なぜ、生きているのか。


なぜ、ここにいるのか。


なんのために。


誰のために。



答をだせないまま、それでも生きている。


明日など見えなくても。






SR −the destiny−

〔第15話 歌をあなたに〕

Written by かつ丸




セントラルドグマの奥。

そこには重犯罪者用の独房がある。懲罰用のそれとは違う、死刑の執行前もしくはそれに類する罪を犯した者を隔離するために特別に設けられた場所。

この国の司法機関から独立し、総司令の元、軍隊組織に近い形態を持つネルフでは、犯罪者は軍事法廷の形式で裁かれる。もしくは司令の絶対的な権限で。

そのために準備された施設ではあるが、実際に誰かが収容されるのは珍しかった。

そのドアの前に立ち、ゲンドウがゆっくりと開く。

暗闇に閉ざされていた部屋の中に光りが差し込み、向こうむきに俯いて座る一人の女性の姿を浮かび上がらせた。


赤木リツコ。

彼の愛人だった女性。


彼女と会うのはいつ以来だろう。司令室でレイの検査を命じてからまだ1日と立っていないはずだ。

その間に、いったい彼女に何があったというのか。

リツコ自ら開発したダミーシステム、その中枢である『レイ』の破壊。それはゲンドウの計画を根幹から覆すことになった。

ユイの魂を入れる入れ物は無くなった。彼女が帰ってくることはもうないのだ。

そして本当は分かっていた。だからこそリツコが『レイ』を壊したのだと。

レイの再生、それが引き金となったのだろう。


「なぜ、ダミーを破壊した?」


それでもそう訊いたのは、信じたくなかったからだろうか。嫉妬のあまりリツコがとった行動が、自分への愛ゆえのためだと。

リツコを利用しようとしかしていなかった自分が、彼女に愛されていたことを。


「壊したのはダミーじゃありません、『レイ』です」

「・・・・・もう一度訊く、なぜだ?」

「・・・あなたが隠していたことが全て分かったから。これが報いですわ、あの時、私を無理やりに蹂躪したことの・・・・私の心を奪い取ったことの・・・」

「・・・・・・・君には失望した」

「失望? はじめから期待などしていなかったくせに! 私には何も、何も、・・・・何も・・・」


泣き崩れたリツコを後に、ゲンドウはドアを閉めた。

リツコの言うとおり、これは報いなのだろう。

彼女を利用したことではなく、彼女を見ようとしなかったことへの。

全てと引き換えにしてもゲンドウを引き留めようとするほど激しい魂を彼女が持っていると、知ろうとしなかったことへの。

いや、自分は知っていたのかもしれない。だがそれを認めたくなかっただけだ

そんな資格など無い、そう思っていたから。


けれどなぜこうして彼女に会いにきたのだろう。話すことなど無いはずだったのに。問いつためからと言って『レイ』が元に戻るわけでもないのだ。


その理由も本当はゲンドウ自身分かっているのだろうか、意識の奥底では。


もう一度閉ざされたドアを見る。


彼女に会うことは、もう無いのかもしれない。







「行方不明? リツコが?」

「はい・・・・今朝副司令から言われたんです。当分私が技術部の総括をするようにって」

暗澹とした顔でマヤが言う。事情が分からずミサトは目を瞬かせた。

レイの自爆以来、久し振りに出てきたネルフ本部、ずっとミサトの家に来なかったマヤと最初に交わした会話がこれだ。

実験室。他の職員たちの姿はない。

「総括って、また急な話ね・・・・副司令は何も説明しなかったの」

「先輩は長期の出張が入ったって、そう言ってました」

「なんだ・・・・だったら、松代にでも行ったんじゃないの? 」

それがなぜ行方不明などと物騒な言葉になるのか理解できない。

「でも・・・・なんの引き継ぎも無しに出張するなんて・・・・それもこんな時期に。絶対おかしいですよ」

「・・・・別に不思議は無いでしょう。シンジくんは当分実験どころじゃないし・・・零号機はもう無いもの・・・・技術部で、特に何かすることがあるの?」

シンジの名前を出した瞬間、マヤの身体が震えたことにミサトは気づいていた。マヤがリツコの話題を出したのは、そこから話を逸らすためだったのかもしれない。そしてそれを醒めた目で見ていたミサト自身、レイの名前は出せなかった。

