竜創騎兵ドラグーンBLADE
第07回 共通リプレイ:
兄貴の世界 兄貴の時代(涙)
R4 担当マスター:テイク鬨道


 結局、また戻ってきてしまったな、と思った。
「そそそそそれは当然かもしれない‥‥」
 口に出して呟く。毎月1日だけの怪しげな集会。とりたてて不思議な出来事は起こらない。いつものように砂混じりの風が、髪をなびかせる。
 少年とすれ違い、誰かの悲鳴が聞こえて、走り出す。一本道を奥に向かって進んでいく。
「そそそそそそそそそそこで何をしてるっ!?」
 誰しもが『お約束』に従い、繰り返しているだけで、寂れた街の薄暗く細い路地に集う者にとって新鮮な驚きや発見はない。彼等は、やりたいようにやっている。『皆』のやりたいように、皆はやらされている。それが『お約束』だ。
「ワンワン、ワォーン」(痛い、助けてー)
 今月は着ぐるみをまとい犬になったリアナ・ユリアナが、凸凹コンビ、エルフのジャム・リブルとパラのピペ・ペピタにいぢめられていた。ピペは張り切っているが、ジャムは異様に暗い。
「この路地の向こうには行かせないから!」
「通してほしければカネを出しなさい‥‥」
 ニタリ‥‥。野良犬を睨んでピペは笑った。
「カネがないってことなら、その身体で払ってくれても、全然、あたいは構わないんだよ」
 ジュルリ‥‥。涎をしたたらせ、舌なめずり。
「ワ、ワォーン‥‥」(も、もしかして‥‥)
 プレッシャーを感じて、リアナは後ずさり。
「大きなお鍋がいるね。お湯湧かさなきゃ! ねぇ、ジャム。聞いてるの!? 御馳走だよ!!」
 リアナは両手を突きおろし、腰を突き上げた。
「キャイーン!!!!」(キャイーン!!!!)
 人間、エルフ、ジャイアント、ドワーフ、パラ、シフールもいるんだから、当然、犬もいる。むしろ、犬がいないなんておかしいじゃないか。
「ワフーン」(こんなに可愛いワンちゃんだったら、裏通りを通してくれるに違いないと思っ
たのに、まさか犬の仔1匹として通さぬとは、なんて奴等なんだい。しかも、おなかがペコっている狂暴なパラに食べられてしまうよ。くびり殺されて、包丁で皮を剥がされて、ハラワタ抜かれて、臭みを消す香草を詰められて、ぐつぐつ煮られて、お鍋は犬の丸ごと煮、骨の髄までしゃぶられてしまうんだー、しくしくしく)
 ひとつ鍋をつついて、毎度、盛り上がる宴会。ここは皆にとって居心地のいい、そんな場所。
 無法地帯だから何でもアリ。だけど、数ヶ月前と何も変わらない。前半コメディが後半シリアスに豹変する詐欺のようなイベントは起こらないけど、オープニング以降、あの時点以上の新展開がない。停滞から斜陽へと陥りつつあるマンネリズムの中で、留まり続けようとするだけ。これまでに中心人物の何人かが突然、舞台の上から、盛り上がりに欠けたときの殉職よろしく退場していったが、そうなることは『約束』されていた予定通り。不測の事態にも対処することを是とする即興のお芝居に出演していたエキストラを含む全ての役者が発憤して、主役の代役を演じ、対処するための時間稼ぎと適切なアドリブを重ねて修正していったため、物語を破綻させるアクシデントにはつながらなかった。
 『皆』が用意した脚本で、拙くも和やかに、良き仲間である皆の紡いでいくストーリーは繰り返される。そして友達になり、助け合い、良い想い出を作りあげる。それが『お約束』だ。
 一方、そんな『お約束』の世界を快く思わない輩もいるわけで、今回はそーゆーお話‥‥。
「わーい。今夜は犬鍋パーティーにょーっ!!」
「ステラさん、恐喝やめさせないのですか?」
 視線で斜め上の何かを見上げて考えていたリンゴ・タイフゥンとミント・クアンタムは、野良犬と凸凹コンビが繰り広げる寸劇に対して、今月のステラの両脇で両極端な感想を述べた。
「わわわしは、ステラではないんじゃが‥‥」
 ルオール・ジルオール・トリエステは困惑している。ノリと勢い、つまりは『お約束』で往年のステラみたいな登場をしてしまっただけで。
「わかってる、わかってるにょー。おっさんが、ステラをパクってることは。個人的にはパクリは好きじゃないけど、その口調は許すにょ!!」
「おおお前にだけは言われたくないである〜」
 よく似ているだけで、2人の吃り口調に関係はない! ただの偶然、シンクロニシティだ。
 そっくりかもしれないけど、たまたまだって。
 ちなみに、リンゴの口調の方はオマージュである! だから、軽々しくパクリとか言うなって。
 オリジナリティなんて存在しないんだ、フィクションの世界には。『お約束』は、いつの時代でも現実じゃなくて虚構の論理として存在する。
「拙者もパチモンは存在すら認めたくないが、『ステラ基金』のためには仕方ないでござる」
