どうしてここにいるのか?

うずくまり自問する。


いらえはない。


答えは出ない。


今はただ時がたつのを待つしかないのだろうか。

その先に何も見えなくても。




SR −the destiny−

〔第6話 裸足で走れ〕

Written by かつ丸



「ここを出ていくって言ってるの? それはちょっと意外だったわね」

コーヒーカップに口をつけながら、リツコは醒めた口調で言った。頭の包帯はまだつけたままだが、もう仕事を始めている。

ダミープラグの正式採用と零号機の修理、家で休んでいる暇など無いのだろう。

「考えさせてくれって言ってるだけよ・・・・でもレイと何かあったのかしら。様子おかしかったもの、あの子たち」

「レイちゃんふさぎ込んでましたもんね、昨日の晩は・・・・今朝もですけど」

暗い表情でミサトとマヤが答える。ここ数カ月家族のように暮らしている子供たちのことが、心配でないはずが無い。

「シンジくん、拗ねてるだけなんじゃないの? まあパイロットじゃなくなった以上、止める権利も理由も私たちにはないと思うけど」

「今まで使うだけ使っといて用が無くなったらさようなら? そこまでドライになれないわよ私は」

「だから選ぶのはあの子でしょう? 出ていけなんて誰も言ってないんだから」

皮肉を含んだミサトの言葉にリツコは冷笑で返した。彼女にとってはシンジの存在はさほど重要ではないのかもしれない。

「ここに残ってあなたたちの世話を続けるのが嫌なんでしょう、きっと」

「あんたねえ」

ミサトが声を荒らげる。感情をむき出しにする彼女を諭すようにリツコは続けた。

「だったら選ばせるような言い方しなきゃ良かったじゃないの。どうせどうするか訊いたんでしょう、あなた」

「・・・・・・だってそんな答になるなんて思わなかったんだもの」

「いてもいなくてもいいって言われたと思って・・・それで傷ついたのかもしれませんね、シンジくん」

マヤがリツコに同調する。ミサトの額からは冷汗が出てくる。

「ははは・・・・ちょっち軽率だったかしら」

「ちゃんとフォローしときなさい。シンジくんが司令に出ていくって答えたら、それが決定になるのよ」







「補充される筈の機体が2機とも失われた。大幅に予定が狂ったのではないか?」

司令室。いつものように将棋雑誌を片手に駒を並べながら、冬月がゲンドウに尋ねた。

ゲンドウもいつものように両手を机の上で組んでいる。

「修正可能な範囲だ。ダミーが完成した以上、順調だとも言える」

「既に11体の使徒を倒し、残りは4体。確かに順調だがな」

「ああ、ドイツでは五号機と六号機を開発中だ。補充はそれで間に合うさ」

懐疑的な口調の冬月に対しゲンドウの言葉には自信が溢れている。そうでないと組織のトップなど勤まらないのかもしれない。

「あとは彼女だな。間違いなく覚醒の時は近い。それまでにどれだけの使徒を倒せるかだが」

「難しいところだ。使徒を倒せば約束の時が近づく。そうなればそれだけ補完計画の発動が容易になる」

「阻止するのが困難になるか。そういう意味では今が潮なのかもしれんな」

「ああ、老人の動きもまだ鈍い。彼らが我々に疑いを持つ前に全てに片をつける、それが一番いい」

「・・・・だからといって急ぎすぎないことだな。覚醒していない以上、彼女が帰ってくる可能性は高くはない。それはお前にも分かっているだろう」

静かに諫める冬月の言葉、ゲンドウが口許を歪ませ笑う。この間の戦いで初号機をバスターランチャーの標的にしようとしたこと、それを指しているのはお互いに分かっていた。

「・・・・そうだな。ユイの魂はまだ眠っている。確かに急ぐ必要はない、その通りだ」

呟くように言い、一旦言葉を切る。冬月がゲンドウを見つめる。