「・・・・・実験・・・・弐号機の起動実験があるんです」

「あんたの? でもあの時・・・・」

弐号機は動かなかったではないか、そういいかけてやめた。それは言ってはならないことだからだ。マヤのせいではないのだから。

「・・・私じゃありません。フィフスチルドレンの、です」

「フィフス? チルドレンが見つかったの? そんな報告うけてないけど・・・・タイミングが良すぎるわね。だいたいあの弐号機を動かせる保証があるの?」

「・・・・それは確実です。なんの問題もない事ははっきりしてます」

「・・まさかフィフスチルドレンって」

ようやく思い当たったミサトに、マヤが頷いた。少しだけその瞳に光が戻ったように見える。

「はい・・・・目覚めたんです、あの子が」







湖。

そこにはもう街は存在しなかった。

零号機が消えた場所、かつて第三新東京市と呼ばれた場所。

シンジが、そしてレイが守っていた、守ろうとしていたトコロ。


外出禁止はなし崩しに解禁されていたようだ。

ミサトのマンションから抜け出したシンジを見とがめる者はいなかった。

夢遊病のようにふらふらと歩く彼を、警備の者がいれば止めないわけがないだろう。

あてがあったわけではない。家にいたくなかったわけでもない。

ただ、確かめたかった。

あの後、いったいどうなったのか。

混乱の中のかすかな記憶では、かなり大規模な爆発だったように思える。そして市街地にも近かった。

自爆によってエヴァと使徒双方のエネルギーが解放されたのだ。その結果は想像もつかなかった。


正直、興味は無い。他人などどうなっていようが知ったことではない。

けれども、見ておく事が義務のように思った。

そこはレイの眠るところなのだから。


そして、シンジは一人この場所に来ていた。



・・・・・ここにいるのかい?



はるか先まで続く水面に向かい問いかける。

いらえはなく、廃墟と化した兵装ビルが千年前からそうだったように静かに建ち並ぶ姿だけがシンジに答える。

初めて彼女に会った時のように、幻でもいいからその姿をみせてはくれないのだろうか。

自分一人をここに残し、遠く去ってしまった蒼い髪の少女は。



・・・・・・どうして? どうしてなんだよ、綾波!?



