「お兄ちゃん……クレスさん……助けて」 部屋の隅っこで、私はただ怯えていた。 この部屋に、あの黒い鎧の人達が来ない様に。 いや、この災厄が全て夢でありますようにと祈ることしかできなかった。 それはそう、ほんの30分ほど前の事。 村中に鳴り響く鐘の音。 そしてその後に来た数多くの怒号。 窓の外を見ると、そこにあったのは大きな炎に包まれながら崩れ落ちていく建物。 一面が、血にまみれた地面。 そこに横たわる人はもう既に動かない。 視界を別の場所にうつすと、黒い鎧の人が教会のお姉さんを剣で刺しているのが見えてしまった。 お姉さんは大きく目を見開きながら二、三度程大きく痙攣し、そのまま動かなくなってしまった。 目の前で繰り広げられる破壊と殺戮に、私はただ恐怖に怯える事しか出来なかった。 部屋の隅で、恐怖に怯えながらわずかな希望にすがる事しか出来なかった。 でも……それはきっと無駄な事だって、どこかで解っていたのかもしれない。 そうでなければ、こんなにも恐怖に怯える事なんてないのだから。 ガチャ 戸が開く音は、怯え震えていた私を一瞬だけだが現実に引き戻してくれた。 私以外誰もいない今、戸が開いたと言う事は誰かがこの家に入って来たと言う事になる。 それが、お兄ちゃんかクレスさんであれば……私は一瞬そう願った。 だが、そこにいたのは私が恐れていた黒い鎧だった。 「ホウ……小娘が一人……か」 黒い鎧が私を見て呟く。 あれ……この声……女の人。 「私も気乗りはしないが……命令なのでな」 その黒い鎧の女性は、そう言った後私の元へ歩み寄ってくる。 私は、どうすることも出来ずただ立ち尽くすことしかできなかった。 そして、彼女が目の前までやってきて私の胸元に手をかざす。 「ふ……また会おう……アミィ・バークライト」 「え?」 ボフッ 彼女が最期に私の名を言った。 そして……また会おう……と、確かに言っていた。 私は彼女の言葉に疑問を抱いたが、それも一瞬の事。 胸元にかざした手から熱い何かが発生し、それは私の体に致命的なダメージを与えた。 一瞬感じた激しい痛みの後、全ての感覚が無くなり……何も考えられなくなるまで、そう時間はかからなかった。 そう……私は……殺されたんだ。 1・お姉ちゃんとの出会い 「……ちゃん……ちゃん……起き……アミ……きてよ」 断片的に聞こえる女性の声。 揺すられている私の体。 そうか……きっと、天使さんが私を起こしに来たんだ。 でもお願い……もうちょっとだけ……もうちょっとだけ寝かせてちょうだい。 もうちょっとだけ。 「アミィちゃん……アミィちゃんってばぁ」 その声は段々はっきりと聞こえるようになってきた。 それとともに、体の揺すり方も少しずつ大きくなってきている気がする。 「う〜ん……おかしいなぁ。上手くやったはずなのに、どうして目覚めないのかなぁ」 声の主は、私の体を揺するのを止めるとため息と共にそう呟いた。 「しょうがない。アレ使ってみよっと」 そう言った後、その声の主の気配は感じられなくなった。 何が会ったかは知らないけれど、これでやっと静かに寝られる。 だから私はもうちょっとだけ眠ることにした。 どうせ……目を開けても、お兄ちゃんやクレスさんには二度と会えないのだから。 「さてと……アイツの妹さんだから、こういう手荒な真似はしたくなかったんだけど……起きないんだからしょうがないよね」 数分の間を置いて、声の主が再び私の近くへとやってきたようだ。 どうやらこの天使さんは私をどうしても起したいらしい。 私は何故だか少し腹が立ってきた。 私はただもう少し寝ていたいだけなのに、どうして邪魔をするの? お願いだから、もう少しだけ寝かせて頂戴よ。 私は心の中で叫んだ。 だが、天使さんに通じるわけも無いのはどこかで解っていた。 「よし調合完了……これで起きなきゃ、ある意味凄いよ」 天使さんが何やら嫌な事を言っている。 一体この天使さんは私に何をするつもりなのだろうか? もしかしたら、今起きた方が良いのではないだろうか? しかし、私が行動するよりも早く天使さんは私の額を押さえつけ、口元に何やら管の様なものを持ってきた。 