血の感触、

それは罪の証。


この街にいる限り、

いや、生きている限り、

それが消えることはないのだろう。


たとえ愛した人の思い出が、

かきいだいたそのぬくもりが、

消えることはあっても。





SR −the destiny−

〔第17話 PAIN〕

Written by かつ丸





夢を見ていた。


銀髪の少年の夢。

透きとおるような笑顔は、確かに彼女のためだけに向けられていた。

その白い肌も、華奢な身体も、そして怯える彼女を宥めるように抱いてくれた細い腕すらも、そこにあったはずなのに。

今はもうどこにもない。

哀しい夢。


もう見ることなど無いのだろう。彼は消えてしまったのだから。

使徒である彼は、彼女の敵だったのだから。

だからもう会えないのだ。ここにいても、どこにいても。

一人ベッドに寝そべり、天井を見つめる。
その色だけは何も変わらないように、マヤには思えた。







精気の無い顔、虚ろな瞳。知らない人が見たら病人だと思ったかもしれない。

だが、誰も今のシンジに声をかける人はいなかった。コンフォート17マンション。そこにいるのは今彼一人だけ。

通路に佇む。ミサトの家の隣、一つのドアの前、そしてシンジの手の中には鍵が握られていた。

『コレ、置いておくわ。マヤは当分帰って来ないだろうから・・・・』

そう言って今朝ミサトが仕事に向かう前に残していったものだ。マヤの家の鍵。

ゆっくりと鍵穴に差し込みまわす。解かれる音がする。

静かにドアを開いた。人の気配はない。そのまま中へと歩を進めた。

レイが消えてから、シンジがこの家に入るのは初めてだった。

マヤもほとんど帰っていないからだろうか、以前と何も変わっていないような気がする。

ミサトの家とおなじつくり、しかし調度は全く違う。落ち着いた、けれどどこか少女趣味を感じさせるマヤらしいリビング。

そこにいつも座っていたのだ、レイは。

部屋の明りもともさずに、シンジは奥へと進んだ。まだ昼間だ、カーテンからもれる陽の光で、不自由というほどではない。

扉を開く。

当然誰もいない。いるわけがない。

それはわかっていたはずだった。


引き寄せられるように部屋に入る。

なんの飾りつけも無い平机、脇には学生鞄、その中には教科書が入っているのだろう。

机のとなりには小さなタンス、上にはビーカーとそしてゲンドウの眼鏡が置かれている。その部分だけは、かつてのレイの家で見た風景と変わらないように見えた。

どんな思いで彼女はこれを見つめていたのだろうか。


そして気づく。自分はなにも、この部屋に残してはいないことに。

シンジ自身何も持っていないのだ、レイの形見と呼べるものは。
彼が持っているのはただ思い出だけしかなかった。

まともに二人ででかけたことはおろか、写真をとったことすらない。

戦いと訓練、そして実験の狭間で、肩を寄せ合うようにしてささえあって過ごしてきた。それでも不満などなかったのに。

こんなことなら、もっとしたいこと、してあげられることはあったのかもしれない。しかしそれが何なのかは今のシンジにはもうわからなかった。


ベッドに座る。そのまま俯いて目をつぶった。



『なぜ殺したの?』


声が聞こえる、冷たく響く。空耳だろう、ここにはシンジ以外誰もいないのだから。けれどもその声は確かにシンジの心に刺さった。


『なぜ殺したの?』


・・・・・しかたなかったんだ、カヲルくんは使徒だったんだ・・・


『だから殺したの?』


・・・・・そうさ、じゃないと僕らがやられちゃう。しかたなかったんだ・・


嘘だった。

あの瞬間、そんなことなど考えてはいなかった。ただ、どすぐろい感情しかなかった。

ずっと溜まっていたこと、レイを失った怒りを、悲しみを、やるせなさを、はらそうとしただけだ。カヲルを殺すことで。

レイを見捨てた、そのカヲルの言葉がたとえ真実だったとしても、いや、そうであればなおさら、彼を殺したのはシンジの私怨ゆえにすぎない。

人殺し、もしマヤからそうなじられたならば、シンジは返す言葉を持たなかったろう。


目を開け、頭をあげる。やはり誰もいない。

見慣れた部屋、何度もレイと夜を過ごした場所。しかしこうして一人でここにいるのは初めてだったろう。

しばし逡巡した後、シンジは立ち上がりレイの机に向かうとその引き出しを開けた。

何か残っているかもしれない。日記などはつけていそうにないが、レイを感じられる何かがあればと。

教科書やノート、文房具、あとはプリント類。たいしたものは何も入っていない。アクセサリーのたぐいも持っていなかったろうし、腕時計はきっとネルフのロッカーの中だろう。