見えないレイの幻影に心の中で叫ぶ。


どうして待ってくれなかったのか。

どうして信じてくれなかったのか。

どうして・・・・・・・死を選んだりしたのか。


くちびるを噛みしめながら、零号機が作った湖をシンジは見つめていた。

たとえ彼の目に求める少女が写ったとしても、彼女はシンジに答えてくれるだろうか。

その紅い瞳を寂しそうに揺らめかせて、見つめ返すだけかもしれない。微笑む事も無く。


シンジには分かっていた。

レイは全てを承知の上でああすることを選んだのだと。

別れを告げた時のレイの顔は、昔シンジが見た誰かと同じだった。

自分が幼かった日、初めて連れられたジオフロントの底で、エヴァの中に消える寸前に見せた母の笑顔と。


置いて行かれたのだ。


あの日と同じように。


それでも彼女はシンジに生きろと言うのか、エヴァの中でユイがそう言ったように。


レイのいない世界になど、なんの意味もないというのに。

彼女のそばにいる、ただそれだけのために、あの時シンジはこの場所に帰ってきたのだから。



・・・・ぼくはこれからどうすれば、どうすればいいんだ。


答のでない問いかけが、頭の中で廻る。まるで時間が止まったように、シンジは虚ろな目で湖を見つめ続けていた。





「・・・・・・♪・・・♪・・・・」


どれくらい時が過ぎたのだろう。


「・・・♪・・・・♪・・・♪・・・」


湖の脇でうずくまるシンジの耳にしみわたらせるように、それは聞こえてきた。


「・・♪・・・♪・・♪・・・♪・・・」


意識がそちらに向くと共に音の形は明確になっていく。

馴染みのある旋律のハミング。

第九。歓喜の歌。

今のシンジの気分からは一番遠いところにある歌。だからどうだというわけでは無い。別にどうでもいいことだ。


「♪・・♪・・・♪・・・♪・・・♪」


何度もくり返されるフレーズ。

いつまでも止まないその歌に、まるで惹かれるように、シンジは俯いていた顔を上げた。

廃墟と化した街の残骸。湖から突き出ている半壊した天使の彫像。


そこに彼はいた。シンジと同じ制服を着た、銀色の髪の少年。


「・・・・・歌はいいねえ。リリンの生んだ文化の極みだよ。そう思わないかい、碇シンジくん?」


そう言って少年がこちらを向く。

その顔を見て半ば呆然としたシンジに、謎めいた表情で微笑む。


彼の瞳は、この湖に消えた少女と同じ、紅い色をしていた。


「ああ、ごめん、驚かせたかな。僕はカヲル、渚カヲル、君と同じ仕組まれた子供、フィフスチルドレンさ」


フィフスチルドレン、では彼がレイの代わりという事だろうか、いや、零号機はもう存在しない、その必要はないだろう。

シンジの代わり?

その可能性もあるかもしれない。今のシンジに戦う理由などないのだから。

でもあの瞳の色は・・・


魅入られたようにカヲルの瞳を見ているシンジのことなどまるで気にならないかのように、彼は身を翻し彫像から飛び下りた。

そして微笑みながらシンジに近づく。目を逸らす事もせずに。

間近で見るその瞳にはそして彼の持つ雰囲気には、シンジがよく知る少女と同じ匂いがした。

フィフスチルドレン・・・渚カヲル。

かかわらないほうがいい、かかわっちゃいけない。シンジの心が警鐘を鳴らす。

彼は、あまりに似すぎている。


レイに。


「僕はこれから弐号機の起動試験なんだ。君とはまたゆっくり話したいな。・・・ここのことも色々と教えて欲しいし、ね」

屈託無く微笑みながら話す彼に、シンジはただ頷くだけだった。

「じゃあ、またね、シンジくん」

そう言って片手を軽くあげカヲルが去っていく。その後ろ姿を、シンジはいつまでも見つめていた。







「すみません、俺がついていながら」

加持が頭を下げる。しかし目の前の少女は気にした様子は無かった。

「ああ、いいのよ・・・予想していなかったわけじゃないから。当事者でないほうが周りは見えるわね」

「そ、そうなんですか?」

「ええ、きっと冬月先生も覚悟はしてたはずよ。彼らの計画をリツコが邪魔する事は」

レヰが妖しく微笑む。つまりはゲンドウだけが気づいていなかったのか、加持の胸中は複雑だった。 

それはゲンドウが冷静さを欠いていたことを示すのだから、それはユイゆえか、それともリツコへの想いからだろうか。

「じゃあ、これからどうなるんですか。もうユイさんが帰ってくるための肉体は無くなったわけですし」

「決まってるわ。帰って来ないなら・・・・・こちらから行こうとするでしょうね。ユイさんのところに」

「ユイさんのところ? それは・・・・」

初号機の中にあるという碇ユイの魂。そこに行くというのか、しかしどうやって。

「人類補完計画・・・・それが発動されれば可能よ」

「不完全な人類の補完が、ですか? それに計画にはあの槍が必要だと・・・」

「リリスを使うにはね。他にも方法が無いわけじゃないから・・・」

加持が苦笑する。物事を小出しにして加持を混乱させるのは、彼女の趣味なのだろう。いちいち聞いて無いなどと腹を立てていてもきりがない。

「他に方法があるなら槍を処分しても一緒じゃないですか」

「ちゃんとあの人は切り札としてずっと持ってたもの、補完をなす鍵となるものは全部。そう、そのためのアダム、そしてそのための・・・・レイよ」

「じゃあ、レイちゃんをシンジくんに近づけたのは・・・・」

「もともとは彼女を抑え、補完計画から遠ざけるため。あの子はリリス本体だとも言えるから」

レイが復活している事は加持も知っている。この場所からそう遠くない部屋に保護されている事も。もっとも会いに行く気はないが。

「地下の巨人・・・俺はアダムだとばかり思ってましたよ、あれを」

「あれがリリス。全ての存在の母よ。・・・・そして、その魂はレイの中にある」

「・・・・また、シンジくんもとんでもない娘を相手にしたもんですね」

「そうね・・・・・でも、こうなったらレイの自爆はあの人にとって好都合だったのかもしれない。労せずしてレイを手元に連れ戻せたんですもの」

確かにそうでなければシンジやミサトが黙っていなかったろう。リツコはそんなことは考えていなかっただろうが。まるで引き寄せられるように全ての事象が補完へと向かっているような気がして、加持は薄ら寒い思いがした。

