ここで暮らすようになってどれくらい経ったろう。


自分の居場所。


それは同居人である彼女の居場所でもある。


たとえ血のつながりはなくても。


打算と必要の産物ではあっても。


信頼があれば、家族になることはできる。


そう思っていた。






SR −the destiny−

〔第12話 サーチライト〕

Written by かつ丸



鳴らない電話。

ミサトは自室の机でそれを見ていた。

あの留守番電話以来、加持から連絡は無い。諜報部にも情報は入ってきていないようだ。依然として行方はしれない。 

ネルフが彼を捕まえていないからといって、それで彼が安泰にしているとは言えない。
冬月を救い出したのはおそらく加持だ。どこの組織かはわからないが、裏切り者として追われていいる可能性が高い。

そして既に消された可能性も。 

甘い組織ではないだろう、仮にも加持ほどの男を使っていたところだ。 

だがミサトは信じたかった。加持がまだ生きていると。

飄々としてしかもしぶといあの男が、そう簡単に死ぬことなどは無いと。


冬月を拉致したと聞いた時感じた怒りは、もうミサトの中にはなかった。

留守番電話の彼のメッセージ、そしてシンジの話。

裏切ったのではない、そう信じられる。

ただ彼の口から事情を聞きたい。ついでに平手打ちの一つでもすれば、それで水に流せるだろう。


そんなミサトの思いも知らずに、部屋の電話は沈黙を保っていた。

生きているなら・・・・・・生きているならもうそろそろかかってきてもいいはずだ。

きっと最後にはミサトを頼ってくれる。

その時はどうするか、ミサトの心も決まっていた。ネルフよりも父の仇討ちよりも大事なことがある。今ならばそれを選べるように思えた。







「ようやく一息ついたわね」

「・・・・・そうですね」

心底ほっとしたようなリツコに対し、傍らのマヤは浮かない顔をしていた。

「少しは元気出しなさい。これからはまたあなたがメインでやらなくちゃいけないのよ」

「やっぱり私なんですか?」

先の使徒との戦いで大破した零号機と弐号機、その改修作業がようやく完了したのだ。
技術部としての仕事は一段落するが、マヤにとってはパイロットへの任務復帰を意味する。単純に喜ぶ気持ちにはなれないのだろう。

「今さら替えられないわよ。・・・・あなたには済まなかったと思ってるわ。でも私は別に後悔してないわよ。あなたを選んだことを」

「先輩・・・・・・私、何もできない駄目なパイロットなのに・・・」

「それでも、よ。決定的なミスはまだしてないでしょ、この間は相手が強すぎただけだし、あなたが頑張ってることはみんな知ってるから・・・・もっと自信を持ちなさい」

ことさらに慰めている口調ではない。リツコが本気でそう思っていることはマヤにも伝わったのだろう、少しだけ機嫌が直ったようだ。不安そうだった瞳の色は変わらなかったが。