 ニーザ・ニールセンは「新しいステラも応援中☆」とか、うまいこと言って、通行人から善意の寄付を名目にお金を騙し取ろうとたくらむ。さすれば濡れ手に粟である。財布はホットホット、左団扇で首がぐるんぐるん回ってウハウハ。
「スっちゃん、喜んで協力するでござるよ。募金で得たお金の約5%は支払うでござるから」
「いいいや、だから、わしはスッちょんでは」
「5%では足りぬと!? 10%か、欲張りな」
 ニーザは険しい顔で、ルオールに詰め寄る。
「15か? 20でござるか!? 30%!?」
 ロイヤルティをつりあげても乗ってこない。
「偽ステラは偽ステラらしく人助けするにょ」
「ついでに犬助けもするといいと思いますよ」
 腕を組んだり、首を傾げたり、眉間にしわよせたりした後、リンゴとミントはそう忠告した。
「わわわわわしがニーザに協力することが世のため人のためである〜と? そして、リアナを下っぱガールズから救うべきである〜と?」
 ルオールは迷っている。そんなこと、できるのだろうか? 果たして、いいのだろうか?
「わわわわわわわわしに、今月のステラになれと!? 竜騎士としてデビルと戦うことを宿命づけられたわしが、アールョンを警邏中の素人のわしが、ステラ役に大抜擢されたのである〜」
「‥‥今月のステラは、へっぽこ男爵だにょ」
「‥‥そう、ルオールさんしかいないんです」
 リンゴとミントの勧めとて苦心の末の決断であろうことが苦りきった顔つきを見てわかる。
 本当にいいのか? 確信なく不安が募っていく。
「お肉だー、お肉ー。久しぶりのお肉だよー! 滋養強壮エキスたっぷり犬鍋を食えば、最近、元気のないジャムも精がつくってもんだね!」
「‥‥食欲ないって。あたし、いい年なんだよ。ピチピチのピペと違って、この程度のままどころか、これからは落ちていく一方だしさ‥‥」
「クゥーン」(プリーズ、ヘルプミー。あたいを食べないでおくんなましー。筋と骨ばっかで、お肉なんて全然ないガリガリだし、煮込んでも固いままだし、食べられたもんじゃないからー。後、あたいってメッチャ臭いし。肉じゃないね、この臭さ。腐った牛乳とか、腐った卵とか、それ系の鼻の奥に刺さるキツイ臭いがするもんね。鼻をつまんで食べようとしても、悪いけど、舌が痺れるからさ、あたいの体臭で。それぐらいキッツイから! とにかく美味しくないよー)
「表舞台で活躍できない、どうでもいいところでしか出番がない、今月の自分のセリフは叫び声だけだった、そんな恵まれないコのために戦い続け、『それって、お前が目立ってるのが原因のひとつでは?』なんて『お約束』に従い、ある意味、自らの意志で、永遠の旅立ちを選んだスっちゃんのために喜捨するでござるよ!!」
 こいつらにツッコミできるのは、ステラしかいない。それは、ステラ=ルオールのことだ。
A「むむむ無理である〜。わしなんかじゃ!」
B「わわわしが新しいステラなのである〜!」
 皆は(『皆』も?)、ルオールがステラになれば!? と暗に軽く、ルオールがBと答えることを押しつけている。誰もステラになんかなりたくない。兄貴に比べれば、ずっと損な役回りだ。ルオールは、かつて兄貴役だったこともある。今度は、ステラ役。明らかに格落ちだった。
「‥‥ああああたしでよかったら仕方ないな」
 ルオールは、少し恥ずかしげに、おぼろげに意識するステラの物真似をやってみた。しかし、自分は理解している。偽ステラに過ぎないのだ。
 いくら『お約束』でも、本物のルオールにはなりきれないように、本物のステラにはなれない。
「そそそそそそんなもん食べるなー!! まだまだ若いってー!! そんなにしゃべってるかー!! そーゆーのは恵まれてないんじゃなーい!!」
 ステラらしく、ステラっぽく、ツッコミ。
「‥‥ここここここんな感じでいいのかな?」
 偽ステラは、周囲の反応を伺う。調子に乗って、やりすぎたのだろうか? ちょっと背中がうすら寒い。幽霊だ! 絶対、霊の仕業だって。
「今頃、ツッコまれても笑いにならないよ」
「‥‥タイミングも、間も、顔も頭も悪い」
「よよよ余計なお世話である〜、じゃなかった、お世話だね? お世話です? お世話よ?」
 偽ステラは、しょせん偽ステラってことだ。
「ぶぶぶ葡萄パンをあげるから、犬っコロを放してあげな。脅えてる。可哀想じゃないか?」
 偽ステラは、こんなこともあろうかと何かに役立つに違いないと思って持ってきた葡萄パンを、空腹でパラペコリンのピペに投げ与える。
 干し葡萄入りのパンは犬の身代金として妥当なので、いぢめられていたリアナは解放された。
「ワーン!」(犬の恩返しに期待してねー!)
