打ち捨てられることも、


恨まれることも、


非難されることも、


さげすまれることも、


全て自分がしたことの報いだ。



だが、それに向き合う勇気すらも、もう持てなかった。





SR −the destiny−

〔第18話 世情〕

Written by かつ丸





警報が鳴り響く。

静まりかえっていた発令所が喧騒につつまれる。

補完へのカウントダウンをしていたモニターが切り替わり、そこにはネルフを取り巻くネットワークの状況が映し出されていた。

外部回線を通じたネット機能の破壊、そしてマギへの侵入。

つい先程日本政府によって発されたA−801、ネルフの法的保護の破棄、それに伴う措置だろう。

松代にあるマギ2を始め各支部にある計5台のマギタイプたちが本部へのハッキングを行なっていた。普通なら抗し得ないだろう、マギの占拠は全ての機能の死を意味する。

「ゼーレは総力をあげているな。どうする? リツコくんを呼び出すか?」

「・・・・・必要ない、既にアレが手をうっているはずだ」

いくぶん焦り気味の冬月の問いかけに、ゲンドウは冷静な声で答えた。そう、レヰがいる以上リツコは必要ない。

ならば獣を野に放すような真似はするべきではなかろう。ゲンドウを阻止することを彼女が目指すなら次に狙うのはレイだろう。もしくはゲンドウ自身か。

ゲンドウがユイともう一度会おうとする限り、彼女とは相いれないのかもしれない。

現在なすすべ無く攻め込まれているように見えるマギの状況を見つめながら、いつものポーズで腕を組みゲンドウは考えていた。

もしリツコを選ぶことができたのなら、なにも悩むことなど無かったのだろう。ゼーレのシナリオ通りにことを運び、彼らと反目する必要も無かった。

ことここに至ったのは全て自分の妄執の故だ。ユイを思い切れない心がある限り、もうリツコに会うべきではない。

つらくなるだけだから。

それこそがきっとゲンドウの本音だったのかもしれない。








鳴り響く警報がまるで聞こえないように、加持は静かに一つのドアの前に佇んでいた。

カードを使いキーを開く。厳重に警備されているはずだがあたりに人の姿は見えなかった。第2種警戒態勢がでている今、その余裕は無いのだろう。もともとガードの担当者にも中にいる人物が危険だという認識が少ないのかもしれない。

ゲンドウや冬月は違うだろうが。

音も立てず静かにドアを開ける。明かりのともっていない部屋の中には、一人の女性が向こうむきで座っていた。

「・・・迎えにきたよ。りっちゃん」

きっと自分が来るとは予想していなかったに違いない。

声をかけた彼女の背中が、ほんのかすかに震えるのが加持には分かった。 








発令所へ続く道を、ミサトが大股で歩いていく。使徒の侵攻ではないとはいえ彼女はネルフのナンバー3だ、外部からの攻撃を知らないとは言えない。レヰに対し訊きたいことはそれこそ山ほどあったが、今は思い切るしかなかった。

赤木ナオコが新たな身体を得て生き続けていたこと、レイが作られた存在、人間とは呼べない存在であり、シンジやマヤもそれを承知していたらしいこと。

自分だけが何も知らなかったのだろうか。

いつかのマヤの叫びが頭に浮かぶ。作戦部長など名前だけの存在だと、確かにそうなのかもしれない。

携帯無線で日向から情報を貰う。マギに対する攻撃というがリツコもおらずマヤも使い物にはならない今、対処に困っているようだ。だがレヰがいる以上、心配する必要はないのだろう。だからゲンドウはリツコを切り捨てたのだろうか。

リフトに乗り込み、そのまま発令所へと昇る。青葉や日向、オペレーター達がこちらを見る。どこか怯えたような目つき。彼らもなにも知らされないまま、こうして利用されているのだ。

後ろに座っているであろう碇ゲンドウ、彼からすればミサトたちなどただの駒でしかないのだ。だがミサト自身、いまはまだ彼に従うしかない。彼女が持っている力はたとえ名前だけでもこの組織の作戦部長という役職に付随しているものだ。