「そうでしょうか。・・・・この間はレイちゃんにまで慰められちゃいましたから・・・・保護者も失格してますね」

「レイは興味のない人のことなんか気にしないわ。それだけあの子もあなたに心を開いてるってことよ」

「・・・そうですね。もう結構長いこと一緒にいますもん」

ようやく笑顔の戻ったマヤに、リツコも微笑む。だが、その顔は少し寂しそうだった。

「時間は関係ないわ・・・・私はあの子を5年間育てたけど、笑った顔なんか見たことないもの」

「先輩・・・・」

言葉を無くすマヤ。その時、彼女にかわって答えるように非常警報の音が鳴り響いた。

「これは、まさか」

「・・・・待っていたみたいね、私たちを」







「いったい何をするつもりかしら?」

ミサトが正面の巨大モニターを見据える。第2発令所に移って初めての使徒襲来、いや、使徒発見といったほうが正確だろうか。

翼を広げた鳥、それとも巨大な羽根を持つ蝶。

大気圏外、衛星軌道上を飛来しているそれは、第3新東京市に近づく様子も無く宙空に浮かんでいる。

「降りてくる機会を狙っているのか、それともあそこからでもこちらを攻撃できるのか・・・・・・バスターランチャーは届くの?」

「射程ギリギリです。かなり威力が削がれますから、ATフィールドを破れるかどうかは疑問ですね」

端末を操作しながら日向が答える。それに頷くとミサトは傍らに立つリツコに問いかけた。

「力場を射出するんですものね、超長距離射撃には限界があるか・・・・ポジトロンライフルはどうなの?」

「零号機に準備は進めさせてるけど、もともとの威力が低いから期待はできないわよ」

「かまわないわ。手段は多いほうがいいもの・・・・・初号機が使えないんだし」

「敵があの状態じゃあ同じでしょうけどね」

零号機と弐号機の再度の就役により、初号機が凍結解除される理由は無くなった。
先の戦いでの圧倒的な力を見ているだけに初号機の不在には不安と、そして安堵の気持ちがある。

もう一度野に放って、あの化け物をコントロールできるかどうかわからないから。

「とりあえずバスターランチャーで迎撃、零号機が間に合えば同時発射による一点突破・・・・それでいくわ。分かったわね、マヤ、レイ」







雨が激しく降っている。

空に立ち込める黒い雲。この向こうに使徒がいるのだ。

照準に表示された記号だけがそれを示している。

久し振りの出撃、第三新東京市の市街。

先程からバスターランチャーを上空に向け、発射の機会を伺っているが、使徒はまるでこちらの射程距離を知っているかのように、ギリギリのラインで踏みとどまっていた。

「マヤ、落ち着いて」

「はい」

モニター越しに声をかけてきたミサトに答える。別に焦ってなどいない。そう言い返したい気持ちはあるが、こんな場所で口喧嘩をするほど子供ではないし、余裕も無い。

だが彼女の声にいらだちを感じていることが、マヤは自分でもよく分かった。


・・・・・あの人はいつも口だけだ。


裏方の要として改修作業や武器の開発など多忙を極めているリツコとも違う。
実務はほとんど部下の日向任せだし有効な作戦を立案したこともほとんどない。

下調べもせずに机上の空論に近い強引な作戦。破綻すれば現場で臨機応変に判断せよなどとふざけたことをいい、ならば判断材料はあるのかといえばそれもデータ不足。
過去の戦闘でシンジが使徒に取り込まれたことがあったが、あれなどがその典型だろう。

ただ「勝て」としか言わないコーチや監督など、どんなスポーツでも通用はしない。ましてこれは死を賭けた戦いなのだ。

いくらミサトに実戦経験があるとはいえ、それだけで適性があるとは言えないだろう。
むしろ使徒を目の前にすれば彼女の数少ない理性は霧消してしまうように見える。

感情だけで動き、冷徹な判断の下せない指揮官。

そのくせ文句だけは言うのだ。


参号機が使徒に取り込まれたとき、初めてゲンドウの指揮下で戦ったが、それと比べるとよく分かる。
最初こそ具体的な作戦は無かったが、戦場での事態変化に対応して明確な指示を出してくれた。