「これも計画のうちですか? 碇司令の」

「はなはだ不本意でしょうけどね。でも全ては決まっていた事なのでしょう・・・15年前、いいえ、遥か昔、この世界が創られた時から」








「カヲルくん。具合はどう?」

『問題ありませんよ、マヤさん』

心配そうなマヤの問いかけに、落ち着いた声が答える。初めてのテストとは思えない。

「・・・・・それも当然ね」

高いシンクロ率を示すグラフを見つめながら、ミサトは小さな声で呟いた。

シンクロしないほうがおかしい、今まで弐号機を動かしていたのは彼なのだから。

モニターの中の少年に視線を移す。カプセルで眠っていた時とその笑顔は変わらない。ただ目を開けている以外は。

「でも、じゃあどうして・・・・」

カヲルの紅い瞳を見つめながら、心の中でミサトはひとりごちた。


どうして、あの時弐号機は動かなかったのだろうか?。







・・・いったい何をしてるんだろう、僕は。


ネルフ本部の中。エレベーターホール。しつらえられたベンチに座りながら、シンジは天井を見上げた。

別に呼ばれたわけでも無い。使徒も来ていないし、今のシンジを実験に使おうとは誰も思わないだろう。レイが消えてから数日しか経っていないのだから。


そう、まだ、数日しか経っていないのだ。


そしてここでは、何事もおきなかったように、人々がいつも通りに動いていた。

一つだけ違うのは、皆がシンジに気づくと形ばかりの会釈をした後、足早に去っていくこと。

よほど悲痛な表情をしているのだろうか。自分ではよくわからないが。


・・・・どうしてるのかな、父さんは。


レイのことは気にかけていたはずだ。かつては火傷も恐れずに彼女を助け出したこともあったほどなのだから。

少しは悲しんでくれているだろうか。

やくたいもないことを考えながら、シンジは突然思いだした。ゲンドウが何かの必要にかられてレイを造りだしたということを。そしておそらく今だその目的は達せられていないはずだ。

もう一度同じように彼女を造る、そんな事がありうるだろうか。


・・・・まさか。


いくら何でもありえない、それは生命に対する冒涜のような気がする。そしてそうやって生み出されたものは、もはやレイとはよべないだろう。

たとえ同じ容姿を持っていても。

そこでまた思考が何かに引っかかる。今まで忘れていた事に。

そう、レイと同じ容姿を持った者を、シンジは知っていた。

黄色い瞳と老成した雰囲気を持つセカンドチルドレン。レイが人ではないとシンジに告げた少女。


・・・・レヰさん、彼女は・・・いったい・・・。


レヰをきっかけとして、思考がまとまりかける。いくつかのキーワードが頭で繋がっていく。

しかしそれが明確な形になる前に、シンジにかけられた声が彼を現実に引き戻した。


「やあ、僕を待っていてくれたのかい?」


今、エレベーターから出てきたのだろう、カヲルが微笑んで立っている。もう実験は終わったのだろうか。

そして彼の後ろではマヤが立っていた。彼女と会うのは久し振りだ。ここで会うとは思っていなかったのだろう、シンジから顔を背けている。


「マヤさん、ここの案内は、やっぱりシンジくんに頼みますよ」

「・・・・で、でも」

「今朝方、約束してましたから。大丈夫、ちゃんと後で顔を出しますから」

「そう・・・じゃあ、またね」


少し残念そうにマヤは答え、小さくシンジに頭を下げるとその場を去っていった。最後まで目は合わせていない。


「それじゃ、行こうか、シンジくん」


マヤの事など気にしないように微笑みを崩さないカヲルに、シンジは頷いた。確かに待っていたのかもしれない。決して意識はしていなかったが、ここに座っていた理由は他に無かった。