その資格が剥奪されれば抵抗する手段はほとんど無くなる。懐にしまった一丁の銃を除いては。

ゲンドウも冬月も軍人ではない。彼らをガードする者のいないこの発令所では、ミサトの腕ならば簡単に射殺できるだろう。いますぐにでもできる。

だがそれでどうなるものでもない。人類補完計画の真の目的はサードインパクトの遂行だ。今マギを奪い取ろうしている組織がそれを行なおうとしている以上、組織自体をを潰さねば止めることはできないのだ。

これからその組織とゲンドウが潰し合いをするというなら、そこに付け込む隙があるのかもしれない。たとえ蟷螂の斧しか持たない無力なミサトであっても。


「現状はどうなの?」

「すでにバルダザールとメルキオールは制圧されつつあります、まずいですね」

「カスパーは?」

「いまのところ無事です。使徒に攻撃されたときもそうでしたが構造的に最深部にあるのが幸いしているようです。ですが・・・」

「時間の問題ってこと。防御手段は無いの? マヤは?」

彼女はこの場にいない。もとより期待もしていなかった。カヲルを失ってまだ数日、腑抜けたまま回復していないのだ。家にも帰って来ない。この施設内にはいるようだが。

「とりあえず技術部総出で防御にあたってはいますが・・・リツコさんもマヤちゃんもいない現状では全く頼りになりませんね」

「そう・・・」

マギそのものと言えるレヰがいるのだ、今は跳ね返すタイミングを計っているだけだろう。その時からきっと始まる、本当の戦いが。






「何処に連れていくつもり?」

一旦研究室により白衣に着替えたリツコと、制服姿の加持が並んで歩いている。ほんの少し前まではたびたび見られた光景。 
しかし今は二人ともそこにいてはいけない存在だった。今のところ気にするものはいないようだが、保安部や監察部にみつかれば面倒なことになるかもしれない。

「んっ、ターミナルドグマだ」

「・・・なに考えてるの、途中でつかまるわ」

「大丈夫さ、第二種警戒体勢がしかれてる。今、内部に目を向けてるものなんていないだろう」

軽い口調で加持が答える。リツコはともかく加持は発見即射殺だろう、呑気に言えるその神経がすでに理解不能だ。 

だが、加持の言うとおり、途中何人かの職員とすれ違ったものの見咎められることも無く二人はエレベーターホールについた。 女子職員に手をあげて挨拶すらした加持を、後ろから張り倒したくなる衝動を抑えるのにリツコはようやく耐えていたが。