ダミープラグの使用にしてもバスターランチャーによる初号機ごとの破壊にしても、あの状態ではそれがベストの選択だろう。

ミサトにはあのような指示はできまい。おおよそ機転がきかないのだから。

指揮能力がゼロで戦闘能力が高いのなら、ミサト自身がエヴァに乗ればいい。


そう、マヤには分かっていた。ミサトが言いたい言葉が。

自分ならもっと上手にエヴァが動かせるはずだと、シンジやレイの手を煩わせたりはしないと。

それに反論できないのが悔しい。

マヤがエヴァを使って使徒を倒したことは一度も無いのだから、もう何度も出撃してるというのに。

だがエヴァに乗ったことも無い彼女になにが分かるというのか。使徒と向き合ったことも無いミサトに。


ミサトとのいさかいの後、部屋で泣くマヤにレイは言った。

私にはわかっている、気にしなくてもいいと。

今まで一度もマヤを責めたことなど無い。レイも、そしてシンジも。

あの子たちは分かってくれる。

マヤの思いも、恐れも。

作られた生命を持つ少女とそれを愛した少年。
マヤよりも遥かに重いものを背負っていながら、周囲の大人を気づかうことさえしてくれる。

やさしい子供たち。


ならばこの使徒だけでも倒してみせよう。

ミサトなどどうでもいい。

自分の存在意義を示すためでも無い。

レイやシンジの負担が少しでも小さくなるように、ただそれだけを願って。



マヤはランチャーの照準を見つめた。

使徒を示す記号が中心部とそろった時、発射すればいい。

本来野戦砲であるバスターランチャーは衛星軌道の敵を狙うにはおおよそ不向きであるが、急造ではあっても照準装置はマギと連動させてある。

照準が合いさえすれば当たる。理論上は問題無いはずだ。

使徒を直接相手にしていないからだろう、不思議と恐怖は無かった。

三角形の記号が中心部を避けるように揺らめき動く。落ち着けと自らに言い聞かせて、マヤは発射の瞬間を待つ。


その時。


突然周囲が光った。






「きゃああああああぁぁぁぁぁっっ!!!」

発令所にマヤの悲鳴が木霊した。

突然使徒から発せられた光線。

モニターには苦悶する弐号機のすがたが写っている。

「な、なにが起こったの!?」

「分かりません!! 使徒の指向兵器ですが熱反応はありません!」

「精神攻撃?」

「・・・・いえ、パイロットに混乱はありますが、直接の影響では・・・ただのパニックのようです」

「まさか・・・・!?」

ミサトとリツコが顔を見合わせる。

「パイロットじゃないわ!! インターフェースの状況を調べて!!」

「は、はい」

意味不明なリツコの指示に戸惑いながらも、オペレーターはキーボードを操作した。

「・・・・?! 変です。 弐号機とパイロット間でシンクロ率乱高下しています」

「・・・リツコ」

「ええ、狙われているのは、彼ね」






「いやああああああぁぁぁあぁぁっっ!!」

エントリープラグの中でマヤは頭を抑えた。

『わあああああああああぁぁぁぁっ!!』

叫び声が響く。マヤのではない、あの時と同じ、少年の悲鳴。

「やめて!! お願いだから静かにして!!」

すでに照準を見る余裕など無くしている。使命感だけがマヤを少年の声から抗わせていた。

「倒さなくちゃ・・・・・私が使徒を倒さなくちゃいけないのよ」

震える手を再びトリガーに伸ばそうとする。だが、頭の中の声は止まることは無かった。

「やめてぇぇっ!!」

マヤが叫ぶ、その声に反応したように弐号機はランチャーを発射した。マヤは引き金を弾いていない、勝手に撃ちだしたのだ。

光球が空高く飛んでいく、しかしそれが使徒に当たることは無かった。



「弐号機暴走しています!」

「マヤ! なんとかして下がって!!」



「む、無茶言わないでください・・・・」

かろうじてマヤはミサトの声に応えた。少年の声は弱まりつつある。だが、それと同時にマヤ自身の意識が薄くなっていくのを感じた。

まるで彼に引き込まれるように・・・



「パイロットの意識が混濁しつつあります」

「彼とマヤはつながっているから、間接的にでも過負荷がかかったのね」

「このままじゃもたないわ。レイ、準備はまだなの!?」



マヤの叫ぶ声を聞きながら、それでもレイは冷静に照準を見つめていた。

零号機が構える長大な砲身は上空に向かっている。

ポジトロン・スナイパー・ライフル。かつてシンジとの初めての出撃で使われた兵器、あの時の砲手はシンジだったが。だが今は感慨にふける余裕など無い。

『地球自転、及び重力誤差、修正』

『最終安定装置解除。全て発射位置』

