は守られた。
「似てるにょーっ! 前のステラ役だったオカマさんより、ずっとそっくりさんだにょー!!」
 本物のステラって(最初のステラ。オリジナル・ステラ)、こんな感じだったんじゃないかな? と思わせるだけの演技力が伝わってくる。
「あんたは、えらい。本物のステラにょ、黒」
「ありがとう、白! 君だって、ステラだよ」
 白と黒。2人のステラは、自分達がステラであることに気付く。ステラは1人じゃない。世界と時代を超えて演じられるヒロインだった。
 そして、裏通りのヒーローは兄貴だった。同じように世界と時代を超えて、幅広い世代に愛されている。だから、兄貴もまた1人じゃない。
「真の漢と漢がガチンコ勝負かます裏通りを通称『漢の穴』に変える戦いが始まったのだ!」
「お、『漢の穴』だと? 鼻の穴じゃない!? いったい、どこの穴のことなんだ、それは!!」
 兄貴2人、お笑いの世界で負け犬にはなりたくなかった。爆笑必至の兄貴ネタで巻き返す。
「俺に言わせるのか? 言ってもいいのか?」
「否、聞きたいような、聞きたくないような」
 全然、想像もしたくないような、したくない。
「マグニはバカだなー。漢の穴と言えば‥‥」
 魔王兄貴は、勇者兄貴の耳元でコソコソ囁いた。勇者兄貴は、ぽっと頬を赤らめる。耳まで。
「‥‥い、息がこそばゆいよぉ〜。マジで?」
 二言、三言、勇者兄貴の耳の穴に息を吹きかけているうちに、なんとなく魔王兄貴も変な状況に照れて、変な気持ちになって心臓が高鳴る。
「うふふふふ、ヤダ〜、もう冗談ばっかり〜」
「ホントだって〜、漢しかない穴なんだぜ〜」
 2人の会話も、つい可愛くなってしまった。ノリと勢いでウインクなんかしちゃったりして。
「男色は大いに結構だすが、どっちもそれじゃ、兄貴を名乗るには漢らしくなさすぎるべ!」
 サブリミナル・ゴルドレオンは、愛しさと優しさに溺れた馴れ合いを非難する。強引なのは兄貴、襲うのは兄貴、被害者は兄貴じゃない。
「そーゆーことを兄貴にやられるのは、おいらの役目だべ! ‥‥イヤ〜ン、ウッフ〜ン☆」
 兄貴2人の左右の耳たぶを噛まれて、サブリミナルは身もだえ、もじもじとくねらせた。
「ダメダメーッ! そんなの兄貴失格! 女の子に興味がないなんて、漢として病気だよー」
 マイム・ディアは、丈の短めなスカートをたくしあげ、むっちりとした太股をあらわにする。
「どうしちゃったのかな、あたし? 変になっちゃったの。誰か見てくれないかな、ココ」
 マイムは、兄貴をお医者さんゴッコに誘う。
「本当のお兄ちゃんなら喜んで付き合ってくれたのに! ‥‥ヒッ、こ、怖いよ。2人同時に相手なんて、やめてぇ、お願い、アアァーン」
 前から後ろから、マイムのスカートを翻して、頭を突っ込ませている兄貴2人。鼻息、荒い。
「白!!」
「黒!!」
『ややややめなさーい!!!!』
 黒ステラ&白ステラのツッコミが暴走する兄貴2人を制止させる。兄貴は、ステラに恋していなければならないからだ。『お約束』で。
「ち、違うんだ。無理矢理、こ、こいつが、俺の頭をひっつかまえて、押し込んだのであって、人様から後ろ指さされるような、だな、その、や、やましいようなことは何もやっとらん!」
「そうそう、それが真相。俺も以下同文だ!」
 魔王兄貴の弁明に、勇者兄貴も同調する。
「‥‥そそそそうは見えなかったけどぉ〜?」
「‥‥そそそそうは見えなかったけどぉ〜?」
 Wステラは、同じセリフを重ねて言った。
「ヒドイよ、お兄ちゃん。こんなことされたら、あたし、お嫁にいけないよ、びぇぇぇ〜ん!」
 嘘っぽい泣き声で振り返ると、マイムのスカートの中から、白いパンツがずり落ちている。