「・・・・・だが未来が見えない以上、機会を逃すわけにはいかんさ。次があるとは限らんのだから」

それがゲンドウの本音なのだろう。もう一度ユイに会う、そのためだけに彼はここにいるのだから。

絶句した冬月に代って答えるように、その時、非常警報がなり響いた。






その姿はまるで巨大な奴凧のように見えた。

蟻の行列を踏みつぶすように、いとも簡単に駒ヶ岳防衛戦を突破した使徒は、すでに第三新東京市の上空まで来ている。

なんの威圧感も感じられないその様相。にもかかわらずその眼が光ると市街地の地面が割れ十字の閃光がきらめく。

「第1から18番装甲まで損壊!!」

かつてない強大な使徒の力にオペレーターが声を張り上げる。地上の特殊装甲の破壊、それは使徒がジオフロントに到達することを意味していた。

「弐号機は目標がジオフロント内に入った瞬間を狙って迎撃!! でもランチャーは使えないわね。レイは?」

指示を出しながらミサトがモニターを見る。そこではまさにレイが初号機を起動させようとしていた。先の交換試験で確認済とはいえ、その後実験はしていない。

「A10神経接続開始」

リツコの合図と共にレイが乗るプラグの中のモニターが変化していく。零号機の時と変わらぬはずのそれは、ある瞬間に警告の文字に変わった。

「うっ」

嘔吐感に、プラグの中でレイが口許を抑える。

「パルス逆流!」

「初号機、神経接続を拒絶しています!」

「・・・・そんな」

やつぎばやの報告にリツコが呆然とした顔をする。データ上はありえないことだからだ。

それを見て冬月が傍らのゲンドウに囁く。その瞳は厳しい。

「碇、彼女は既に目覚めていたのかもしれんぞ」

「ああ・・・・・初号機はダミープラグで出せ。 レイは零号機に切りかえろ」

頷いたゲンドウが階下の部下に向かって指示を出した。

「し、しかし零号機は・・・・」

ミサトが反論する。左腕の無い零号機はとても戦闘に耐えられるとは思えない。

それを遮るようにモニターからの声が響いた。

「かまいません。行きます」

「レイ!?」

画面に写る彼女の瞳は、いつもより暗く輝いているように見えた。







まるで青空のような天井。

金色の機体の両手にパレットライフルを構えながら、マヤはそれを見つめていた。

バスターランチャーは外している。使えない以上、動きの邪魔になるだけだからだ。だがそれは遠距離射撃を主要な運用法として訓練してきたマヤにとって、あまり望ましい事態ではなかった。

シンジもレイもいない、一人だけの出撃。今だ起動していない初号機と左腕の無い零号機、期待は出来なかった。

自分が止めるしかない。その思いにマヤはくちびるを噛みしめていた。

「私が・・・・私が頑張らないと・・・」

既に目が潤み始めている。

霞みがちなその瞳に、空色の天井に爆発が起こるのが写った。

大きな穴があき、そこからゆっくりと使徒が降下してくる。

「このっ、このっ」

銃口を使徒に向けると、悲鳴のような声をあげながらマヤはライフルの引き金を弾いた。







零号機の起動はスムーズに完了した。

モニターには使徒と弐号機の姿が写っている。ATフィールドは中和されているはずだが、弐号機の撃ちだす弾丸はまるで効いている様子が無い。

焦るマヤの声をモニター越しに聞きながら、まるで別の世界のことのようにレイはそれを眺めていた。

シンジのいない戦場。

守るべき人。守ってくれる人。それがいないだけでなぜこんなにも空虚なのだろうか。

最初の出撃から、常にずっとレイの傍らにいたシンジ。彼が戦いで傷つくことに怯えた日もあった。
今は違う。何の感情もわかない、ただ空っぽの心があるだけ。
だから恐怖も無い。

