お兄ちゃんのかわりに   疾風さん


「アミィー。昼飯できたぞー」
んー。下でお兄ちゃんの声がする。
今日は体の調子が悪い私のかわりに、お兄ちゃんがごはんを作ってくれてるんだ。
ちょっと幸せ♪
そんなこと言ってないでごはんはちゃんと食べないと。
私はもそもそと起きあがって、パジャマのまま階段を下りた。
「おう、具合はどーだ?も少し寝てるか?」
「んー。まだちょっとだるいけど、少しよくなったみたい」
「そーか。飯食ったらちゃんと薬飲めよ?」
「うん。いただきまーす」
とは言ったものの。あんまり食欲ないなぁ・・・。
ちなみに、今日のメニューはピラフ。味はそこそこ。まあ、お兄ちゃんにしては上出来、かな?
そんなピラフを何とか半分くらい食べて、私はもうごちそうさま。
お兄ちゃんが心配してくれて、
「午後は狩りに行く予定だったけど・・・クレスに頼んでやめてもらおーか?」
って言ってくれた。
「ううん。いいよ、行って来て」
でも私は一人でも平気だし、何より今日の夕飯がなくなっちゃう。
「・・・そーか?でもまだ熱があるんじゃないか?」
そう言ってお兄ちゃんが手をちょいちょい、ってやる。
私がお兄ちゃんに顔を近づけると、お兄ちゃんも顔を近づける。
そのままおでことおでこをくっつけようとしたんだろうけど、何故かお兄ちゃんずる、ってすべった。
そしてそのままごちん。
「いったーい!!」
「わ、悪いアミィ、ちょっとすべった・・・大丈夫か?」
「うん・・・」
なんだか打ち所が悪かったみたい。まだずきずきする。
ふっとお兄ちゃんを見ると、やっぱり頭を抱えてる。しかも涙目。
それにしても、なんかお兄ちゃんが小さく見えるし、いつもよりかわいくなってる気がする・・・?
「・・・あれ?」
お兄ちゃんも気づいたっぽい。
しばらく不思議そうにこっちを見つめたあと、
「おまえ・・・」
こっちを指さして
「俺?」
自分を指さした。
しばらく黙り込む。そして突然
「ちょっと待てぇー!?」
叫んでパニック。
「あれ・・・お兄ちゃん・・・私?」
その時になってようやく分かった。私たちはどうやら入れ替わっちゃったみたい。どうしよう???
「お兄ちゃん・・・どうする?」
「ど、どうするって・・・んなこと俺に聞くな!!」
「それはそうだけど・・・」
えーと・・・私がお兄ちゃんになっちゃったって事は・・・私はお兄ちゃんとして暮らす・・・?
それだと、今日の午後は・・・!
「おまえさぁ、なんかやけに落ち着いてない?」
お兄ちゃんが聞いてくる。そう、いまわたしはちょっといいことを思いついて、この状況を喜んじゃって。だから少し冷静になれたみたい。
「ねえ、午後はクレスさんと狩りに行くんだよね?」
「ああ。でもこのまんまじゃ・・・」
「クレスさんと、だよね?」
「?ああ、そうだけど・・・」
よしっ。こんなチャンスは滅多にない。たとえ姿はお兄ちゃんでも。クレスさんと一緒なのはうれしいもんね。
「それじゃあ、お兄ちゃんは熱があるんだから、ちゃぁんと寝ててね?」
「おい、おまえ・・・」
私はお兄ちゃんの言葉が終わる前に、弓と矢筒を持って駆けだした。
「えへへ〜。いってきまーす♪」
「待てコラ!アミィー!!」
へへ、私の身体じゃ、お兄ちゃんの身体に追いつけないもーん。悔しいけど。
そのまま走ってクレスさんの家までいくと、ちょうど中からクレスさんが出てきた。
「あれ?チェスター、どうして走ってるんだ?」
「いえ、お兄ちゃんがちょっと」
「はあ?」
「じゃ、なくて。アミィが・・・」
いつもの調子で話したらだめよね。ばれたらきっと、狩りに行くのをやめちゃうから・・・。
「チェスター・・・なんかおまえ変だぞ?」
「ま、まぁいいからいいから♪」
私はクレスさんの方に手を回して、ちゃっちゃと歩き出した。う〜ん。お兄ちゃんの体じゃないとできないよね。こんなにくっついちゃったv