ドアが開く。その中から現れたのは、リツコがよく知る人物だった。

「先輩!?」

あたりに響くマヤの声にとまどいながら傍らを見ると、すでに加持は、物陰にその身を隠していた。やはり彼女に見つかるのはまずいと判断したのだろう。

少し戸惑いながら言葉を探す。久し振りに見るマヤの顔は、どこかやつれたように見える。

「なにしてるの? マヤ」

「なにしてるのじゃないですよ。どこに、どこに行ってたんですか、今まで・・・・」

みるみる瞳を潤ませながら、声を詰まらせるとマヤはリツコに抱きついてきた。反射的に抱き返す。

「ごめんなさい、心配かけて。・・・・でもあなたも何故ここにいるの? 警戒配備なんでしょう?」

嗚咽をこぼすマヤの背中をさすりながら、宥めるように言う。ここに来る道すがらに加持から監禁中に起こった出来事は聞いている。だからマヤを突き放す気にはなれない。

「・・・・すみません」

「いいけど。職場放棄してちゃ怒られるわよ、急いで戻りなさい」

そう言ってゆっくりとマヤの身体を離した。涙を流したまま、不審そうにマヤが見上げる。

「先輩は行かないんですか?」

「・・・あとから行くわ、少しすることがあるの」

「私に手伝えることがあれば・・・」

「大丈夫よ、あなたにも役目はあるでしょう?」

そのリツコの言葉に、マヤは下を向いてしまった。

「マヤ?」

「・・・・・私にはもう何も役目なんて無いです。レイちゃんももういないし、カヲルくんも殺されてしまったから」

「でも・・・・」

「確かにまだ仕事はあるのかもしれません。だけど、わからないんです。何のためにここにいるのか、ネルフが何をしようとしているのか」

「マヤ・・・・」

「それでもネルフにいるのは、ここがあの子たちとの思い出の場所だから、それだけです。あと、先輩にも会いたかったから・・・・だからもう、いいんです」

寂しそうに微笑みながらマヤが言う。その姿があまりに儚く写り、リツコは我知らず彼女を抱きしめた。

「ごめんなさい、マヤ・・・・」

「先輩・・・」

「つらい思いをさせてしまったのね、何も知らないあなたに。そしてそばにいてあげることもしなかった。ゆるしてちょうだい」

「そんな・・・先輩のせいじゃありません。カヲルくんのことは、選んだのは私自身ですから。後悔はしてません」

気丈な言葉。リツコは抱く手に力を込めた。ここにいたっても自分を庇ってくれるマヤがいとおしく、そして申し訳なかった。

もともとはただの技術者でしかなかった彼女を捲き込んだのはリツコだ。戦いの中でマヤが傷ついていると知っていながら、自分のことにかまけてろくに相手をしてやらなかった。
無関係とはいえないだろう。

「・・・・ごめんね」

「いいんです。・・・だから手伝います。ネルフのためじゃなくて、先輩のためなら、私頑張りますから」

力をゆるめマヤの顔を見る。泣き笑いになった顔は少しだけ元気が出たように見える。だが、潜んでいる加持を見せるのはやはり不味いだろう。彼のことは裏切り者だと思っているはずだ。

「・・・・あなたの気持ちはうれしいんだけど」

「駄目ですか?」

不安そうな目で見ている。発令所へ行けなどと言ってもきかないだろう。誤魔化すしかない。

「・・・・わかったわ。じゃあ、頼まれてくれる?」



「よろしくね、マヤ」

「はい、任せてください!」

リツコの研究室からいくつかの資料をもってくること、そのいいつけに不審を感じなかったようだ。

大きく返事をしてマヤが走っていく。それを見届けたあと、リツコは小さく溜め息をついた。

「やれやれ、どうなることかと思ったよ」

「それはこっちのセリフよ。可哀相に。本当は私のそばに置いておいた方がいいのに」

再びドアの開いたエレベーターの中に入り込みながら、リツコが愚痴をこぼす。しかたないとはいえ、嘘をついたことを少し後悔していた。

目的のターミナルドグマはまだ先だ。すぐに取って返しても、マヤが追ってくることはできないだろう。

「ごめんな、りっちゃん」

「・・・・いいけど、でもちゃんと話して、私たちがどこへ行こうとしているのか」

「今、俺が言うよりも、自分の目で見たほうがいい」






「カスパー、すでに6割侵食されています!」

オペレーターの声が飛ぶ。技術部の抵抗はほとんど功を奏していないように見える。

モニターに写るマギの状況を見つめながら、ミサトは後ろを気にしていた。

レヰの存在があるとはいえ、これ以上の侵食は命取りになるのではないのか。

実際冬月の顔には、少し焦りが浮かんでいるようにも見える。

動じた様子の無いゲンドウだけが、この喧騒に溢れた発令所の中で、異彩を放っていた。







「そんな・・・・・・」

ターミナルドグマの奥。おそらく一度も来たことのない部屋の中に入り、そこでリツコは絶句していた。

そこへ彼女を案内した加持は、厳しい表情をしたまま黙っている。 

そしてリツコの前には、一人の少女が座っていた。

「ようこそ、私の部屋へ・・・」

「・・・・・生きていたの? 母さん」

断崖へ自ら身を投げた彼女、確かに死体は発見されていないが助かるような状況にはなかったはずだ。

「正確には生き返っていた、ということよ。あの人の手によってね」

「司令の・・・・それじゃあ」

「そう、レイと同じ。最初の時もあの人の仕業だったのよ、別にリリスの力では無かったみたいね」

死せる魂の定着。それを行なっていたのがゲンドウならば全ての合点がいく。人の魂で実験したのだろう、ユイに同じことが可能かを。その確証が持てたから、初号機を破壊しようとしたのだ。