 リアナの命は葡萄パンくらいの価値しかない。
「もぐもぐ、うっめぇ〜。ジャムも食べる?」
「‥‥あたしは干し葡萄、嫌いなんだってば」
 テンション低いジャムは葡萄パンを拒絶する。
「ワォン」(ジャムだけにパンは葡萄より苺)
「いいいい犬の鳴き声でボケるか、ツッコミにくぅー!! てゆーか、これが犬の恩返しー!?」
 いいボケしたったやろ? リアナは得意げだ。犬なんかに、お笑いのフィールドで負けられん。
「むしゃむしゃ。これは美味しいでござるよ」
「はぐはぐはぐ。デリシャスでごさいます!」
「もっさりもっさり。なかなかイケるにょー」
「ぶぶぶ葡萄パン貰ってないのに食ってるふりするなーっ!! てゆーか、食ってる音ーっ!?」
 積み重ねてくるボケに、慌ただしいツッコミ。ツッコミとは、わかりにくいネタを『皆』のために一瞬でわかりやすく理解させる作業であり、慣れていない偽ステラの頭はパニック寸前だ。
「ここここここんなことでいいんだろうか?」
 流されているだけ。偽ステラ、悩む。ジャムといっしょに役作りについて色々相談している。
「‥‥ダメダメです。あたし達はもう終わり。面白くない奴は『皆』の嫌われ者なのだぁー」
「しっかりして! 頑張らなきゃダメだよ!」
 あまりにも哀れで、悲しくなってきた3人。しょうがないので、これまでの立場を考えて、ミントとリンゴが次の流れを導くよう仕切った。
「ステラさんを救えるのは彼等しかいません」
「とゆーことで呼ぼっか? 『お約束』にょ」
 ここにいる皆と、ここにいない『皆』で、声をひとつに、「せぇーのぉーでぇ」と叫んだ。
『‥‥兄貴ィ! アァーニィキィーッ!!』
「ワゥーン」(日記発見! 「あっ、日記」)
『なんじゃーい、わぁれー!』 揃いも揃って、アゴをシャクレさせた大バカ野郎達の登場だ。
『俺らを呼んだか? ああ、呼んだのか!?』
『呼んだッス! ああ、呼びましたッス!』
 「〜ッス」と言ってるけど、あの2人はもう引退してしまったのでいない、かつての名残り。
「やっと兄貴の出番だべー。待たされたべ!」
「‥‥前略‥‥、勇者兄貴マグニだぁ!!!!!!」
「俺が真の兄貴、魔王兄貴ブレイクだーっ!!」
 左肩にサブリミナル・ゴルドレオンを乗せた勇者兄貴マグニ・ゴルドレオンと、魔王兄貴ブレイク・ゴルドレオンが、まず姿を見せる。
「やぁ、まだ裏通りで何かやってるのかい?」
「うふふふ、なんと2人は結婚しました〜☆」
 そして、ジゴロ兄貴ユウイチ・スレイブメイカが帰ってきた。シャイア・カニバルと共に。
「オメデトウ、オメデトウ。アリガトウ、アリガトウ。オ似合イノ2人ダネー。オ幸セニー」
 誰も祝ってくれなかったので、仕方なくジゴロ兄貴は鼻をつまんで、声を変えて言ってみた。
「旅行のお土産、クッキーですのよ。どうぞ」
 皆に1箱だけ。20人ぐらいに対して、20個入り1箱。差し出したシャイアが微笑む。
「遠慮せずに1つ!! ずつ食べてくださいね」
「ウワァーイ! くっきーダ、くっきーダ!」
 誰も喜んでくれなかったので、仕方なくジゴロ兄貴は鼻をつまんで、声を変えて言ってみた。
「ソレジャア、有リ難ク失礼シテ、イッタダキマース! ‥‥もぐもぐ、シ、ショッペー!!」
「なんと1つだけ塩クッキーだったので〜す」
「チッキショー! 『オ約束』ジャネーカー」
 誰も食べてくれなかったので、仕方なくジゴロ兄貴は鼻をつまんで、声を変えて食ってみた。
「‥‥夫婦漫才、ありがとうございましたー」
「‥‥これからも新婚熱々、ノロケてるにょ」
 ミントとリンゴは指をこめかみに押し当てる。ちょっとブランクがあって、芸風、変わった? 一応、結婚して所帯を持ったからかもしれない。
「ジゴロ兄貴のちょっとしたプライベートなお知らせは、どうでもいいっぺ! 興味ゼロ!」
 勇者兄貴の左肩のサブリミナルは叫んだ。
「何故、おいらが魔王兄貴ではなく、勇者兄貴を選んだか、皆は気になっていると思うベ!」
「ドウシテナノカナー? みらくる不思議ー」