弐号機がライフルの弾をうち尽くしバズーカを構える。パレットガンより遥かに威力を持つ筈のそれもあの使徒にはダメージを与えていない。

普通の武器では無駄ということだろう。ならば他の手段を探さなければなるまい。

ケイジから射出されるとすぐに、レイは武器倉庫に向かった。

どこか自棄になっていることに、自分でも気づいていないまま。






「どうして!? どうしてよ!?」

マヤの叫びが響く。

バズーカの弾が何発命中しても、使徒にはなんの効果も無かった。

音もなく空中を飛び、こちらに向かってくる。

弾切れ、また別の銃に持ち替える。もう何梃使っているだろうか。

「私が、私が頑張らないといけないんだから」

自分に言い聞かせるようにして涙声でマヤが言う。逃げ出したい。しかし後ろの施設にはリツコ達がいるのだ。

「落ちてよ!お願いだから!」

間近に迫る使徒に撃ち続ける。それを蚊が刺したほどにも感じない様子で、地面に降り立った使徒は弐号機に対峙した。

それまで固定したように動かさなかった両手を上げる。まるで紙を折り畳んだような使徒の手が、一気に伸びて弐号機を襲った。

「きゃああああああっ!!」

肩口を狙ったそれが弐号機の両腕を切断する。根元から切り取られた腕が宙を飛び、案山子のように弐号機はその場に立ちつくした。

「マヤ!!」

モニターで見ていたミサトたちがあまりの事に叫んでいる。それに気づくことも無く、プラグの中のマヤは頭を抑えている。

直接シンクロしているわけではないため痛みは感じない。しかし、彼女の頭の中には悲鳴が響いていた。

聞いたことは無い。しかし彼女がよく知っているような気がする少年の声。

「いやああああ!!」

マヤの脳に直接訴えかけてくる悲鳴が、マヤから全ての思考を奪う。目を剥いてマヤも甲高い悲鳴をあげた。痛みではなく、恐怖から。

「マヤ! 逃げて!」

「うわあああああ!!」

ミサトの声など聞こえていないのだろう。錯乱したのか弐号機は使徒に向かって突っ込んでいった。

再び使徒の手が弐号機を狙う。

「神経接続切りなさい!! すぐに!!」

リツコの叫びが発令所に響く。その指示が間に合ったのかどうか。繰り出された帯状の手が弐号機の頭部を切断し、金色の機体は、その動きを止めた。







衝撃が突然シェルターを襲った。激しい轟音と共に。

破壊された壁。渦巻く人々の泣きわめく声。

瓦礫と砂煙の向こうにシンジが見たのは・・・・弐号機の頭だった。

「ど、どうして・・・」

あたりの人を巻き込みながら降ってきたそれは、すなわちマヤが敗北したことを意味する。

苦戦している?

しかし今のシンジにどうすることも出来なかった。係員の指示に従いシェルターを脱出する。外に出ると無数のきらめきが見えた。それは高射砲の放つ弾着の光、戦闘はまだ終わっていない。

まるで滑るようにゆるやかに移動する使徒の姿。あきらかにジオフロントを目指している。そしてその向こうには両腕と頭を失い無残な姿をさらす弐号機が立っていた。

「・・・・・・・マヤさん」

避難する人の波から外れ、シンジはそれを見上げていた。使徒は全くの無傷なようだ。シンジにもこんな経験は無かった。まるで尋常ではない。


「シンジくんじゃないか?」


背中から掛けられた声にシンジが一瞬驚く。振り向けばそこには加持がじょうろを持ったまま立っていた。無精髭といつもの笑顔、まるで緊張感が無い。

「な、なにしてるんですか? こんなところで」

「それはこっちのセリフだよ。何してるんだ? シンジくんは」

問い詰めているわけではない。世間話のような軽い調子。だが、シンジはその問いに下を向いた。

「・・・・僕は、僕はもうエヴァに乗らなくてもいいって・・・・そう言われたから・・・」

「そうか・・・・じゃあ、俺と同じだな」

加持が少し苦笑する。手に持ったじょうろを傾け水を出す、その先にはスイカ。そう、ここはいつかのスイカ畑だった。

「アルバイトが公になってね。戦闘配置に俺の居場所は無いんだ。だから、ここで水を撒いている」

「こんな時にですか?」

「こんな時だからだよ。葛城の胸の中もいいが、やはり死ぬ時はここにいたいからな」

「死ぬ?」

加持の言葉にシンジが震える。考えないようにしていたこと。

「ああ・・・・使徒がここの地下に眠るアダムと接触すれば、人は全て滅びると言われている。サードインパクトでね」

「・・・そんな」

絶句するシンジの耳に、何かが駆ける音が聞こえた。青い色のエヴァンゲリオン。零号機の姿。

「あ、綾波。どうして?」

左腕は切断されたままだ。残された右腕に何かを抱えている。円柱状の固体。N2爆弾。

「な、何してんだよ!!綾波!!」



『レイ、止めなさい!!』

モニターの向こうでミサトが悲鳴を上げる。展開された使徒のATフィールドをこじ開けるようにして、レイは零号機の右腕を使徒に近づけた。

狙いは使徒の胸に光るコア。あれを破壊すればなんとかなるかもしれない。

「ATフィールド全開・・」

強い抵抗をみせる使徒の結界、意識を集中させてそれを突破する。爆弾を握ったまま。 零号機のフィールドは相殺されている。これが爆発すればレイも無事ではすまないだろう。