だが、レヰと加持、この二人がリツコを欺いていたことにかわりは無い。レヰがいるからこそ、あんなにもあっさりとゲンドウはリツコを捨てたのだろうから、利用することさえせずに。 

「死んでまでモルモットにされて・・・母さんはそれでいいの? それとも読んでたの? 私がアレを壊すって」

「さあ・・・あの人が私を必要としていた、どんな形でもね。だから許してあげることにしたわ、あの人がユイさんを求めるのを。それに、やっぱり生きてるほうがいいわよ」

二度も自ら生命を断った者の言うセリフではない気がする。しかしレヰの笑顔は晴れやかに見えた。

「それで、何をするつもり・・・・?」

「とりあえずは手助け。知ってるんでしょう、マギが攻められているのは」

「自律防御のために呼ばれると思ってたんだけど、母さんがいるんじゃその必要はないわね」

「ええ、マギは私そのものだもの。他の場所のマギもその子供たち、全ての裏コードを知っている私には手足のような存在ね。まあ、本体にいたる防御壁は各支部独自だから、普通なら簡単には侵入できないけど」

レヰが机の上の端末に視線を写す、その画面は凄い勢いでスクロールされていた。

「攻撃を仕掛けたのは向こうからだけど、そのせいで向こう側の全ての回線は無防備になっている。すでに全てのマギはこちらの制圧下にあるわ」

「じゃあ、今行なわれている侵入は」

すこし呆れた様子で加持が思わず口を挟んだ。

「偽装よ、ただの時間稼ぎ。マギへの侵食を跳ね返した瞬間、次は物理的な攻撃がくるもの。それに対応するには時間が必要でしょう?」

「全ては計画通りってこと?」

「まさか。気休めにもならないわ。籠城ってのは増援が来るときのみ効果を発揮する。どれだけ抵抗してもいずれは必ずこの施設は占領されるでしょうね、あの人もそれくらい知ってるわ」

「だったら、意味なんて無いじゃないの」

「反撃の手段が無いわけはでないもの。あの人に必要なのはそれを決断することだけ」

レヰの黄色い瞳が光る。思わず気押され、リツコたちは続く言葉を待った。

「ユイさんはすでに覚醒しているわ。でも、まだ完全じゃない。初号機の力が解放されるときとシンクロさせて、あの人自身がリリスと融合しようとしている。取り込むつもりなのよ、初号機を」

「それが・・・・サードインパクトの始まりですか。人類を滅ぼす」

「何をもって滅びと言うかによるわね。それに放っておけばどのみち滅びるんだから」

「それから?」

加持とレヰの会話をさえぎるように、リツコが先を促す。 

「ゼーレもまたサードインパクトを行なおうとしている、初号機とエヴァシリーズを使ってね。槍もアダムも無い以上、彼らにはリリスを使うことは出来ないから」

「司令はアダムを使うのね」

「ええ、融合手術もすませているわ。自分自身が依代になるつもりみたいね」

「そう、そうまでして会いに行くわけね、ユイさんに。・・・・それでどうして私をここに? 母さんが司令の手助けをするなら、あのままにしておいたほうが良かったんじゃないの?」