その証拠にシンジはずっと目が離せなかった。カヲルの紅い瞳から。







「悪いね、つきあわせちゃって」

浴槽に肩まで浸かりながら、カヲルがシンジに言う。傍らで同じように湯船に入っていたシンジの顔は、少しだけ上気していた。

カヲルは実験の後でLCLを流したいのだろう。勧められるままに一緒に入りはしたが、このところ入浴どころではなかったので、ちょうど良かったかもしれない。

銭湯並みの広い浴室、泊まり込みの職員が多いネルフでは必須の施設なのかもしれないが、今は二人の他に人影は無かった。

「・・・・それで? 僕に用事があったんだろう?」

しばしの沈黙の後、カヲルがシンジに訊ねた。その言葉に何も答えず、シンジはカヲルを見ている。

用事があった? それはどうだろう。ただ知りたかった、彼が誰なのか。

「君は僕を見ていないね。僕に似ている誰かを見ている。大事な人だったのかい? その人は・・・」

独り言のように、カヲルが言葉を続ける。やはり彼には分かるのだろう。シンジ少し目を伏せた。

「・・・・綾波レイ・・・ファーストチルドレン・・・彼女も、純粋な魂を持っていたね。そう、君と同じように」

驚いてシンジはカヲルを見た。知っているのか、彼女のことを。

「一度だけ、会った事があるよ。とても熱いところでね。彼女は僕のことは知らないだろうけど・・・」

微笑みを絶やさぬまま、カヲルが追想するように天井を見上げる。言っている内容がよく理解できないながらも、シンジは彼の話を聞いていた。

「でも僕は彼女を知っている。彼女が怯えていたことも、望んでいたことも、そして・・・・シンジくん、君をとても大事に思っていたことも」

再びシンジに視線を戻し、カヲルは言った。

「彼女は君を愛していたよ。初めて心を通わせたヒトである君をね。・・・・僕にはよく分かる。僕と彼女はとても似ているから」

シンジを見るカヲルの紅い瞳は透き通っていて、そしてどこか哀しそうな光をたたえていた。レイと同じ、つまりは彼も、人ではないということだろうか。造られた存在だと。

「羨ましいとは思わないけどね、僕にはマヤさんがいるから。そしてそのために、僕たちはリリンと同じこの形にいきついた、そう思っているから」

先程のマヤの態度はそういうことか。レイを失った後現れたこの少年を、彼女は求めたのだろうか。しかしシンジはそれを責める気にはなれなかった。

マヤとカヲルが幸せになれるなら、それはとてもいいことなのだろう。


・・・・・でも、僕は綾波を・・・。


「彼女は消えたりしないさ。君が彼女を愛している限り、決して消える事は無い。僕たちはそういう存在なんだ」

まるでシンジの心を読んだように静かに話すカヲルを、シンジが見つめ返す。

「君の心の中から彼女が消えない限り、いつかまた逢う事はできるさ。たとえどんな形でもね・・・」


また逢える。レイに。

銀髪の少年の紅い瞳はその言葉が嘘ではない事をシンジに教えていた。

それは信じる価値があるのかもしれない。

微笑みかけるカヲルにシンジが頷く。

まだ微笑みを返すことはできない、だけど、いつかまたレイに逢える日がくるなら、まだ、自分は生きていく事ができるだろう、その思いと共に。


「・・・そう、どんな形になるかはわからないけれど」


シンジの頬に流れる涙を見ながら、カヲルは呟いた。シンジにけっして聞こえないくらい、小さな声で。

彼の笑顔は、どこか憂いを含んでいた。








〜つづく〜









かつ丸にメールを送る
katu@osaka.104.net



解説:


タグ打ちしてから気づいたけど、今回レイが出てきてないな(^^;
次回ははたしてでてくるんだろうか(^^;;<おい


原作でカヲルが住んでたのは独身用の部屋なんだろうけど、お風呂はどうなってるんだろう。
いきなり電源落されたあそこじゃあ深夜勤務なんてできないし。
シャワーとかあるとも思えんしなあ。

などと疑問に感じながら書きました。たぶん考えてないでしょうね



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