一つ一つ引き出しを開いていく、何を探しているのか自分でも分かってはいない。そうすることで何かから逃げようとしているだけかもしれない。


机の次はタンス、そしてクローゼット。部屋中を巻き散らかすシンジの手に、一つの紙袋が触れた。

見覚えがある。何ヶ月か前、確かにシンジはこれを手にしていた。

逆さにすると、小さな音と共に床に落ちたのは2冊の本。


・・・・まだ持ってたんだ。


かつてケンスケから購入し、レイに取り上げられた写真集。どれだけ頼んでも返してはくれなかったが、いつしかシンジもその存在を忘れていたもの。このうち1冊はほとんど見せても貰えなかった。

手に取る。中を見る。


そして、






窓から陽が洩れる、薄暗い部屋。

白濁した液体が汚した右手のひらを見つめながら、シンジは絶望していた。

その瞬間、レイのことも、カヲルのことも忘れ、ただ己の欲望を処理することしか考えていなかった自分自身に。








深夜、ネルフ本部発令所。

作戦行動中ではないため、明りは落されている。それでもいくつか生きているモニターはあった。

見る人のいない画面に映し出されているのは一組の数字。

刻々と減っていくそれは、何かの到来を示しているようだ。

15時間と49分後、その数字がゼロをさす時、それを待つようにネルフ全体が静まり返っている。

眠っているわけではない。

息をひそめるようにして、皆、その数字を見つめていた。

発令所のイス達も。物言わぬはずのマギも、ケイジに繋がれたエヴァも、みんな。







「約束の時が来た。ロンギヌスの槍を失った今、リリスによる補完は出来ぬ。唯一、リリスの分身たるエヴァ初号機による遂行を願うぞ」

モノリスの一つが話す。この声はキール・ローレンツだろう。

己と傍らの冬月を取り巻くように空中に浮かぶ黒い板たちを見つめながら、ゲンドウはその存在に思いを馳せていた。

ゼーレの総帥、そして全ての黒幕。南極で行なわれたあの悪魔の実験、それは全てゲンドウとキールとで画策したことだ。

いや、それも正確ではない。画策するまでもなく、全ては定められていた。南極の奥極地の地下にある白い月、その中に眠っていたアダム、それらが発見されたのはゼーレによってではないのだから。
ゼーレが守ってきた裏死海文書に書かれた記述の通りの時にそれは表の世界に姿を現した。箱根地下のジオフロント、黒い月と同じく。

「ゼーレのシナリオとは違いますが?」

ユイの眠るあの機体には手をださない、それがゼーレの方針だったはずだ。アダムの分身である他のエヴァシリーズと違い、リリスの分身である初号機にはリリスと同じ能力を持つ可能性があった。すなわち新たなる生命の卵となる可能性が。

いつか地球も太陽も失われても、どこか別の星で人類を繋ぐことができるかもしれない。それゆえに、ユイは初号機のコアとなることを選んだのだ。

そしてゲンドウはユイを取り戻そうとしてきた。
たとえ人を滅ぼすことになっても、ユイの想いを裏切ってでも、補完そのものを止めようとした。補完がなされればゲンドウがこの世界から消えてしまうからだ。
そのためにリリスの魂を封印し、ロンギヌスの槍を廃棄した。だがそのためにリリスによる補完はかなわなくなり、初号機が補完の依代と使われることになる。皮肉なものだ。

リリスによる補完が行なわれれば、幻でもユイに会うことはできただろう。しかし初号機が依代になれば中の魂も無事ではすまない。

ゲンドウは阻止するしかなかった。残された最後の方法で。

己の身体にアダムを取り込み、そしてその力でゲンドウ自身がリリスと融合する。そうすれば彼は神になる。ゲンドウの望むままの世界を造りだすことが出来る。

そこでならユイと再び暮らせるだろう、失われたあの日々のように。

たとえ、ユイも、シンジも、他の誰もが望まない世界だとしても。


「神も人も全ての生命が死をもってやがて一つになる」

「死は何も生みませんよ」

「・・・・死は君たちに与えよう」


その言葉と共に、全てのモノリスは消えた。


「・・・最後通告だな。どうする?」

問いかける冬月に、ゲンドウは無言のまま答えずにいた。

取るべき道は一つしかない。

しかし自分は本当にそれを望んでいるのだろうか?