 魔王兄貴は激しく手を振って、首を振って、自分達はやってない! とアピールしていた。
「信じられない。兄貴、最低。見損なったよ」
「なんて破廉恥で卑猥下劣、恥ずべき行為だ」
 凸凹コンビ、ピペとジャムも兄貴2人を軽蔑していた。ニーザも怖い顔して、睨んでいる。
「パラっコの泣き真似に騙されてはならないべ。パラっコは、これでむしろ喜んでいるんだべ」
 サブリミナルは、白いパンツを脱がされて、泣きじゃくるマイムに小さな指を突きつける。
「おいらには、わかるんだべ。何故なら、おいらも、パラっコと同じ気持ちだすから‥‥」
 痛めつけるよりも、痛めつけられる方が好き。いぢめるより、いぢめられる方が好き。やりた
いことをやるより、やりたくないことをやらされる方が好き。だって、愛しているから。愛する兄貴に限定して、マゾであることを告白した。
「皆も、わかってくれるべ? 仲間だすから」
 わからない。全然、わかりたくもなかった。
「まぁ、いいさ。俺が無実であることが証明されたなら。オモチャにされたいヤツは、皆に遊ばれていればいいさ。真の兄貴は遊ぶ方だぜ」
「おうよ! 真の兄貴は、真の勇者だからな。たかが、パラっコのおパンツぐらいで取り乱すわけねぇ。的確な対応が評価されるばかりだ」
 魔王兄貴の言葉に、また勇者兄貴が追随する。
「まっ、冷静沈着な俺に比べて魔王兄貴の方は、しどろもどろの釈明に終始していたようだが」
「勇者兄貴、てめぇ! 勝負だコノヤロー!」
「今更、何を!? 先月の勝負で、真の兄貴は俺に決まったじゃんか。忘れたとは言わせねぇ」
「忘れた。違う、んなこと決まってねぇー!!」
 実は、諸般の事情により、先月の裏通りは、メジャーとマイナーが対立する社会の矛盾をテーマにしたものの、より柔軟な多様性を容認する変革を訴える主張が一部に過激すぎて、上の判断で、お蔵入り、幻の作品になってしまった。
 結果、先月は「なかったこと」として処理されているから、今月は気分的に、何故か、1ヶ月ぶりっぽいが、そうではない。気にするな。第5回と第6回の間は、普通に1ヶ月なのだ。
「『格闘脱ぎ脱ぎジャン拳』で勝負だーっ!!」
「勝者こそ真の兄貴! 敗者は偽りの兄貴!」
「こいつは、絶対に負けられないぜーっ!!!!」
「漢と漢の熱い勝負!! 燃えてきたぜー!!!!」
 兄貴2人で全てを決めて、勝手に盛り上がっている。兄貴の舎弟サブリミナルは、いつものように受動的に賛同するが(「心技体、全てが揃ってこそ真の兄貴だべ」)、テンション高い兄貴2人が思ってるほど、世間は盛り上がっていない。むしろ、冷ややか。イヤな温度差だ。
「てゆーか、真の兄貴は、兄貴とだけで遊んでいてはいけません。兄貴は皆のリーダーなんですから、裏通りにたむろう皆を騒ぎに巻き込んであげないと、皆は話についていけませんよ」
 ミント・クアンタムが、『格闘脱ぎ脱ぎジャン拳』対決を企んでいた兄貴2人を注意する。
 この対決方法では、ミント達は最後まで見ているだけで行数が尽きてしまい、はっきり言って観客参加型ではなく、控え目に言っても、どっちが勝っても負けてもいいし、応援したくもないわけで、活躍できないどころか出番ナシだ。
「とゆーわけで『肝試し』をやりましょう!」
 どっかの国の、どっかの街でやってなかったか? いや、別に詳しいことは知らないけど。
「わーい! 肝試しだ、肝試しだー! ‥‥肝試しって何? なーんちゃって。知ってるよ」
 ミントの古着屋SABAで購入した白地に黒ブチの帽子をかぶったシュガムニ・ロップツールが、『肝試し』対決に参加したがっている。