オペレーターの声が響く。照準が全てそろったのを確認し、レイはトリガーを弾いた。


砲身から撃ちだされた光の束が空を駆ける。雨雲をやぶり、真っ直ぐに使徒を貫くかに見えたそれは、しかし、使徒に当たる寸前オレンジ色の壁に行く手を阻まれた。

四散した光は宇宙へと消えていく。



「駄目です! 敵のATフィールドを貫くにはエネルギーがまるで足りません」

「遠過ぎるか・・・、マヤの状況は?」

「心理グラフ、シグナル微弱。パイロット応答ありません」

発令所のモニターには使徒からの光線に包まれる弐号機が写っている。

すでに暴れてはいない。金色の機体は頭を抑えた姿勢で固まっていた。

「使徒をすぐに倒すのは無理ね。・・・レイに弐号機を連れ戻させるのも、あの光線がある限り危険過ぎる・・・・」

「せめて彼とマヤとの接続を切断できれば・・・・あの子だけでも助かるかもしれないわ」

「でも、どうやって」






なにもない、なにもないところ。

そこに彼はいた。

目を開けている。初めてみた。紅い、そして優しい瞳。

いつものように笑っているその顔は、少し戸惑っているようにも見える。


「・・・・・ついてきたのかい?」


初めて悲鳴以外の声を聞いた。想像よりも少し大人びている、おちついた声。シンジよりも低いようだ。

「あなたは・・・・・誰?」

ずれた返事だったかもしれない。彼の質問には答えていない。しかし訊かずにはいられなかった。

「僕は・・・・僕はカヲル。それが仮の名前。あとのことはまだ思いだせないんだ」

「カヲル・・・・くん?」

「はじめまして、かな。マヤさん。でも、僕はあなたのことをよく知っているよ。いつも一緒だったからね」

カヲルと名乗った少年、その微笑みは、確かにマヤだけに向けられている。今まで目覚めない彼を待っていた、それが報われたような気がする。

「やっと、やっと逢えたね・・・」

彼に向かって微笑みを返す。マヤは自分の頬を涙が伝っているのを感じていた。

頷きながら、カヲルが困ったような顔をする。

「マヤさん、あなたはここにいちゃいけない。リリンの心はとても弱いから、アイツの呼び掛けはその身を壊してしまう」

「えっ、どうして・・・・?」

「アイツが呼んでいるのは僕だけだからさ。彼女を巻き込んでしまったのはしょうがないけど、あなたはまだ間に合う。さあ、ここを離れるんだ」

カヲルの身体が小さくなる。いや、マヤから遠ざかっているのだ。思わず手を伸ばす。

「待って、待ってよカヲルくん。せっかく逢えたのに、そんなのいやよ」

「大丈夫・・・・・すぐにまた逢えるさ。僕は消えたりしないから・・・・・」

そう言いながらもカヲルの姿はマヤの視界から消えていった。届かなかったマヤの手のひらが宙を泳ぐ。

「いやぁぁァァァァァァァッッッッ!!」

なにもない、誰もいない場所に、ただマヤの叫び声だけが響いていた。



気がつけばマヤは弐号機のプラグの中にいた。モニターの明りは消えている。光線の影響か、通信も途絶えているようだ。

そして・・・、確実にいつもと違うこと。

彼が・・・カヲルのことが感じられなかった。

どこかに行ってしまったのだろうか。

「うっ、うっ・・・・カヲルくん・・・・・カヲルくん・・」

深い喪失感の中、マヤはただ泣きつづけた。誰も聞くものの無いエントリープラグで。





モニターの中の弐号機は、依然使徒の発する光線にさらされていた。なすすべを持たないミサトたちの前で、頭を抑えたままもうほとんど動かない、時折けいれんをおこす以外は。

『僕が、僕が初号機で出ます!!』

初号機は第7ケイジに凍結されたままだ。万一のことを考えシンジはプラグ内に待機していた。

かつての戦いで弐号機のランチャーを初号機が代りに使ったことがあった。あれを再び行なおうというのだろう。

「いかん、目標は対象の精神を侵食するタイプだ」

「ああ、初号機を侵食されたらもとも子もない・・・・レイ、ドグマから降りて槍を使え」

ゲンドウの言葉に冬月が目を剥く。

「ロンギヌスの槍をか!」

「衛星軌道の使徒を倒すにはそれしかない」


ゲンドウの指示に従い零号機がドグマに潜っていく。自分の頭越しに行なわれた指示に不快感を感じるより先に、ミサトには大きな疑問が生まれていた。

槍とは地下のアダムに刺さっていたアレのことだろう。エヴァとアダムを接触させることはサードインパクトを起こす要因になるのではないのか。

ゲンドウたちの様子からはそれが欺瞞だと感じ取れた。加持の情報によればアダムは彼が持ち込んだはずだ。
ならばアダムにあの巨大な槍を刺したのはエヴァしか考えられない。