 誰も賛同してくれなかったので、仕方なく勇者兄貴は鼻をつまんで、声を変えて言ってみた。
「ダケド、勇者兄貴ッテ漢ラシイカラナー!」
 漢らしいとはなんぞや? これまで隠しパラメータだったアールョン独自の漢気システム、漢気指数について説明しなくてはならない。
 漢気指数とは!? 心・技・体の能力値とは別に、何故か、今まで目安のなかった漢らしさを数値化してみたもの。単位は「アニー」! 1アニーは、アゴが割れている、またはモミアゲ
とヒゲの境界線がない、もしくはマユゲがつながっているレベルの漢。漢気が増すと、ニックネームが変わって、「おっ、最近、売り出し中のホニャララさん!」みたいにお店の主人に一目置かれたりする。漢らしい行動を選んで漢気指数を上昇させて女の子にモテモテになろう。
 ジゴロ兄貴は69アニーってところだろう。あっはーん、うっふーん。ジコロ兄貴とシャイアは裏通りの暗がりで、イチャイチャちちくりあっている。流石は、69アニーの漢だぜ!
 一方、魔王兄貴の方は、自分のお誕生日会の準備に忙しい。‥‥13アニーの漢だから。
 とゆーわけで、推定8710アニー以上(未知数)の勇者兄貴が選ばれるのは当然だった。
「そんなの関係ないべ。今回は、こっちで。次回は、魔王兄貴の方に乗っていると思うべさ」
「ナンジャーイ! さぶチャンノオ茶目サン」
 誰も反応してくれなかったので、仕方なく勇者兄貴は鼻をつまんで、声を変えて言ってみた。
「‥‥なーんて、こっ恥ずかしいことを勇者兄貴である俺がやらされたのも、ステラがステラらしくツッコミしてくれねぇからじゃーん!」
 偽ステラは軽い引きこもりで鬱っているのか、自己嫌悪モード(レベル7)に突入していた。
「ラブコメしようぜ、ラブコメ。兄貴とステラの秘めた恋愛話こそ、アールョンの本道だったはずじゃん。それが『お約束』なのじゃーん」
 勇者兄貴は偽ステラに不純恋愛を強要する。
「いきなり抱き寄せて、‥‥ズギャーン!」
 キスシーンにありがちな『お約束』な擬音。
「目覚めたかい? 王子様のキスは蜜の味?」
 勇者兄貴は偽ステラと唇を重ねつつ、無抵抗であることをいいことに、右手を胸に、左手で尻をもみ、足をからめて押し倒さんばかりだ。
「スっちょん‥‥。胸、アバラしかないなぁ」
「やややめるである〜。汚らわしいケダモノ」
 正気を取り戻したルオールは歯をくいしばって、勇者兄貴のからめ手から離れようとした。腹の底からの酸っぱいもので吐気をもよおす。
「やややややや安く見ないでほしいである〜」
「怒った顔もチャーミングだね、スっちょん」
 少し痛そうに口の端、血を拭う勇者兄貴。
「兄貴、騙されちゃいけないべ! こいつ、ステラと違うべ! ルオールのおっさんだべ!」
「な、なんだとーっ!? ‥‥儲けもんかな?」
「儲けてねぇべ!! 兄貴のイメージダウーン」
 勇者兄貴の兄貴指数がどんどん下がっている。MAX8710以上だったのが5963アニー。
「お兄ちゃーん!! 今度は、あたしと格闘脱ぎ脱ぎジャン拳しようよーっ! いっくよー!」
 脱ぎ脱ぎーすーるーならー、こーゆーぐあいに脱ぎなされー、失格、有効、ヨヨイのヨイ♪
「キャ☆ 負けちゃったー。次は頑張るぞー」
 マイム・ディアと、勇者兄貴は、五分と五分の戦い、勝ったり負けたりで、脱いだり脱がさ
れたり。マッスルボティが漢らしいのだが、脱げは脱ぐほど弱くなるので4649アニー。マイムは、脱ぎっぷりよくスッポンポン。最後の一枚、2人の白いおパンツが天に舞う。汚れて、しみったれたおパンツなんて、お空にバイバイ。
「キャハハハハハハハハハハハハハハ〜ッ!!」
「ガハハハハハハハハハハハハハハハーッ!!」
 生まれたままの姿の2人は手に手を取り合って幸せ、くるくる回る、くるくる回される。
「どこが漢らしいの? あたしは認めーん!」
 裏通り初登場のエリザベス・ジャームッシュは、全裸で回転している勇者兄貴に襲いかかる。これでは、ただの露出狂のストリートキングだ。