そして、その管からは何か液状のものが出て来て、私の口の中へと入っていく 。 「っ!!」 その液体の味を認識した瞬間、口の中に言いようの無い程激しい痛みが走った 。 いや、正確に言うと痛いくらいに激しい清涼感が口の中を支配していた。 あまりの痛さに私は目と口を大きく開き、自分でもびっくりするくらいの勢いで跳ね起きる。 そして私にその何かを飲ませた天使さんと目が合う。 「おっはよう、アミィちゃん。と言うか、まずははじめましてだね」 ピンク色の髪を後ろで束ねたその天使さんは、にこやかに挨拶をしていた。 だけど、私は思いっきり警戒していた。 まず、何故この天使さんは私の名前を知っているのか? 私に何の様があってこんな真似をしたのか? そして、何でそんなに友好的なのか? この天使さんの正体が解らないだけに、物凄く疑問だった。 だから、私はあからさまに疑うような視線で彼女を見つめていた。 「あ〜……そんなに警戒しないでいいよ。別に、アンタをどうこうしようって訳でもないしさ」 私の眼差しに、引きつり気味な笑顔でそうかえす天使さん。 ただ、何となく……何となくこの天使さんは信用できそうな……そんな気がした。 もちろん、完全に信用したわけじゃない。 だけど、少なくともこの天使さんは私に対して友好的であることは確かだ。 「あ……ゴメンゴメン。自己紹介がまだだったね。アタシはアーチェ・クライン。アーチェって呼んでね」 天使さんは名を名乗った後、私に右手を差し出す。 彼女の笑顔と、差し出された右手の意味を悟った私は、同じように笑顔で右手を差し出し、お互いに握り締め会う。 「はじめまして……えっと……アーチェさん」 アーチェさんの人懐っこい雰囲気に、私は自然と笑顔になっていた。 これが、私とお姉ちゃんの出会いだった。 次回予告(ぇ?) 村が壊されちゃって行くあてが無い私は、お姉ちゃんの家に暫くお世話になることに。 お姉ちゃんとの生活で、色々な話を聞いた私は、その胸の内にあるお兄ちゃんへの想いを感じ取りました。 お姉ちゃんにはお世話になったし、何とかしてその想いをとげさせてあげたい 。 でも……まず大きな問題がありました。 お姉ちゃんは……これ以上無いくらいに料理が下手だったんです。 次回『新しい暮らし、新しい家族』 アミィはお姉ちゃんの為に頑張りますっ! あとがき すず「えっと……マヅカノレポーチを書かずにこんなの書くとは……ふざけてませんか?」 たつ「いや……はじめはマヅポ書いてたんだけど、途中でなんかアミィちゃん書きたいなって思って」 すず「そうですか……まぁ、あまり責めはしませんが。マヅポはちゃんと完成させられるのですか?」 たつ「えっと……わかんねぇ」 すず「…………あのぅ…………某所掲示板で、あんな事書いておいて……そんなのありですか?」 たつ「いや……ネタはあるんだけど」 すず「それ……最低の言訳です」 たつ「……ちっ」 すず「……その舌打ちは……悪いのは明らかにたつさんの方だと思うのですが」 たつ「……いいよ……僕は最低な人なんですから」 すず「解っているなら、これ以上は何も言いません。反省してください」 アミ「ところで、これってどういうお話になる予定なの?」 たつ「んあ?……えっと、とりあえず君はアーチェに救われて、その後どうなったかって話だよ」 アミ「ふうん……で、具体的にはどんな展開になる予定なんですか?」 たつ「そうだね……はじめは友好的だったアーチェだが、次第に仲が悪くなり、ある日アーチェに騙された君は悪い男達に」 アミ「疾風っ!!」 たつ「ぐげらっ!!」 アミ「まじめに話してください……次は容赦しませんよ?(にこっ&怒)」 たつ「わ、悪かった。ま、簡単に言えばアーチェとアミィの生活を描いた作品ってとこかね」 アミ「随分適当な説明ですね」 たつ「いや……実はまだ大筋を考えていない」 アミ「…………お姉ちゃん呼びますよ?」 たつ「い、いや……そう言われても、事実だからしょうがないよ」 アミ「……まぁ、いいです。とりあえず、次回以降ほどほどに期待しておけって事ですね」 たつ「ま、そゆこと」 ……本当に大丈夫なのか? ……いや、まじで。 |