白いシーツにくるまった蒼い髪の少女。何かに呼ばれたように、つむられていたそのまぶたが開いた。

深夜、地上では月が光っている時刻、しかし地中奥深くのこの地までは届くことは無い。

モノトーンに包まれた部屋。

小さなベッド。

彼女はその上に寝ていた。

ゆっくりと身を起こし、天井を見上げる。

その瞳は見えないはずの何かを写しているように焦点があっていない。

そして彼女の顔は、何の感情も持っていないかのように、冷たく凍っていた。

音もなく、明りも無い。

訪れる人ももういない、打ち捨てられたところ。

約束の時を待つ、その他になんの意味もない、それだけのための場所。

それは少女の心の中、そのものだったのかもしれない。






「アダムより生まれしもの・・・か」

第2ケイジに繋がれたエヴァ弐号機、金色に輝く機体は初号機によって傷つけられた姿そのままにそこに戻されていた。

修理の予定はたたないようだ、指揮するものがいない現状ではやむを得ないだろう。それに破損個所そのものはたいしたものではない。本来なら起動可能な範囲の筈だ、かつて左手無しで稼働した零号機よりよほど軽微だろう。

だが、現時点でこの機体を動かすすべはない。起動させていた銀髪の少年はこの世から消えてしまっていたから。

バスターランチャーを操り最強と呼ばれていた機体を見上げながら、ミサトは独り佇んでいた。

「セカンドインパクトを起こしたアダム、そしてサードインパクトを起こそうとしていた使徒達、たとえ生き延びるためとはいえ、そんなものを利用する・・・・いえ、生き延びるためですらないわね」

加持からもらった情報でネルフがしていたことの概要は知っていた。これからしようとしていることも。

カヲルを殺しいっそう殻に閉じこもるようになったシンジとともに過ごすことが気詰まりだったのかもしれない。ミサトは部屋で電話を待つことはやめ、ネルフ本部内の調査を開始していた。

ここ数日、つまりモニターにうつるカウントダウンが始まって以降、確実にガードは緩くなっている、だからかなりの情報を得ることができた。もはやミサトに何を知られてもいいということだろう。

あのカウントダウンが示してるのは補完の始まりなのだから。すでにあと数時間後にそれは迫っていた。

それでも、まだ時間はある。知らねばならないことも。

決意するようにくちびるを噛みしめるとミサトは踵を返した。目指すは施設の最深部、真実への鍵の一つとして、残したマイクロフィルムで加持が示していた場所。

補完計画の全容を知り、そして必要なら力ずくでもゲンドウ達を阻止する。他に残された道はミサトには無かった。






朦朧とした意識のまま、気がつけばシンジはネルフ本部に来ていた。

今朝方ミサトから来るようには言われていた、それを無意識に実行したということだろうか。あてもないままプラグスーツに着替えることもせず、ふらふらと本部内を歩く。

ケイジには近づく気がしない。ミサトのところに行かなければいけないのかもしれないが、それも気がすすまなかった。

ならばどこに行こうというのか。

答など無い。

必要ならそのうち呼び出しがかかるだろう。ただじっとしていたくなかった。ここにくるのはあの時・・・・カヲルを殺したあの時以来だったから。


顔をあげる、視線を感じたような気がした。

長い廊下、その遥か向こうでこちらを見つめる女性がいる。
シンジは彼女をよく知っていた。だが、彼女がシンジを見る目は今までにない光を帯びていた。

それを形容するのは「憎悪」という言葉しかないだろう。

そう、ショートカットにした黒い髪の女性、伊吹マヤが、静かな、しかし憎しみに満ちた瞳でシンジの方を見ていた。

彼女は知っているのだ。

シンジがカヲルを殺したことを。誰のためでも無い、報復を理由に殺したことを。

思わず後退る。マヤがこちらに近づいてくる、表情を変えずに。

弾劾しようというのか、シンジが犯した罪を。彼女にはその資格があるのだから。

ゆっくりと向かってくるマヤに背を向け、シンジはその場を逃げ出すことしか出来なかった。







「あちゃ〜、まいったわねえ」

どうやら道に迷ったようだ。明りのほとんど灯らない暗い通路に立ちどまり、ミサトはため息をついた。

施設最深部、かつて白い巨人を見た場所ともすこし離れているようだ。もちろんここに来るのは初めてだった。リツコがいれば案内させることもできたかもしれない、彼女が簡単に承知するとも思えないが。

