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有理数の不思議

この前、このページの伝言板にて、高校時代の友達からこんな書き込みがあった。

古代エジプトには分数の概念はあったものの、単位分数の概念しかなくて、 たとえば2/3を 1/2+1/6 のように表現していた、というのは多少有名な話だと思うのですが。 そこで質問。
「全ての規約分数は、異なる単位分数の和として表すことができるか?」

なかなか面白そうだ。すぐに分数を単位分数の和にするアルゴリズムっぽいのは構成できたとはいえ、有限時間停止問題が残った(笑) 。結局のところ、その質問をできた分だけお二人の先生にぶつけてその証明と証明の意味を理解することができた。まず、アルゴリズムを示し、有限回で終わる事を示し、最後にその二通りの意味を説明しよう。その説明の一つはこの命題が信じがたいものであるが、もうひとつは当たり前と思わせる解釈である。

アルゴリズム

まず、自然に考え付くアルゴリズムを紹介する。結局、この方法で証明も完成する。例として、3/5をあげよう。単位分数、すなわち1/□の形に分解しないといけないのだから、[3/5に含まれる最大の単位分数]を考える。計算してみよう。1/n <= 3/5 < 1/(n+1)となる、nを見つければよいだけだ。

ガウスの記号[x]はxを越えない最大の整数。

さて、この場合nは。5/3 = 1.6...だから、初めて越える整数は2だ。だから、3/5に含まれる最大の単位分数は1/2となる。その次は、3/5から1/2を引いて、その答えに含まれる最大の単位分数を探す…そしてまた引いて…を繰り返す。幸いにして、3/5 - 1/2 = 1/10でこれ自身が単位分数になるから、これで単位分数への分解は終了である。3/5 = 1/2 + 1/10。

他の難しい形の分数も同じようにすればいいことは分かるだろう。そして、最大の単位分数を調べて、それを引く。引いたものの中で最大の単位分数を探して…をやっているのだから、「異なる」単位分数に分解されているというのも明らかである。

さて、問題は、この操作が有限回で終わるか?というのが問題になってくる。次々に見つけ出してくる単位分数はどんどん小さくなり、ついには0に収束することも分かるのだが、ある回で先ほどの1/10のようにストンと単位分数に落ち着くかは問題である。しかし、それが簡単に証明できる!

有限性

7/16を分解してみよう。先ほどのように逆数にして、2.3...だから、始めの単位分数は1/3。引き算して7/16-1/3=5/48。7/16=1/3+5/48。5/48を逆数にして、9.6。単位分数は、1/10。引き算して、5/48 - 1/10 = 2/480=1/240。まとめて、7/16=1/3+1/10+1/240。となる。さてさて、次々に最大単位分数を探してきたが、対象となる分数と最大の単位分数を除かれたあとの分数をの分子を比較してほしい。つまり、7/16=1/3+5/48の7/16->5/48。5/48 =1/10+1/240の5/48->1/240の分子である。なんと、小さくなっているではないか!それがどうしたの?たまたまでしょ?それが何か役に立つの?とも言う人もいるだろう。何か役に立つのかはわかっていたが、その事自体に気づかなかった。単位分数に分解してみた例は2,3例であって、そんなことに注目もできなかった。(大抵は2,3の単位分数分解で終わってしまったので余計に)このことを見抜かれた先生はやっぱり偉い。

さて、種明かしをしよう。もし、このこと、つまり最大の単位分数を取り除いた次の分子がもともとの分子よりも小さくなっていたとしたら…どうなるか。16/111とかが、単位分数と(分母はどうなるかは分からないが)分子が16より小さい分数aになる。で、アルゴリズムを良く見たら分かるように、残った分子が16より小さい分数aをまた単位分数と分数bに分ける。そのbの分子は、またaの分子より小さい。そして、bをまた単位分数に分けると…と続ける。つまり、あまり部分の分数の分子は16より始まって次々に小さくなっていく。行きつく先は、そう"1"である。それは待ちに待った単位分数であり、あまり部分の分数が単位分数に落ち着けばこれですべての操作は完了するのである。

しかも、このことはp/qという分数が与えられてそれを単位分数に分割する場合の、単位分数は多くともこれだけだ。というのもを簡単に与えてくれる。pがどんどんへっていくのだから、多くともp回の操作では単位分数はすべて出揃うはずなのでである。さて、その問題は結局次のことに帰着された

「どんな分数p/q(ただし、p,q>0。p/q <1 )について、それに含まれる最大の単位分数を引いた分数の分子はpより小さい」

「含まれる」という表現はおかしいが、ニュアンスは伝わるだろうか?きちんとかけば、[p/qに含まれる最大の単位分数]とは、[p/qより小さい単位分数の集合のうち最大のもの]を意味する。また、もちろん分数の表記はたくさんあるから、分子がpより小さいという表現もおかしい。[…引いた分数を約分し既約分数にしたときの分子はpより小さい]が正しい表記である。ついでに書いておきたいが、数学ではイメージ正確さが対立しうる要素として存在しているかのようである。どちらも大切であり、欠かすことはできない。不正確な書き方をあえてするのはその書き方がよりイメージしやすいからであってかなりの程度役に立つ。しかし、いつでも正確な表記や意味に立ち戻れることを確認しておく必要がある。それから、p/q < 1は、整数部分は始めに除いてしまえという意味。