「夏と言えば『肝試し』です。ビビッたら、負け。チビったら、死ね。全員、参加なさい!」
 アゴ兄貴の墓、ステラの墓もあるし、皆のお墓も用意されているし(最終回=皆殺し)、ある意味、裏通りは墓地と言っても過言ではない。
 アールョンは、ルーメン王国にある。砂漠の国なので昼間は焦がすように暑い。だが、しばしば背筋が凍りつくほど寒い時間が有る。『お約束』は古典的で、時代遅れの代名詞だから。
 この寒さの正体は、実はここだけの話、霊なのである。ネタが面白くないからとか、ギャグがスベったからではない。幽霊の仕業である。
 アールョンの街は、寒い霊だらけであった。
「‥‥アレ? お化け担当のイタコ兄貴は?」
「イタコお兄ちゃん、仮病でズル休みかな?」
 白いパンツを足首にからませたままのマイムの呟きに(ジゴロ兄貴もいない。何かと忙しいみたい)、ミントは羽を下にさげて項垂れる。
「‥‥終わりました。彼なしで、まっ昼間から『肝試し』対決ができるはずがありません」
「しょんなー! 楽しみにしていたのにー!」
 シュガムニは魔術師の杖を、ぶんぶか振り回して抗議する。たまには女の子らしく、泣き喚き、力一杯、怖がってあげようと思ったのに。
 後、猟奇ホラーの『お約束』で、バカなアベックは一番最初に殺される確率が高いから、そーゆーのにはなりたくないなー、と思ってました。
「どきどきしてて損したー! ぷんすかー!!」
 魔王兄貴が勇者兄貴に向かって、構える。
「仕方ないだろ? 『格闘脱ぎ脱ぎジャン拳』やると俺が決めたら、絶対やるんだ! 兄貴である俺が目立てば、それでいいんじゃい!!」
 脱ぎ脱ぎーすーるーならー、こーゆーぐあいに脱ぎなされー、失格、有効、ヨヨイのヨイ♪
「ぐはっ! しまった、裏の裏は表だと!?」
 脱ぎ脱ぎーすーるーならー、こーゆーぐあいに脱ぎなされー、失格、有効、ヨヨイのヨイ♪
「ふがっ! まさか、そんな、まずいぞ!?」
 脱ぎ脱ぎーすーるーならー、こーゆーぐあいに脱ぎなされー、失格、有効、ヨヨイのヨイ♪
「うひっ! 信じられん、なして、俺が!?」
 脱ぎ脱ぎーすーるーならー、こーゆーぐあいに脱ぎなされー、失格、有効、ヨヨイのヨイ♪
「あべし! もう最後の1枚なんだぜ‥‥」
「脱げ!! 負けたのじゃーん、脱げ脱げ!!」
 あれよあれよ、あーれー、素っ裸、寸前。油ぎった筋肉の塊は、胸毛、背中毛、腹毛、尻毛、いろいろな毛で、もじゃもじゃ、あふれている。
 漢のかぐわしい汗、体臭におう漢らしさ。だが、兄貴の鍛えられた身体には最後の布切れが下半身に1枚。禁断のデンジャーゾーンを僅かに包むエレガントな白いパンツのみが残されている。
「いくら脱げば脱ぐほど強くなる俺とは言え」
 流石に、ココばかりは公衆の面前にさらすことに抵抗があるのだろう、抵抗する魔王兄貴。
勇者兄貴が引っ張ると、くるりと回されて、『‥‥ジャ、ジャイアント!!!!!!』(種族が)
「か、返してくれよー、俺のパンツゥー‥‥」
 女の子から「キャー、変態ー!!」と叫ばれたが、彼女達は顔を覆う両手の指と指の隙間から、すっぽんぽんの魔王兄貴を、じっくり観察する。
「チキショーッ!! 俺も負けてられねーっ!!」
 勇者兄貴も脱ぎ出す。兜を脱ぎ、手甲を外し、具足を脱ぎ、ライトアーマーを外し、彼は脱げば脱ぐほど弱くなるのだが、アンダーウェアを脱いで、スパイシーな白いパンツに手をかける。
 一瞬の迷い、躊躇はなかった。一気に全てを露出する。脱いでもスゴイことを証明したかった。
『‥‥ド、ドワーフ!!!!!!』(同じく種族が)