「嫉妬か!? 俺ってばモテモテで困るなー!」
「こいつが、兄貴1号!? この程度で兄貴?」
 エリザベスに投げられて、まっ裸の勇者兄貴が関節技を決められる度に、兄貴指数が下がっている。いきなり一桁も落ちて、893アニー、193アニー、109アニー、49アニー‥‥。
「殺されるよ! 闘ってよー、お兄ちゃん!!」
「何故どうして勇者兄貴は無抵抗なんだべ!?」
 彼のバスタードソードは路上に転がっていた。バッソを抜いて、振りおろせばいいだけなのに、裸の勇者兄貴はエリザベスのされるがままに。Sだと思ってたが意外とMっけもあったみたい。
「俺は、勇者であり、心は騎士道精神にあふれている。女にあげる拳は持ち合わせていない。殴りたければ殴れ。それで気が済むなら‥‥」
「‥‥バギッ!! ドガッ!! チュドーン!!!!」
 勇者兄貴、めった撃ち。容赦ないパンチ。頭の中がシェイクされ、恍惚の表情を浮かべる。
「こんな軟弱な輩が兄貴になれるぐらいなら、女のあたしにだって兄貴になれるかしら? いいえ、この状態なら、なんなら、すでに、このあたしは兄貴と言っても過言ではないわね!」
 エリザベスは、悶絶した勇者兄貴を一瞥して、裏通りのレベルの低さを嘲笑い、吐き捨てた。
「今まで誰にも言わへんことなんやけど、実は、うちってば、ホントは男なんよ。確かに女みたいに見えるかもしれへんけど、一応そやねん」
 エテルノ・ラガッツオ。男だった。ゴメン!
「そーゆーことは、『お約束』で本人には知られてないことにしておくんやで。内緒やねん」
「そんな事情は露知らず、俺は、エテルノが可愛い女の子だと思っている。エテルノがいるから、俺は渋々、裏通りに残ることにしたんだ」
 ディオス・レングア・シュトーは、腕にからみついてくるエテルノの横顔を気にしながら、
「どうしよう‥‥。このまま、こいつと男と女の関係になってしまうのだろうか? それとも、騎士として、この恋愛はかなわぬ想いなのだと傷つけず、わからせてやりたいし、だが‥‥」
 ディオスは、自分の素直な気持ちの所在に戸惑っている。見つめられていることに気付いたエテルノは頬を赤らめ、やおら決意したのか、目を閉じて、唇をすぼめて突き出すのだった。
「ええよ‥‥。うちを女にしてください‥‥」
「ちょっと待て。俺はマグニみたいなことは」
 できない、と言おうとした口に、「ズギャーン!!」、エテルノの方から飛びついて奪った。右手を胸に、左手で尻をもみ、足をからめて押し倒さんばかりだ。エテルノが、ディオスを。
「世も末だね。腐ってるよ、ここの奴等は!」
 831アニーのエリザベス兄貴が呆れている。見ていて面白くも何もないことに気付かない独りよがりばかりが喜んでいる、そのバカどものどうしようもないアホらしさと、くだらなさに。そして、わけのわからない『お約束』だけが支配するアールョンの細い路地の一角、迷いこんだ自分もその仲間に加えられてしまったことに愕然とした。踏みいれてはいけない領域に軽々しく、それは「また」とも言い添えておいてもいいのだが、つい懐かしさを求めて、やってきてしまった。何もないから、何も変わってない。
「男とか、女とか、かつての『お約束』には関係ないんだよ。むしろ、これからも新しい『お約束』は作られていくんだ。あたし達がね☆」
 マスク・ザ・スカイハイ改めセルゲイ・デュバル・ザザーラントは女の子になってしまった。ピッチピッチでメッチャ可愛い12才の美少女。
「今回のあたしは、兄貴とステラの隠し子のアステラだよ。パパに似たアゴ。ママに似た鼻。産まれちゃったのよ、12年前に、12年後」
 セルゲイは隠し子「アステラ」と名乗った。彼は、もうセルゲイではない。彼女は、アステラなのだ。『お約束』によって許されてしまう。
 復活した勇者兄貴&偽ステラは、アステラの登場に驚くのだ。驚いてなくても、驚いたふり。
「マジ!? 勇者な俺に子供なんていたのか?」
「さささっきの吐気は、もしかしてツワリ?」
「‥‥ワ、ワオーン!?」(‥‥ス、スワリ!?)