「よ〜し、早速狩りを始めるぞぉ〜!!」
南の森には行って私は大きくのびをした。森の空気は気持ちいいからねv
そんな私を見たクレスさん。
「き、今日はかなり張り切ってるね、チェスター」
あらら?ちょっと呆れられちゃったみたい。気をつけないと・・・。
そんなことを反省してたら、突然クレスさんが走り出した。
「獲物だ!チェスター!!」
「え、ええっ!?」
たぶんクレスさんとお兄ちゃんの間では通じるんだろうけど、今ここにいるのはお兄ちゃんじゃない。
私だ。
だからどうしていいのか分からない。う〜ん・・・。
とりあえず、狩りなんだから獲物を倒せばいいのよね?
弓はお兄ちゃんに少し教えてもらったけど・・・当たる自信はないなぁ・・・。
それでもねらいを付けて、私は矢を放った!!
矢はまっすぐ飛んだ・・・んだけど・・・。
「うわぁ!」
クレスさんにあたりそうになっちゃった!!
何とかよけてくれたクレスさんだけど、その拍子でバランスを崩して転んでしまう。
結局獲物に逃げられちゃった・・・。
「ご、ごごごごごめんなさいぃ!!」
「い、いや平気だけど・・・チェスター、やっぱ今日変だよ。どっか悪いのか?」
「ぜんっぜん平気!!」
私は思いっきり首を振って答えた。けがさせそうになった上、心配かけたらだめだからね。
「・・・ならいいけど・・・」
それでも少し心配そうな顔のまま、クレスさんが立ち上がる。
「それじゃあ、いつも通り二手に分かれて追いつめるぞ?無理はするなよ」
「は、はい!!」
「よし、いくぞ!!」
ちょっと首を傾げたクレスさん、剣を抜いて森の奥に走っていった。
はぅ・・・やっぱかっこいいなぁ・・・。
ってそんなこと思ってる場合じゃない!!二手に分かれるんだから・・・私はこっちに行けばいいのね。
私は急いで、クレスさんとは別の道を通り奥に向かった。
うーん、さすがはお兄ちゃんの体。いつもとは感じる風が違う。
気持ちよく走っていると、茂みの奥に動く影。
みつけた!!
普段の私なら無理かもしれないけど、今の私なら追いつける!!
そのまま走り続けると、急に視界が開けた。
「うわぁ・・・!!」
とっても大きな樹。お兄ちゃん達と一緒でも、こんな奥まで来たことがなかった。
でも・・・こんなに大きな樹なのに、どうして枯れちゃったんだろう?
しばらくぼ〜っと樹を見つめていた。一陣の風が吹き、葉っぱがざわめいて、はっと気がついた。
「あっそうだ。イノシシは?」
きょろきょろ辺りを見回したけどイナイ。どうやらまた逃げられちゃったみたい。
私があきらめて、木の根本に座ろうとしたとき!!
「危ない!!」
「えっ?」
突然の声に驚いて振り返ったとき、そこにはクレスさんと、倒れたイノシシがいた。
「はぁ、よかった〜間に合って」
「く、クレス・・・さん?」
「チェスター、具合が悪いなら無理するなよ。もう少し僕が送れてたら、今頃大けがしてたぞ?」
「う・・・そ・・・」
何が起こったのか分かった瞬間、思わず私はへたり込んでしまった。
そのまま呆然としている私を見下ろし、クレスさんも私の横に座り込んだ。
「まったく、意地っ張りもいい加減にしろよ。一歩間違えば、命に関わる問題じゃないか」
私はうつむいたまま答えなかった。
「こういうことは言いたくないけどさ、あんまり調子に乗るなよ?」
そうだった。今の私は、自分の体じゃないことを忘れて、クレスさんと一緒にいられるから、と調子に乗っていた。そのせいで、お兄ちゃんの命が危なかったかもしれないんだ。
自分ならまだしも、私のせいでお兄ちゃんが死んじゃうのは絶対にいやだ。
そんな風にいろいろ考えていたら、悲しくなって、私は泣き出してしまった。
クレスさんは泣き出した私に気づいてぎょっとして、必死になだめてくれた。
「お、おい。何もなく事はないだろう?・・・ちょっと言い過ぎたよ。ごめん」
でも一回泣き出したら、そう簡単には止まらない。その後もしばらくおろおろしていたクレスさんだけど、急に私の手を取って立ち上がらせた。
「今日はもう帰ろう。イノシシもこのままおいといて、明日また取りにくればいいよ、な?」
私がこくん、とうなずくと、クレスさんは私の手を引いて歩き出した。

それから数十分後。村の入り口に着くと私の格好をしたお兄ちゃんが立っていた。
「はあ、やっと帰ってきた・・・ってなに泣いてんだよ!?」
「あ、アミィちゃん。お迎え?チェスターこんな状態だけど」
私がちょっと顔を上げると、お兄ちゃんが恥ずかしそうに立っている。近くを通った村の人は、不思議そうな顔をしたり、笑っていったり。
・・・お兄ちゃんが泣きながらクレスさんに手を引かれてるんだもん。結構不思議な光景だね・・・(笑)
「アミィ・・・頼む、もう家に帰ろう・・・」
お兄ちゃんが恥ずかしそうにつぶやいた。

後日談。
私とお兄ちゃんはあの日の家に戻ることができた。けどしばらくの間、お兄ちゃんは外に出ようとしなかった。すでに村中の話題になってて、恥ずかしかったんだろうね。
・・・私のせいだけど。

林檎通信