 やっぱり、女の子は「キャー、変態ー!!」とか絶叫している(チェックすべきポイントは、ばっちりチェックされているのでご安心を!)。
 勇者兄貴は、昔から好きなコをいぢめるタイプなので嫌がられるとますます興奮してしまう。
「H! スケベ! 勇者兄貴なんて嫌いだ!!」
 魔王兄貴は下半身を両手で押さえて怒鳴る。
 一方、漢同士、裸の付き合いにも慣れている勇者兄貴の方は路上で堂々と仁王立ちしていた。
「生まれたままの姿で何が悪い? この姿こそ、漢として自然な姿。白いパンツで隠さなくてはいけないところは真の兄貴には存在しない!」
 勇者兄貴の言葉に、魔王兄貴は衝撃を受ける。
「俺は、白いパンツで、いったい何を隠そうとしていたのだろう? 漢は出すから、気持ちいい。だから、兄貴は、漢の中の漢なんだな!」
 白いパンツのままの兄貴は、偽りの兄貴だ。汚れちまったパンツなんて誰も見たくない。
「皆が、あんたを見たがってるんだぜ‥‥」
「これが、俺なんだ! 見てくれ、俺を!」
 魔王兄貴は立ち上がる。漢として、兄貴として、一回りも二回りも大きくなって立ち上がる。
「魔王兄貴、雄々しいとこもあるじゃねぇか」
「ありがとう。そっちこそ、勇者してるぜ!」
 力強い握手。お互い、力を込めて握る。痛い。だけど、甘酸っぱくて胸が張り裂けそうになる。
 ボケたら、ツッコミ。漢同士に友情が芽生えた。
「そこのイカした、なおかつイカれた兄貴達!貧弱な坊やとバカにされていた貴方もマッスルボディになっちゃう(かもしれない)『ムキムキくん4号』のモニターになってくれない?」
 リフェル・フィオレットは、全裸の兄貴達を一瞥して(くすっ☆)、1人でも簡単に腹筋運動ができる斬新かつ画期的な運動補助器具「ムキムキくん4号」PRの実演出演をお願いする。
「漢の中の漢は『ムキムキくん4号』を使って、兄貴に推薦されました。合格率、脅威の98%。使用前・使用後。そして、兄貴のコメント付き。これなら、兄貴コンテスト追加メンバー募集オーディション会場で売れまくること確実! 本気で、真の兄貴を目指すなら絶対不可欠よ!!」
 リフェルは、大ヒットの手応えを感じていた。
「胡散臭げな漢アイテム宣伝のために兄貴の名前を使うのは、裏通りの真の兄貴選抜選考委員会名誉会長のおいらとしては許可できないべ」
「裏通りで噂の兄貴コンテスト審査員代表代理のあたしも立場上、当然、容認したくないね」
 干し葡萄を、もぐもぐ食べながら、サブリミナルとマイムは答えた(干し葡萄がメイン)。
 サブリミナルが「食べるだすか?」と勧める。
「干し葡萄‥‥。干し葡萄じゃ、ムキーッ!!」
 リフェルは怒っている。皆が大好きな干し葡萄はお好きじゃないらしい(お金が大好き)。
「突然だが、今月でサヨナラだ。こんな俺と仲良くしてくれてありがとう。今まで親友と呼べる友達少なかったから、毎回、楽しかったよ」
 ディオス・レングア・シュトーは、サブリミナルが差し出した干し葡萄の大入袋から(シフール的には大入袋)、何粒か頂戴して口にする。
「えーっ!? なんでやー? 相思相愛のうちと運命の再会を果たして、これからやないの!」
 エテルノ・ラガッツオも、サブリミナルから干し葡萄を両手1山いっぱい貰って喜んでいた。
「彼女の名はエテルノ・ラガッツオ、17才。身分違いにも俺に一目惚れした可愛い女の子。嬉しいけど困る。何故ならば、竜騎士である俺には使命がある。いつまでも、こんなバカげた裏通りに留まっているわけにはいかないのだった。まるで追いかけてきたエテルノから逃げるように、俺はアールョンから旅立つのだった」
「なんて、わかりやすい説明的セリフなんや」
 干し葡萄を美味しそうにほおばっている。