もともとゲンドウの邪魔をするために『レイ』を破壊したのだ、リツコはレヰのようには達観していない。今も胸の中は嫉妬で煮えたぎっていた。

「ちゃんとケリをつけさせてあげようと思って。・・・これくらいしか出来ることはないもの、私には」

「・・・・たぶん、後悔するわよ、母さん」

「あなたの好きにすればいいわ。あなたに対する禁止事項はすべて削除しているしIDも以前通り使えるはずよ。全所の監視カメラはあなたと加持くんを写さないし」

それでここまで無事に来られた理由が分かった。自由に所内を動けるなら、これ以上ここにいる必要も話すこともないだろう。部屋を出ようと踵を返し、一瞬加持の方を見る。

「・・・知ってたのね、加持くん」

「・・すまない」

「いえ・・・どうせ脅されてたんでしょう。私たちのこととか」

図星だったのだろう、加持は苦笑いをしている。別に腹は立たなかった。

レヰが生きていた、そのことはむしろ喜ぶべきだと思う。ただ、母を失ったと涙することは3度も味わいたくない、そうリツコは思った。




「良かったんですか? 彼女を行かせて」

「止めるくらいなら連れて来させたりしないわ」

ここから去った娘からはまるで興味を失ったように、机上の端末をレヰが操作する。

「・・・・・・そろそろ潮時ね」

「反撃開始ってことですね」

「いえ、本当のことを教えるだけ。支部のマギへは反撃も制圧もとっくに済ませてるもの。いい加減気づかれる頃だわ」

言いながらスイッチを押すように軽くキーを叩いた。それを合図とするかのように、画面に写ったマギへの侵攻を現す部分が全て白く反転していく。

「もうすぐ始まるわよ、加持くん。二人をよろしくね」

「戦自相手ですか。やれやれ、実働部隊はつらいですね」






何の前触れも無く、正面のモニターにうつる表示が一斉に反転した。

「な、なにが起こったの?」

「わかりません、突然マギへの攻撃が止まりました。全システム正常」

冷汗をかきながらオペレーターが答える。戸惑うミサトたちの頭上から、ゲンドウの指示が飛んだ。

「全ての迎撃システムを稼働しろ」

「は、はい・・・・しかし目標は」

「目標はマギが示す、すべて自動運行に切り換えろ。第1種警戒体勢に移行、本部内への入り口を全て封鎖する」

「了解・・・・エヴァの配置はどうしますか?」

矢継ぎ早に下る命令に答えながらミサトが問い返した。第1種警戒にはエヴァの出動を含む、それがマニュアルに載ったやり方だからだ。

「初号機、弐号機ともに現状ではケイジ内に待機。いつでも射出できるようにしておけ」

「弐号機もですか?」

動かない機体を準備しても意味はないだろう。

「ああ、伊吹一尉を発見次第搭乗させろ」

「・・・・・わかりました」

今さらマヤをのせてどうしようと言うのだろう。ミサトにはゲンドウの真意がまるで掴めない。マギへの攻撃が失敗した以上敵が新たな手をうってくるのは想像できるため、迎撃体勢を敷くのはわかるが。

「マヤはどこにいるの?」

「赤木博士の研究室です。なにか探してるようです」

「・・・至急連絡して」

その時、アラームが鳴った。

「強羅のレーダーサイトで自動反撃装置作動しました!!」

「襲われたの!?」

「いえ、先制はこちらですが。数機のヘリと戦闘状態に入ったようです!」






「ネルフから攻撃を受けました。既に反撃態勢に移行しています。若干の修正はありますが、当初の予定通り占領作戦は開始されました」

「そうか、よろしくたのむ」

第2新東京市。官房長官からの報告を受けて、この国の首相は鷹揚に頷いた。

ネルフ本部の占領と解体。ここ十年以上、政府が全く手をつけることができなかった謎の組織についにメスを入れることになる。

その発端となった、国連からもたらされた情報は、驚くべきものだった。

国連指揮下の特務機関であったはずのネルフが、命令に従っていないこと。総司令である碇ゲンドウが遂行しようとしている人類補完計画とはサードインパクトそのものであること。

つまりは人類の最後の砦のはずの組織が、実は人類を滅ぼす死神だったということだ。

それを放置することはできない。

もともとあのエヴァンゲリオンとかいう不気味な兵器を始め、ネルフには不審な点が多すぎた。そして日本国中の電気の徴用、A−17の発令、第3新東京市の壊滅など国民生活に与えた悪影響は計り知れない。