それでも良かった。

自分には代わりがいるから? いや違う。この街のどこかにいるシンジ。彼を助けるための手段が他にないなら、自分は喜んでそれを選ぼう。

どうせ作られた生。彼と釣り合う自分では無いのだから。

右腕を伸ばす。コアに爆弾が当たった、そう思った瞬間、突然カバーがあらわれコアを隠す。

爆発。

白い光に包まれながら、レイはその意識を失っていた。



「綾波ぃ!!!」

爆風から身を庇うようにしながらも、シンジは目を逸らさずに零号機を探していた。

煙の中から浮かび上がる二つの影。何事とも無かったような使徒と、残っていた右腕も失い佇む零号機。

使徒から伸びた手が零号機の顔を割る。衝撃でそのまま零号機は地面に崩れ落ちた。

「綾波・・・・・どうして」

呆然とし、シンジが呟く。怪我をしているかもしれない、そう思い駆けだそうとする彼に加持が声をかけた。

「あそこに行っても君にはなにもできないぞ、シンジくん」

「加持さん・・・・・・でも、綾波が」

「彼女のそばで死にたいならそれもいいさ・・・・でも君には、君にならできる、君にしかできないことがあるだろう? 俺と違って」

そう言って笑う。その瞳は優しかった。

「でも僕は・・・・エヴァにはもう乗るなって・・・」

「言ったろう、シンジくん。全ては自分のためだと」

「加持さん・・・・」

「俺の言葉も、司令の言葉も、君が気にすることはないよ。周りの思惑がどこにあろうと、君は君の信じる道を歩めばいい。誰も君に強制はしない。自分で考え、自分で決めろ」

加持の言葉にシンジがもう一度零号機を見る。顔面から血を流し地面に横たわった青い機体。ぴくりとも動かない。

外からプラグを開けることはできる。そうすれば再びあえる。このまま死ねばレイを傷つけたあの言葉が、二人の最後の会話になるのだ。

それはあまりにも哀しすぎる。


「・・・・・・・行きます」


何か決心したようにそう呟くと、シンジは駆けだした。

レイのいる零号機の方ではない、使徒の向かう、ネルフ本部を目指して。







「ダミープラグ拒絶」

「だめです! 反応ありません!」

ケイジの中にオペレーターの声が響く。

もう何度めになるのか、繰り返される起動命令。しかし初号機はずっと接続を拒否していた。

初号機で眠っている筈のユイの魂、それが目覚めようとしている証なのかもしれない。そしてレイを、ダミーを拒否している。

もしくは、ゲンドウを。

先の戦いで使われたダミープラグ、その時のシンジの叫びを彼女は聞いていたのかもしれない。

ならばこれが彼女の受け入れられるものでなくなってもやむをえないのだろう。

だが、今はダミーシステムに頼る他に手だては無かった。

司令席を冬月に任せ、ゲンドウは先程からケイジを見おろすモニター施設で指示を出していた。

弐号機も零号機も倒された今、残った機体はこれしかない。使徒はもう目前まで来ている。本部内に侵入するのも時間の問題だった。

シンジのパイロット解任を急ぎすぎたのだろうか。だが誰が進んで息子を危険にさらしたがるだろう。

「続けろ、もう一度108からやりなおせ」

諦めにも似た空気が渦巻き始めたケイジに、一人だけ冷静なゲンドウが指示を出す。

その時、それすらもかき消すように、少年の高い声が響いた。


「乗せてください!!」


見おろせば彼の息子がいた。走ってきたのだろう、息を切らしている。

「・・・・どうしてここにいる?」

もう乗らなくてもいいといったはずだ。そう続けようとしたゲンドウの言葉は、しかしシンジの眼に宿る光にとめられた。


「僕を初号機に乗せてください!! 僕は、僕はエヴァに乗るためにここにいる、初号機のパイロット、碇シンジです!!」







「目標はメインシャフトに侵入!」

「セントラルドグマに向かっています!!」

オペレーターたちが悲鳴を上げる。

「ここに来るわ」

そのミサトの呟きと共に発令所を激しい揺れが襲い、正面のモニターが破られた。

あらわれる使徒の姿。その巨大な顔が発令所のミサトたちを見据える。