 突然、皆はその場で腰を降ろして、座った。新入りのエリザベスだけが1人立っている。
「わかってるわよ。座ればいいんでしょ? 悪いけど、あたしは相当古い付き合いだからね」
 まだ久しぶりなので、流れにワンテンポ遅れてしまっているが、5年前とか、4年前とか、過去の実績は負けてない。個人的に6年前からの人はいないと思うので古参中の古参の1人だ。
 座ってしまったこともあって、結局、いつもの宴会モードに突入する。呑めや歌えや、脱げや踊れや、皆、とっても楽しそうに笑っている。
「さーて、聞いてくれー。実は今日、俺の誕生日(かもしれない)だーっ! 無礼構で、酒呑み勝負をやるぞーっ! サブちゃんにだって負けないからな〜。いくぜ、飲むように浴びる。俺が負けたら、何でも言う事、聞いてやるー! だが、俺が勝ったら、問答無用で俺様の子分となるのだー! 誰でもかかってこんかーい!!」
 魔王兄貴が自前で用意したラム酒の樽を、景気づけに1杯、かっ食らう。‥‥結局、誰も対決に応じてくれなかったので、1人で寂しくヤケ酒ることになった。「どうせ、俺は13アニーの漢‥‥。全く人気ねぇさ‥‥」 愚痴愚痴。魔王兄貴は孤独だった。カリスマ性がなかった。
「うわー、ありがとうございます。私のために、誕生日会をやってくれているんですね。こーゆーのって、当日まで本人に知られずに(本人は知ってるけど知らないふりで)、びっくりパーティーしてくれるのが『お約束』ですから!」
 偶然、魔王兄貴と誕生日が同じだったと言うウメリア・ロックウォールが、魔王兄貴が主催する魔王兄貴バースデーパーティーを乗っ取る。
「私なんか、この道12年のスープパスタ屋ですから。そのキャリアから言わせてもらったら、裏通りも変わりました。12年前は想像を絶する異常としても、10年前だって相当な盛り上がりでしたし、それからいろんな流れが出て、今日に至るわけで。そーゆー歴史を知らないのなら、勉強しておくべきです。とりあえず12年寝かせた秘伝の特製スープをご賞味あれ!」
 自分が12年前から、裏通り界隈で活躍するスープパスタ屋キャラ一筋のベテラン、古参で
あることをアピールする(ホントかな?)。
 凸凹コンビ・ピペ&ジャムお待ちかねの犬鍋も、ぐつぐつ、いい色に煮込まれてきた。リアナは犬の着ぐるみを脱いで、実は人間であることをバラしてしまった。さっきまで汗だくだったが、下着だけになって、とっても涼しそうだ。
「死んぢゃうよー、クスクス。おなかが痛いって、あー、痛い痛い。誰か助けて、ゲラゲラ」
 ケラケラ笑いながら、ガイヴィス・カーディンが裏通りをのたうちまわって転がっていた。自分で言ったギャグ(?)に本人だけ大ウケ。そんなガイヴィスだから、犬(の着ぐるみ)鍋の味見をさせられることになる。美味しいね!