いったい何のために。そしてなぜ今またその槍を使おうというのか。

「・・・何を隠しているの、司令たちは」



「まだ早いのではないか?」

「委員会はエヴァの量産に着手した。残る使徒は2体だ。時間は無い」

「老人たちが黙っていないぞ」

「どのみち避けられんさ。今は理由が存在すればいい」

「お前が欲しいのは口実だろう?」



槍を手に携えて地下から零号機がせり上がってきた。

地上に出、投擲のポーズで槍を構える。

厳しい表情で空中を見つめ、オペレーターのカウントにあわせ零号機のレイは槍を投げた。

ニ叉の槍が錐揉みしながら一本の棒に姿を変え、黒雲を引き裂き空を飛んでいく。

一直線に使徒を目指した槍は、たちはだかるATフィールドすら一瞬で突き破り、使徒に突き刺さるとそのまま四散させた。



「目標、消滅しました」

「弐号機、解放されます」

安堵するオペレーター達の声、冬月だけがこころもち緊張した口調で問いかけた。

「ロンギヌスの槍はどうした?」

「第1宇宙速度を突破、月軌道に移行しています」

「回収は不可能に近いな・・・・」

冬月の呟きにゲンドウが微かに口許を歪ませて笑う。目的は達した。そういうことだろう。



『マヤ!! マヤ!! 大丈夫!? 返事なさい!!』

『どうしたの? マヤ!?』

「うぐっ・・・・・うぐっ・・・・」

モニター越しにリツコとミサトの声がする。知らない間に使徒は倒されたようだ。プラグ内の様子も元に戻っている。

だが、マヤは泣くことを止めなかった。

まだ、カヲルは帰ってきていなかった。彼女のそばには。
役に立たなかったことよりも、そのことだけが哀しかった。

自分は彼を待っていた、他の誰よりも。
シンジとレイが深く結びついているように、戦いですさむ心を癒す存在として彼と結ばれることをずっと望んでいた。
そしてそれがいつかかなうと信じていた。

だからあの二人にも優しく接することができたのだ。

ネルフを止めてでもエヴァから降りようとはしなかったのだ。

そのことが分かってしまった。

彼を感じることはもうないのかもしれない、そんな予感を打ち消すことが、マヤには出来なかった。








「・・・目覚めたのかもしれないわね。あの子も」

ターミナルドグマの一室。端末に映し出される画面を見ながら、小さくレヰは呟いた。

その時ドアにノックの音がした。

戦闘が終わったばかりの今、いや、そうでなくても、こんな所に来る者は一人しかいない。

「・・・・開いてるわよ」

「お邪魔します」

そして開いたドアから入ってきたのは、レヰの予想通りの人物だった。

加持リョウジ。ネルフとそしてゼーレを裏切った男。 

「・・・槍を使うとは、司令も思い切ったことをしますね。ゼーレは敵対宣言ととりますよ。これは」

「・・・・・・あれの使い道は知ってるの? あの人にとっては予定の行動よ」

「セカンドインパクトを起こした実験の前に死海から南極に運ばれ、そしてこの間この街に持ち込まれた・・・・・・つまりはサードインパクトのためのものですか」

自身の思考に加持が厳しい顔になる。

「じゃあ、司令はなぜあの槍を・・・・」

「それもおいおい教えて上げるわ。約束だものね。・・・でも、よく入って来れたわね。もう少し時間がかかるかと思ってたんだけど」

「ポジトロンライフルは大量の電源が必要ですからね、ここの警備システムをうまい具合に止めてくれました。・・・それで赤木博士、俺にいったい何をお望みですか?」

不敵に笑う。死地を乗り越えてきたのだろうが、それを感じさせる深刻さはそこに無かった。

応えるようにレヰも微笑む。

「別に・・・・ただ、手駒が欲しいだけよ。私が自由に動かせるものは少ないから」

「手駒?」

「いずれ来る約束の時を乗り越えるためのね。あなたは、私の騎士になるの」


そして一旦言葉をきり、悪戯っぽい口調で言った。


「ここにいないはずなのにここにいる、蜃気楼の騎士に」








〜つづく〜









かつ丸にメールを送る
katu@osaka.104.net



解説:


これで全体の半分が終了です。

ここまでで約3カ月ですか。先はまだ長いなあ。
まあ本番はこれからだしね。

最後のレヰのセリフ・・・・これを言わせるために加持を殺さなかったのかもしれません(^^;; 
もともとは原作準拠にするつもりだったけど、どっちが良かったかはまだわかりませんね。




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