「エテルノが瞳をハートマークにして、ラブラブ。俺はタジタジ。おいおい、エテルノ、皆の前で変なダンス、踊るなよ。知り合いだと紹介した手前、俺がこっ恥ずかしいじゃないか?」
「うちはディオスの制止を気にすることなく、意味のない踊りを躍るわ。だって、嬉しいから。そして、暴れます。ディオス、逃げるなオラ」
「ひー、痛い痛いって。だからイヤなんだー」
 ディオスは、エテルノが貰った分の干し葡萄をつまもうとした。それが気に触ったようだ。
「俺は謎の覆面漢だが、同じ竜騎士たる者としてディオスの決断もわからぬではない。ちびっこに大人気、謎の覆面漢マスク・ザ・スカイハイは、竜騎士だったんだね。皆、知ってた?」
 セルゲイ・デュバル・ザザーラントは、干し葡萄は大嫌いだった。鼻をつまんで耐えている。
「てなわけで、俺は反応が悪く、かなり動きにくくなった我がドラグーンに対して、新しい竜騎士候補の育成を始めている。そう、いつか第2第3の竜騎士が‥‥。それも『お約束』?」
「あー、ドラグーンに乗ってみたいなー。あたい、竜騎士に立候補します。笑わないでほしいけど、あたい、ドラグーンに興味あったんだ」
 シュガムニは、ちびちび、と干し葡萄を食べている。嫌いじゃないけど、別に好きでもなし。
「無視して。裏通りは竜の穴となるんだね!!」
「乗せてー。1回くらいイイじゃん、お願い」
 あたいの干し葡萄をあげるから。そんな仕草をしてみせるが、セルゲイには逆効果だった。
「悪魔がおるでー、悪魔が! ここには、干し葡萄を貪り食うような悪魔がおるんやーっ!」
「と、ヴァリーは裏通りを叫び回っていたよ。なんだなんだ、と、皆が、こっちに注目する」
「絶対におる! 俺はそう信じるで。竜騎士の勘やねん。干し葡萄好きの悪魔がおるんや!」
「と、ヴァリー。うちは、聖なる干し葡萄を格安で売りさばくよ。こっちの干し葡萄は、さる高名な魔術師のフリーズ製法によって、悪魔を祓う力が込められているとか、いないとか」
「聖なる干し葡萄は、あたしがリボンでラッピングした20セットの限定商品、皆さんの分だけはご用意しました。いざ、これさえ供えあれば、干し葡萄好きの悪魔なんて怖くないよね」
「と、ヒューイット。普通の干し葡萄を食べてちゃ、悪魔にやられちゃうからね。買ったー、買ったー。不安をあおる売り方で、すぐ品切れになったよ。皆、買ってくれてありがとう!」
 干し葡萄メッチャ大好き3人組のヴァリー・フォムウェスト・フラット、アイル・セスティ
ーナ、ヒューイット・ピッカート・コンバークは、普通の干し葡萄を貪るように食っている。
「私は、いつもの屋台で、新メニューとして、干し葡萄入りの塩スープパスタを販売します」
 ウメリア・ロックウォールは、塩スープパスタ入りじゃなくて普通の干し葡萄を食べている。
「皆、注文してくれます。とっても美味しそう。これでお代を払っていただけると有り難いのですが。わかってない客には『おおっと、胡椒を入れるのは、まずスープを味わってからだ。いきなり入れるのはよくない。せっかくの味を怖いからな』と言ったり、騒がしい客には『そこ、うるさいぞ。黙って食え!』と指導します」
 ミントは、葡萄は干したものより生の方がいいな、と思っている。黒ステラも同じく、そう。白ステラは37番目に干し葡萄が好きらしい。
 凸凹コンビ、ヒペは何でも食べるが、ジャムは干し葡萄は食べ過ぎて嫌い。皮と塗ってある油がイヤなんだと。偏食気味のニーザも干し葡萄は嫌いな食べ物になるようだ。マイムは好きだけど、「あたしも食べてーっ」。ちなみに、ルオール・ジルオール・トリエステは、干し葡萄がてゆーより、葡萄パンの方が大好きだってさ。