 そろそろお開きの時間、魔王兄貴が1人、呑んだくれているが(「俺の若い頃はよぉー、ものごっつうメチャクチャのワルでよー、いろんな不義理なことをなー、やっちまったのさー‥‥」昔のワル自慢)、誰も相手にせず、からまれないうちに、とっと解散、お話を閉めようかと思ったそのとき、皆の前に立ちはだかる3人。
「これでいいですか? 結局、今月も何の進展もなし。何もやってないじゃありませんか!?」
 ヒューイット・ピッカート・コンバークが、撤収を拒否し、お芝居の続行を呼び掛ける。
「銭取る兄貴は、俺達が取り締まったるで!」
「こんな裏道に関わっていたらあかんのや!」
 ヴァリー・フォムウェスト・フラット、アイル・セスティーナは、悪党なのに悪党らしくない兄貴達と、それに立ち向かうふりをする偽ステラ達の『お約束』の対立構図に進展を訴えた。
「極めぬ道に価値はありません。これ以上、ここを『お約束』通りにさせてはいけません!」
 それは、今まで、この『お約束』通りで、それなりに楽しんでいる皆からすれば、余計なお世話で自分勝手な行動に見えたかもしれない。
「これが、皆のため、なんや!! 偽りの自分に縛られていて、何が『お約束』通りなんや!?」
 皆がいる。皆が見ている。皆に見られている。
「皆のために! 『皆』のために! 皆、皆!! ミンナって何や? 俺はミンナじゃない‥‥」
「そう、『皆』なんてヤツはいないよ。『皆』は『沢山の1人1人』だ。アールョンを選んでいる私達がそうであるようにバラバラなんだ」
 ピペ・ペピタ。サブリミナル・ゴルドレオン。マグニ・ゴルドレオン。ガイヴィス・カーディン。ディオス・レングア・シュトー。リンゴ・タイフゥン。セルゲイ・デュバル・ザザーラント。エリザベス・ジャームッシュ。ルオール・ジルオール・トリエステ。ブレイク・ゴルドレオン。ジャム・リブル。ニーザ・ニールセン。リアナ・ユリアナ。アイル・セスティーナ。ヴァリー・フォムウェスト・フラット。マイム・ディア。ミント・クアンタム。ウメリア・ロックウォール。ヒューイット・ピッカート・コンバーク。シャイア・カニバル。ユウイチ・スレイブメイカ。エテルノ・ラガッツオ。
『皆』はいない。『沢山の1人1人』もここにはいない。
「その『沢山の1人1人』は、他の人達。あたし以外の1人1人、他人なのよ。だから、同じじゃない。違う。本当の自分がある。騙すつもりも、隠すつもりもなかった。いつか気付いてくれると思ってた。同じじゃない! 違う!」
「同じです。違わない。‥‥いや、少し変わってるところもあるかもしれないが、それは愛敬として許容してもらおう。同一の存在。そう仮定することで、私達は私達でいられるんです」
 それが『お約束』だ。今までずっとおかしいと思い続けてきたが、そんなこと、誰も気にせず、見て見ぬふりをしてきたじゃないのか?
「同じじゃない!! 違う!! それを認めることで、うちらといっしょに通り抜けることで、皆が裏道から足を洗うんだよ。アールゴォは無理でも、アールョン以外の他のところに、もっといい居場所があるって! マトモで普通の!」
 ここにいても繰り返すだけで誰も救われない。いつまでも『お約束』に従っている限り、アールョンの『お約束』通りからは抜け出せない。

>  裏通りで凸凹コンビする!するったら、す
> マグニの肩に今回は在住してみよう。(次回
> (前略)勇者兄貴マグニだぁ!! 魔王兄貴と
>  前回、食べてた干し葡萄にあたり、すみっ
>  結局、ここから立ち去ることはできなかっ
> 毎度ながら、誰かが中途半端にボケたら、そ
>  竜だ竜 お前は竜になるんだ! これから
> 兄貴になってみようかしら‥‥性の壁は厚そ
> 目的:寂しくてみんなに会いに? いやいや、
> 「この俺さま魔王兄貴に酒飲み勝負で勝つ事
>  裏通りで凸凹コンビしないで、スランプす
> により「2代目ステラも応援中☆」とかバッ
> いう理屈をこねて犬の着ぐるみを装着して毎
> 今こそ、この裏道を通り抜けて新たな人生を
> 銭とる必要はないんや。俺が取り締まったる。
> それにあたしの脱ぎっぷりもいい方だし、あ
> れが「サバミソ」。薬である、水虫たむしに
> 「この道12年のスープパスタ屋です.12
> その為に私は我同胞たるヴァリーとアイルと
> ユウイチと2人で躍り出したりやっぱりどこ
> ・とりあえず旅行みやげのクッキーをみんな
> 再会を祝う口づけが欲しいなと夢見る乙女で

 これが『お約束』だ。『約束』、その断片。
「本当の自分が拒絶されて傷つくのが怖いから、自分に別のキャラクター作って、別人になりきることで、他人とコミュニケーションを取る」
 例えば、アゴ兄貴になったり、ステラになったり、犬になったり、隠し子になったりする。
「私達は器用でもあり、不器用でもあるね」
「しかし、役割を演じることに疲れました」
 例えば、人間で、21才で、竜騎士のPC。エルフで、27才で、竜騎士のPC。シフールで、18才で、精霊魔術師(水)のPC。etc.