それは証明できるのか?実は簡単である。アルゴリズムを参照しよう。以下、p,q>0であることはもちろん仮定してある。

もちろん pn-q/np は約分ができる場合があるが、その場合にはpn-qはそれより小さくなるからそれでよい。これで目標の質問には肯定的な答えを出せた。結局、エジプト人の持っていた分数と、今私たちが持っている分数とでは表記法の違いにすぎず、彼らが分数に関して足りなかったわけではないことがわかった。

さて、証明はできたわけだが、その証明の意味するところを考えて見よう。二通りの解釈をしてみる。

有理数の神秘!?

上記の中で、少し触れた部分もあるが。今一度アルゴリズムを見直してみよう。ある分数p/qが与えられたとする。p/qに含まれる最大の単位分数を引く。p/qが単位分数でない場合は当然引いたらあまり(これも正確じゃない…かな。差のこと。)がでる。そして、またあまりに含まれる単位分数を引く…そして…を繰り返した。"あまり"の部分が0になっていくことは簡単に分かる。…のだが。今証明したことは、何回かやった後では、必ず1/□の形にストンと落ち着く!ということを主張している。しかも、回数はp回以内で。はじめは「?」かも知れないが、数直線に書いていただくとなんか信じがたい気分になってくるに違いない。(それとも私の感覚が狂っているだけなのだろうか。)

あたりまえ

次は当たり前の解釈。恐らくはエジプト人が考えたであろう方法。例えば、3/5を単位分数に分けよう。この分数の意味だが、ここでは1を5つに分けて3つ分ではなく、3を5に分けると考えよう。ここに「ようかん」が3本ある。5人の子供にもちろん公平に分けたい。さて、どうするか?

あ。まぁ。とりあえず5人に均等に分けられるように、それぞれを2当分しよう。そしたら、3*2=6できた。それぞれを子供たちに分配する。子供一人が受け取ったのは、一本の1/2。残ったのは一本の1/2の塊であり、これを子供たちに分ければよいから、それを5等分にすればよい。受け取るのは、1/2のものを5つに分けた。つまり一人には1/10与えられる。これで、3/5 = 1/2+1/10。

今のはウォーミングアップ。次に、2本の「ようかん」を5人にあげたい。今の同じ方法で考えて見よう。とりあえず5人分確保したいのだから、一本を何等分にすればよいだろうか。それは3等分すればよい。そしたら、3*2=6つできる。だから、まず一人に1/3づつくばる。残ったのは一本の1/3が一個だからこれを5等分する。1/15となる。2/5 = 1/3 + 1/15。

さて、証明に入ろう。上記の方法はアルゴリズムを具体的にあらわしたに過ぎない。さてp/qが与えられていたとする。p本の「ようかん」をq人に配りたい。そしたら、当然、q人分確保したいのだから、q <= npとなる始めてのnをみつけてそれぞれをn等分するわけである。そして、q人分とりさる。残った「ようかん」の塊の数は(np-q)だが、これがpより多くなることはない。なぜなら、「おいきみぃ。n-1等分でもq人分確保できたじゃないか!なんで塊を小さくするんだ!」となるわけである。(式では、np-q < pなら(n-1)p<qである)結局、かけらは減ってゆき、ついには1個。そして分割される。つまり、この操作は有限回で終わる。エジプト人はこの言を認識していたのだろうか…。

あとがき

なかなか面白い問題だった。「有理数の神秘!?」の解釈をしたときは、これは無理かな?と思えたが、「有限性」の一つの発見がものすごく簡単な証明を、そして多くとも何回であるということも教えてくれた。さらには、エジプト人が考えたであろうことを考えるにつれ当たり前に見えてきた。こう説明された後でも、やっぱり神秘さの解釈だけを見るとき不思議な気持ちに襲われる。まさか、有理数がこんな気持ちをさせてくれるとは思わなかったものだ…。実数ではこんな神秘さは日常茶飯事だと言ってもいい。できるだけ早くその言を書ければ…と思うのだが。

ちなみに、[3本の「ようかん」5人で分けたい。どうする?]は、母を含めいろいろな人(数学に特になじみがない方々)い出題させていただいた。「あたりまえ」で説明した方法はまさか取るまいと思っていたが、ほとんどの人がその考えを始めにしたのである。これは予想外だった。…でも、[2本の「ようかん」5人で分けたい。どうする?]となると、ほとんどの人が一本を5等分すると答えた。これは、1/5+1/5という考えで[1を5つに分けた二つ分]という考えに近いだろう。やっぱり1/3は始めには思いつかないのかな?ちなみに、私は、3本だろうが2本だろうが、隣に並べてそいつを大きな一つと考える。そして5等分して終わり。という考えに終始してしまった。あなたはいかがだろうか?

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