それも全てサードインパクトを防ぐという大義名分があったからこそ許されてきたのだ。

それだけにこの裏切りは万死に値する。

過大とも言える一個師団の投入を決定したのもそのためだった。必要ならばN2爆弾の使用も辞さないつもりだ。

予想よりも早い段階で抵抗を受けているようだが、よもや負けることはあるまい。国連はすでにこちらについている。いわば世界中が味方なのだ。

彼の頭の中には事後処理と、そしてネルフを潰しサードインパクトを止める主導権を取ったことが国際社会での立場にどう影響するかの皮算用しかなかった。







零号機の自爆によりその機能を大幅に失っている第3新東京市の迎撃施設、それが突然一斉に火を吹いた。今まで使徒に向けられていたミサイル群が山腹を穿いていく。そこには隠蔽された車両の群があった。

戦略自衛隊。マギ侵攻の失敗を見越して、混乱の隙に配備されていたのだ。

ジオフロントでも同様に砲火が上がる。まるで全てが見えているように、隠されていた戦車や歩兵たちを狙ってネルフから弾が撃たれていく。それを合図にしたかのように信号弾があがり、焔の中、戦自の侵攻は始まった。

降り注ぐ砲弾も、巻き上がる爆煙もものともせずに本部施設に迫る。セカンドインパクト直後に起こった混乱状態を乗り越えた軍隊は、かつて平穏な時代にこの国に存在したそれとは、明らかに異なる質を持っていた。

使徒相手に無力な存在でしかなかった彼ら。

その本領は同じ人間同士の戦いで初めて発揮されるのだろう。







「本部前防衛線、集中砲火を受けています!!」

「強羅付近のミサイル施設、全て沈黙しました!!」

オペレーターの声が発令所に響く。先制攻撃を加えたにもかかわらず、戦況は芳しくなかった。

多数の戦闘ヘリと戦車群、いくらここが武装しているとはいえ、たかだか一施設にかける戦力ではない。

「やっぱり、そうそう甘くはないわね」

次々につぶされていく拠点の様子をモニターで眺めながらミサトが呟いた。エヴァさえ出動させれば形勢は逆転する、だが、それはシンジに人殺しを強要することになるのだ。まだ決心はつかなかった。

「マヤは?」

「先程呼び出しをかけたんですが、応答しません。マヤちゃん、乗る気がないみたいですね」

「司令の命令よ、無理やりにでも乗せなさい。・・・・・シンジくんはまだ見つからないの?」

「はい、施設内にいることは間違いないんですが」

「そう・・・・とりあえず捜索を続けて、最後はあの子に頼るしかないかもしれない」

結局、シンジに全てを押しつけ、その手を汚させて保身を図る、それがミサトがやってきたことの全てなのだろう。押し付けの保護者、偽りの家族としてほんの少しのぬくもりを与えるのと引き換えに、あまりにも多くのものを彼に背負わせてきたのだ。

だからこそシンジはレイを求めたのだろうか。

レイのために、彼女を守るために、その思いでシンジが戦っているのをミサトはよく知っていた。レイの同居を認めたのも、それでシンジが前向きに戦えるならば指揮官としての自分に都合がいい、そう思ったことは否定できない。

それが全てではないにしても、シンジと対するとき打算で動いていた自分をミサトはおぼろげに気づいていた。そしてそれを負い目に感じ、いつしか真正面に向き合うのを避けていた。

だからミサトは加持を求めたのかもしれない、シンジを見ないために。 

レイを失い、カヲルを殺したシンジに、何の対処もせずほとんど放置してきたのも同じ理由。見たくなかったのだ、今の彼の姿を。

「シンジくんを発見しました!! D棟の奥です!!」

思考の底からオペレーターの声で我に返る。切り替わったモニターには、暗闇の中うずくまって座る少年の姿があった。

目を逸らすことなくそれを見据える。

そう、今こそ向かい合わねばならない。彼を壊したのはミサト自身なのだから。










〜つづく〜









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katu@osaka.104.net



解説:


本編第××話相当です、ってのが無いから、話のとっかかりがないですね(^^;

今回の表題は比較的メジャーなのかな?
けっこう嵌まってる気はするんですけど、ただ「誕生」「友情」と題名的に被ってるから。

そういう意味ではバランス悪かったかもしれませんね。





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