「本当の自分は、こんなこと、しないし、こんなこと、やらない。カッコイイ自分や、カワイイ自分や、人気者でチヤホヤされる自分、そんな仮面があれば便利だと思うよ。困っている人がいれば、損得考えずに助けようとするステラみたいな人は素敵だと思う。仮の名前で、仮の姿であっても、正しいこと、何も変わらないよ。舎弟に囲まれ、裏通りを仕切っている兄貴みたいな人は羨ましいと思うよ。仮の名前で、仮の姿であっても、偉いこと、何も変わらないよ」
 誰の告白なのだろう? 誰のセリフか、わからないが、誰のセリフでもいいし、誰のセリフでなくてもいい。誰のセリフであろうと、発言者を区別させる必要はないし、不可能だった。
「でも、偽りの自分じゃ何も得られないんだ」
「貴方、暴走してるわ! イカれてるの、壊れてるの、狂ってるの。何言ってるか、わかってる? どうなっているか、自覚してる!? ちゃんと自分の『お約束』理解できてないでしょ」
「『お約束』には従わないし、従っていない。あたしは自由なんだ。これからのことは己を貫いて、自分で考え、自分で決める。これ以上、他人に、どうこう指図されるつもりはない」
「自由!? だけど、とっても苦しそう。ホントは辛いんじゃないの。これ以上は無理だよね?自由たって何だってできるわけじゃないのよ」
 慄えている。『皆』に笑われている。バカにされている。頭を抱える。耳を塞ぐ。イヤだ。
「怖いんでしょ? こんなこと、やっちゃったら、もう誰も守ってくれなくなるんだから。呆れ返っているかも‥‥。そうだ、いいこと教えてあげる。貴方がいなくなっても、貴方に限らないけど、それはつまり、自分自身を含めてなんだけど、アールョンの人達は困りません。誰かがいなくなっても何も変わらないでしょ?」
「死にたくない! 殺されたくない! ここで頑張りたいんだ。私は、あたしは、あたいは、わしは、あっしは、わいは、僕は、俺は、おいらは、自分は、我が輩は、拙者は、うちは、この世界と時代の中で、生きています、生きているんだ、生きているんだよ、生きているよ、生きているのである、生きておるんじゃ、生きてるじゃん、生きているでござる、生きておるんだべ、生きてるんや、生きているしぃ〜‥‥」
「もう終わってるよ。脆いね。本当の自分とやらが保てなかった。わからなくなったんだ、本当の自分らしさが何なのか。いいえ、最初から本当の自分なんて無い、何も無かったんだね」
「有る‥‥。自分は必要とされているはずだ」
 意識して、無意識して、メチャクチャに散らばってしまった本当の自分を取り戻そうとする。
「じゃあ、貴方は誰なんですか? ‥‥答えられない。ほら、おいら達は何も言えないんだ。だって『お約束』じゃないもの、その答えは」
 笑われた。イヤな気分だ。やっぱり笑われた。



第08回へつづく


●マスター通信

「ここだけの話だけど、兄貴の好物はホモなのにレーズンだってさ! 315だね、R4!!」
>  リプレイは「Re:プレイング」じゃなきゃダメ? マスターは、プレイングをトレースしなきゃいけない? メイルゲームのプレイヤーやってて「私のキャラは、こんなこと、絶対やりません!」って言いたくなることはあるよ。でも、本当は逆なのかもしれないね。
> そーゆー話をやってみたかった。こーゆー話じゃなかったような気もするが、「僕のリプレイは、こんなこと、絶対やりません!」の心境なのだろう。つまり、マスタリングとは、決してマスターにとって都合のいいプレイングだけをピックアップする作業ではない。違和感は、コラボレーションが持つ妙だと思う。後半、思いっきり、その辺を放棄しているが。
 わけわかんないけどラスト3回よろよろ〜!