使徒の目らしき部分が光る。あの光線だろう。覚悟を決めてミサトが胸のペンダントを握った瞬間、横合いの壁を崩し初号機があらわれ使徒に体当たりした。

「シンジくん!?」

使徒を掴む初号機の左腕に刃物のような使徒の手が襲いかかる。そのまま片腕を切断されながらも、使徒を押し出す初号機の力は弱まることは無かった。

初号機がケイジの射出口の壁に使徒を叩きつける。

『ミサトさん!!』

「5番射出急いで!!!」


ミサトの指示にエレベーターが動かされ、高速で初号機と使徒が外に運ばれる。火花を放ち壁に擦られながら移動する2体の巨人。

表に出る。一瞬宙に放り出される。ジオフロント。あたりはいつのまにか薄暗くなっている。

初号機は使徒を離さない。圧倒的な力で地面に押さえつけている。残った右腕で使徒の顔を掴みそのまま引っ張る。

ゴムのように伸びた使徒の顔が引きちぎられようとした刹那、突然、初号機の動きが止まった。



「初号機、活動限界?」

本部から外に出るエレベーターの中、端末を見るリツコが唖然として呟いた。

ミサトが目を見張る。

「なんてこと、予備電源は?」

「駄目よ、動かないわ」


ようやくミサトたちが外に出ると、そこには動きの止まった初号機とそれを一方的に攻撃する使徒の姿があった。

長く平坦なその手でなぶるように初号機を打ちつけている。初号機の胸の装甲は破壊され、そこからは赤い光球がさらけ出されていた。

「あ・・・あれはコア?」

それは使徒が持つものと全く同じものように、ミサトには見えた。



「動け! 動け! 動いてよ!!」

明りの消えたエントリープラグの中、何の反応も見せないレバーを何度も動かしながらシンジは叫んだ。

何度も繰り返される衝撃、プラグにも亀裂が入っている。

「動いてよ!! 今やらないと、今動かないと何にもならないんだよ!! 彼女を、みんなを守るってそう決めたんだ。だから動いてよ!!!」

その時、鼓動が聞こえた。エントリープラグの外から。

シンジの願いに応えるように。






初号機の目が光り、繰り出される使徒の手を掴んだ。引きちぎり使徒を突き飛ばす。

「再起動・・・・・どうして?」

信じられないといった顔で呟くリツコをよそに、初号機はちぎりとった使徒の手を己が左肩につなげた。みるみるそれは復元し、エヴァの身体と同化していく。

叫び声をあげて襲いかかる使徒に、初号機が右腕を一閃した。使徒には直接触れていない。しかし繰り出した衝撃波がATフィールドごと使徒を引き裂く。

「す、すごい・・・・」

四つんばいになり、初号機が使徒に近づいた。その動きはいつもとは全く違う。完全にシンジのコントロールからは外れている。暴走しているのだ。

「シンクロ率400%?」

「ど、どういうことよそれ」

ミサトの問いかけにリツコが答えるまもなく、初号機があらたな動きを見せた。最後のあがきと光線を発しようとした使徒の顔を握りつぶすと、そのままかぶりつき始めたのだ。

「し、使徒を食ってる・・・」

「まさか、こんな形で取り込もうというの、S2機関を・・・」

初号機が立ち上がる、身体に取り付けられた装甲が弾け飛ぶ。

見ているしかない人間たちを嘲笑うかのように、初号機は咆哮を上げた。

何度も何度も。

その姿には人類の守護者としての面影は、片鱗も無かった。



「彼女がついに目覚めた。・・・・・始まったな」

「ああ、全てはこれからだ」







〜つづく〜









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katu@osaka.104.net



解説:


第6話終了。第十九話相当も終わり。

原作では一番好きな話だけにあまり変えたくなかったんだけど、相変わらず原作そのままやんけという批判がきそうですね(^^;

しかし使徒を食わそうと思えば暴走させるしかないわけで・・・
シンジを溶かそうと思えばこの展開しかないわけで・・・・

まあ、少しずつ少しずつ分岐していこう。





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