 何だかんだ文句言いつつも、皆、食べている。
「干し葡萄は、みんな、俺のもんなんじゃー!!牛乳でふやかして食べるのが一番美味しい!!」
 ガイヴィス・カーディンは、ミルクにレーズンを漬けて、スプーンで食らう気持ち悪い食べ方を披露する。見た目は、ちょっとアレで一度トライしてみるのにも勇気があるような‥‥。
「仮に騙されたことにして、食べてみそって」
 ガイヴィスは勧める。ガイヴィスの奇行を心配そうに、勇者兄貴と魔王兄貴が見つめている。
「頭の中、大丈夫か? 疲れているんだろ?」
「熱があるんじゃないか? 休んだ方がいい」
「いや、全裸の奴に心配されたくないぞ‥‥」
 確かに身体はだるいし、頭が痺れていたが。
「全裸? 何、言ってるんだよ、ガイヴィス」
「誰が裸だって? おかしなことを言うなぁ」
 服を着ている勇者兄貴と、服を着ている魔王兄貴は、2人、顔を見合わせて苦笑する。勇者兄貴は干し葡萄を美味そうに食っている。魔王兄貴は「葡萄のミイラより、ラムレーズンの方が好き」って言っていた。つまんでいるけど。
「‥‥えっ? 裸になったろ? それに、かくかくしかじかで、あんなことがあったり、こんなことがあって、今月はトバしていただろ?」
「それは夢だよ。幻覚なんだよ。現実は違う」
 シュガムニは気付く。現実はリアルだ。偽りの世界と時間の体験を混同してはいけない。何もかもが、急激に色あせていく。まるで思い出のようにモノクロで、セピアに染まっていく。
「もしかすると干し葡萄にはトリップさせる未知の成分が微量にあるのかもしれないね‥‥」
 本当は、最初から存在しないものばかりで。
「だって、フィーダが亡くなって、スっちょんも逝ってしまって、俺の周りから、皆、いなくなったじゃん。俺だけが裏通りで、ずっと追いかけっこ‥‥、繰り返していればいいのか?」
 ガイヴィスは、若い頃にはあった悲しみを忘れていくクールな自分が怖かった。怒りも、笑いも、何も感じない。ただ『約束』があって。
「そのうち、例えば数ヶ月後、本当に皆、裏通りから、いなくなるんだろう? アゴ兄貴や、ステラや、バルツ翁や、ディル&ジールのように、皆、裏通りから、いなくなるんだろう?」
 全ては、何も果たされない『約束』のまま。一本道で、幅狭くて、薄暗くて、人気がなくて、変な奴等ばっかりで、それでも何かを信じていて、まだ何かを期待していて、『約束』に従ってきた。自由と引き換えに『約束』を選んだ。
 あっと言う間の12年間。振り返ってみれば、裏通りには(ここが本当に裏通りなのかどうかも曖昧だ)、いろいろな人達がいた。あの人達は、今、どこにいるのだろう? もう誰も知らない。名前も、栄光も、すべからく等しく誰もが忘れてしまった過去。皆も、いつかは、きっと、そんな誰も知らない存在になるのだろう。
 月に1度、こうして集まって、干し葡萄を食べて、しゃべっていた。ただ、それだけの話。


第07回へつづく


●マスター通信

「ここだけの話、R4だからアールョンです」
 オープニングのシナリオ傾向グラフによるとR4は、コメディ5であり、ほのぼの5である。
 この認識が間違ってない展開になっているはず。
 最後まで、このテンションで、こーゆーリプレイを書ければいいなと思う。
 1ヶ月のお休みは、いい充電期間であり、ただの放電期間だった。
 リプレイ中には「あれから12年」とあるが、僕的には「あれから9年」。あるいは、「あれから6年」。クソッタレ‥‥。チキショー‥‥。
 まだ次がある。来月がある。いろいろ悩みぬいた結果がコレだとしたら、すまないねぇ、皆。