止まっていても始まらない、そう思い前へと進む。あと数時間で補完計画は開始される、のんびりしている余裕など無い。


「・・・・・ここは?」

しばらく通路を歩いた後、ミサトは突然広い空間に出た。暗さのために様子はほとんどわからない。

目をこらし周囲を見渡す。柱のようなものが立っているのがなんとなくわかる。

ゆっくりと近づく。機械類と繋がれたパイプのようだ。

いったいなんだろう、そう思い首を傾げたミサトに応えるように、突然光が溢れた。

部屋の明かりがつけられたのだ。

くらんだ目の回復を待たず、懐から拳銃を取り出しミサトが入り口の方を振り向く。

ようやく焦点のあった彼女の眼にうつったのは、一人の少女の姿だった。

「・・・・・まさか・・・」

蒼い髪、白い肌。壱中の制服を着たその少女は、目をつぶり無表情にこちらを向いている。

息を飲み声を失ったミサトが目をつぶっていても見えるかのようにかすかに微笑むと、そのまぶたを開いた。

「久し振りね・・・」

「・・・・・レヰ?!」

自爆した少女ではなかった。失踪していたはずのセカンドチルドレン、その黄色い瞳はまぎれもなく彼女だ。身にまとっている雰囲気はレイのそれとはあきらかに違う。

「どうして、あんたがここに?」

「迎えに来てあげたのよ、私の所に来るつもりみたいだから。加持くんから聞いてたんでしょ、あなた?」
 
微笑んだままレヰが答える。加持が示した場所とは彼女の居場所のことだったのか、ネルフ本部の中でまた会うことになるとは思わなかった。いや、そもそもその存在すら失念していたのだ。

だが使徒だったカヲルとレイが似た雰囲気を持っていたこと、そしてそのレイとほとんど同じ容貌を持つレヰ。確かに真実の糸口はここにあるのかもしれない。

しかしなぜ加持が彼女の存在を知っているのか。ここにいるということはゲンドウやリツコも知っていたのだろうか。 

「・・・・レヰ、あんたは、いったい」

「教えてあげるわ、あなたにも、真実の切れ端をね。周りをみなさい」

レヰの言葉に初めて部屋の異常に気づき、ミサトは周囲を見渡した。取り巻くように設置された水槽、赤味がかったオレンジ色の水。そしてその中で浮かんでいるのは、あれは肉片だろうか。

「これは?」

「良く見なさい」

目を凝らす。ただの肉片、しかしそれの原型がおぼろげに分かってきた。あれは人、そうたくさんの人だったもの、それが崩れているのだ。そしてミサトには分かった、その元の形が誰だったのかを。

「レイ? まさか、そんな・・・」

「入っていたのはレイや私と同じモノたち。やったのはリツコよ・・・・あの子が独房に入れられたのはこれが原因」

「じゃあ、これがダミーシステム・・・」

中央のカプセルからは何本ものパイプが伸びている、これがそうだというのか。ならばマヤも知っていたのだろうか、ダミーシステムの意味を。『レイ』が使われていたということを。

「ええ、肉片になった彼女たちは魂を持たないただの人形、私やレイとは違うわ。その身体はみんな、エヴァと同じモノでできてはいてもね」

「エヴァと? じゃあ、レイは、いいえ、あなたはいったい何なの?!」

最初に会ってから5年。レヰという少女に得体の知れなさは感じていた。だが彼女が人間でない可能性など考えたことは無い。もちろんレイも。

「私は人間よ、少なくとも魂はかつて人間だった。そういう意味では初号機と私は同じなのかもね。初号機にも人間の魂がやどっているのだから・・・・」

「それじゃあレイは・・・・」

「あの子はカヲルと同じ・・・・それも正確な答ではないけれど。少なくともレイの魂は人のそれではないわ」

「うそよ! そんなはずないわ!」

そう言われてにわかに信じることなどできはしない。ここ数カ月、同居に近い形で生活してきたのだ。ミサトの胸に顔を埋め泣いていたあの少女が人でなかったなどとなぜ思えるだろう。

