人民の人民による人民のためのチベット
中宮 崇
・中国人がやってくる!
新宿のガード下などにダンボールハウスをつくって暮らしているホームレス。「青森に行けば、稼ぎの良い仕事につけますよ。引越はお手伝いしますから、すぐ立ち退いてください」。
そんなこと言われたら、ホームレスでさえ怒ります。人権屋さんや市民団体様だて黙ってはいません。「ホームレスの居住権利を侵害するな!」という運動が必ず起きます。ましてや、貧しいながらもきちんとした家を構えている一家ならなおさら憤慨するに違いありません。
さらに、立ち退いた土地に豪華マンションが建てられ、よそものの金持ちがずかずかとやってきて住みついたら、朝日新聞などは「金持ち優遇、弱者切り捨て」などとわめきたてること請け合いです。げんに、青島東京都知事が「動く歩道」を作るためにホームレスを退去させようとした際、そのようなキャンペーンが行われました。
実は今、これと同じようなことが空前の規模で行われようとしています。
チベット。中国に侵略・支配され、100万以上の住民が虐殺されたといわれる悲劇の仏教国。亡命中の解放運動の指導者ダライラマの名は、世界にも広く知られています。
その中国が、まさにこのダライラマの生誕地の住民約6万人を、住みなれた土地から追い出して、文化も言葉も全く異なる中国各地に移住させようとしています。しかも、追い出した跡地に、中国各地の漢民族を入植させようとしているのです。
中国政府はこれを、「貧困対策」としています。しかし、チベットを中国領と主張できるように既成事実を作ってしまおうとする意図があることは見え見えです。
しかもあつかましいことに、このような文化破壊侵略事業に必要な資金をなんと、世界銀行に融資してもらおうと申請をしてきたのです。
当然のことながら、このような侵略行為に世銀が荷担するわけもなく、先日、アメリカ、ドイツ、日本などの理事国の過半数の反対で、融資は拒否されることになりました。
ところが中国は、この侵略行為に必要な資金約4000万ドルを自前で調達して事業を継続することを発表。しかも
「中国の南西部の経済開発を妨害しようとする日本、アメリカなどの一部の先進国により、青海省(注:チベットのことです)の貧困救済プロジェクトの世銀融資に不当な政治的条件がつけられ、中国政府としては到底受け入れられないため融資を拒否した」
と、日米を名指しで非難。チベット人を追い出して代わりに中国人を移住させるだけの計画のどこが「貧困救済プロジェクト」なのか、到底理解不能ですが、こういうのを「盗人猛々しい」と言うのでしょう。
・侵略に荷担する朝日新聞
ところで、全く不可解なのは日本の市民・人権団体や朝日新聞、それにいわゆる「進歩的文化人」達の動き。
欧米で激しい反対運動が発生し、メディアでも大きく取り上げられる中、これらの勢力は今回の中国の計画について、ほぼ完全に口をつぐんで黙認の姿勢を決め込んでいます。このような中国べったりの姿勢と、朝日やNEWS23の筑紫哲也などによる積極的な中国の侵略行為に対する賛成の姿勢については、以前週刊言志人でも取り上げてきましたが、今回も同様の卑劣な「しらんぷり」が繰り返されようとしています。
新聞各紙が8日、
「ダライラマ生誕地の住民移住 世銀が融資拒否」(毎日)
「対中融資を撤回 世銀、チベット問題に配慮」(日経)
といったように、中国によるチベットへの侵略行為をうかがわせる見出しで報じたのに対し、9日の朝日は
「世銀の対中融資白紙に チベット関連 中国自前で調達」
などという、何が問題になってるのか全く読者にわからない、それどころか、「また世界が中国に意地悪している」とでもイメージさせかねないあいまいな見出しで報じるにとどまりました。
さらに犯罪的な点は、他の新聞が軒並み伝えていたこのプロジェクトに関する数々の問題点を、朝日のみは記事中でも全く伝えていないという点にあります。わずかにそれについて触れた部分も、
在米チベット人組織などが「チベット文化虐殺計画」だと展開していた批判が結果的に融資を押し戻した形になった。
などと、まるで反対していたのはアメリカに住むチベット人活動家だけのような印象を与えようとしているのです。メディアとしてあるまじき、驚くべき偏向です。
朝日新聞は、戦後一貫して共産中国を無条件に擁護してきました。文化大革命による数百万規模の大虐殺を日本人の目から隠し、さすがにばれそうになると今度はそれを正当化。チベット侵略に関しても、同じことが行われようとしています。
この世で最も信じられないもの、私なら真っ先に、「朝日の中国報道」をあげるでしょう。
参考:
<世銀>中国住民移住への融資を拒否 日米欧の反対で (毎日新聞)
2000/07/13
なかみや たかし(本誌編集委員)