「・・・・本当よ、シンジくんも知ってたわ」

「シンジくんが?」

「ええ、教えたのは私だけど。あの子は疑わなかったわよ」

「いつよ、それ?」

ミサトの目つきが険しくなる。

「だいぶ前よ。あなたたちが浅間山に行ったことがあったでしょう? その時から」

「・・・そんな」

第八使徒戦の後だ。それほど昔からシンジがその事実を知っていた、そのことがミサトにはショックだった。

「話さないほうがいいと思ったんでしょうね。特にあなたは使徒を憎んでいる、それがシンジくんにもわかったんでしょう」

「じゃあ、レイは使徒だったっていうの? 父さんの仇の片割れなの?」

「ならどうするの? 殺した方が良かった? カヲルをそうしたように」

レヰの瞳に嘲りの色が帯びる。一瞬絶句したミサトを責めるように、黄色い瞳の少女は言葉を続けた。

「葛城博士が死んだのは別に使徒のせいじゃないわ。仕組んだのがだれか、あなたはもう知ってるでしょう? それに使徒だからってあなたにレイが殺せた? もしシンジくんが使徒だったら、あなたは彼を殺すの?」

「シンジくんが? そんなわけないじゃない」

「どうして? カヲルは使徒だった。参号機が使徒に取り込まれたのもチルドレンが乗っているときでしょう。レイも人ではないのだから、どうして残ったシンジくんも普通の人間だと言い切れるの?」

「そんな、そんなこと・・・」

レヰの言う意味に気づきミサトは愕然とした。エヴァの操縦が出来ること、それはそれだけで普通の人間と同じではないことを意味しているのだ、確かに。
シンジのクラス全員が使徒などということはあり得ない。だが、実際にエヴァを動かした4人の子供たちのうち3人に使徒の刻印が刻まれるなら、シンジもそうだという可能性は否定できないだろう。

「どうするの? シンジくんを殺す? あなたの持つ銃であの子を撃つことができるの?」

「・・・・・そんなこと・・・・・できるわけないじゃないの!」

そう、できるわけがない。ミサトは涙を流しながら答えていた。シンジはただ一人の家族なのだ。たとえそれが偽りのものであっても。たとえ彼が使徒でも。


「・・・そうね、それが人間よ。人は世界の滅びよりも自分の愛するものを選ぶわ。それがこのか弱い生命体が持つ希望そのものかもしれない・・・」

「レヰ・・・・」

「心配しないでいいわ、シンジくんは人間よ。けれど世界の運命はあの少年に委ねられようとしている。老人たちはあの子を殺そうとするでしょう、初号機のコントロールを奪うために。そしてあの人は自分の息子を見捨てる」

「司令が?」

「ええ、これから戦いが始まれば、そこまでの余裕は無いでしょうから」

涙を拭いミサトはレヰを見た。

「私に、何をしろと・・・」

「別に・・・・それはあなたが決めることだわ。もうすぐ始まる補完計画をどうするのか、あなたのお父さんがトリガーを弾いたことを止めるのも、最後まで見届けるのも、どちらもあなたの自由よ、ミサトちゃん。私は邪魔しないわ」

「レヰ。あなたは、いったい・・・」

「かつてこの研究施設で同じ夢を追っていた4人のうちの一人よ。あの時やっていたこと、そのケリをつけるためにここにいる。元の肉体は5年前に消えたけど魂は新しい入れ物を得たわ、それが私」

「まさか・・・そんな・・」

「目の前の真実を見据えなさい。・・・・これは昔私がよくリツコに言った言葉ね」

「・・・ナオコさん?・・・・生きていたの」

驚愕で目を見開かせたまま、ミサトが呟く。

その言葉を待っていたように、非常警報が響いた。










〜つづく〜









かつ丸にメールを送る
katu@osaka.104.net



解説:

第3部再開です。
はじめた限りは終わらせないとね、てなわけで「Air」編。

今回の題名は初期の予定とは変えました。こっちの方がいいかなと。
あと、自分的に引っかかってるのはシンジの一人エッチ・・・・いや、何も言うまい(^^;。






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